ビヨンセ:革命を起こし続ける圧倒的アイコンの挑戦 ーー 『カウボーイ・カーター』でふたたびアメリカ音楽に歴史を刻む

ビヨンセ:革命を起こし続ける圧倒的アイコンの挑戦 ーー 『カウボーイ・カーター』でふたたびアメリカ音楽に歴史を刻む - rockin'on 2024年7月号 中面rockin'on 2024年7月号 中面

現在発売中のロッキング・オン7月号では、巻頭特集『ビヨンセテイラー・スウィフトビリー・アイリッシュ』の中で、ビヨンセの新作『カウボーイ・カーター』の全曲解説を掲載しています。本原稿の一部をご紹介。


最新アルバム『カウボーイ・カーター』全曲解説

文=木津毅

あまりにも巨大な作品だ。ビヨンセによるアメリカを巡る三部作の第二作である『カウボーイ・カーター』は、カントリーを主たるコンセプトとしてその複雑なルーツを探りつつ、自由な発想で幾多のジャンルへとリーチして結びつけようとする文字通りの野心作なのである。曲数が多いだけでなく一曲一曲に張り巡らされた文脈や仕掛けも膨大で、世代やジェンダーやシーンに囚われずに多くのミュージシャンが参加し、さらにはビヨンセ自身のアイデンティティや個人史も重ねられる。

聴くたびに新たな発見と驚きがあるのだが、それはアルバム単体に閉じたものではなく、カントリー音楽の歴史を発掘し、その可能性を想像させるものでもある。長らく保守的な価値観と結びつけられがちだったカントリーを根本から揺るがすものであると同時に、正統に歴史につながってもいる。さらには、アメリカ史と音楽の関わりをも聴き手に考えさせる。ビヨンセは、本当にアメリカの音楽をもっと開かれたものへと変えようとしているのだ。

では、全27曲を一曲ずつ聴きながらじっくりその背景や文脈を考えてみよう。ここに書いていることもアルバムが表現しているものを思えば、ほんの一部でしかないが、この長大な旅の出発点になれば幸いだ。何よりも本作は、隅々まで音楽的な喜びに満ち満ちたものであることは間違いないのだから。

AMERIICAN REQUIEM
ゴスペルを思わせるコーラスとともに、ビヨンセはこの大作を《終わりなんてない/物事が続くためには/変わり続けなければならない》という言葉で始める。それはカントリーシーンの現状に対する彼女の意見表明であり、アメリカの過去と未来をつなぐ意思の表れのようだ。そしてそのメッセージは、他ではない「あなた」に向けられたものだという。

《いっしょに立ち上がってくれる?》と彼女は歌う。控えめだが頑強に鳴らされるアコースティックギターの調べとともに、歌唱はどんどんパワフルになっていく。また、ビヨンセはここでアラバマやルイジアナにもあるという自身のルーツの複雑さを示した上で、カントリーも同じように複雑な成り立ちの音楽であることを力強く語りかけている。

かつて“ダディ・レッスンズ”で「これはカントリーではない」と権威や保守的なリスナーから拒絶された経験に言及しながら、しかし、きっぱりとカントリーはそんな偏狭なものではないと反論しているのだ。雑多なものを許容し、共存させるものであるはずだ、と。

そしてアメリカの大地にもまた、そんな豊かな理念が埋もれているという。それらを掘り返し、カントリーの大きさを探る旅がこれから始まるのだと告げる、あまりに力強いオープニングである。(以下、本誌記事へ続く)



ビヨンセの記事の続きは、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ビヨンセ:革命を起こし続ける圧倒的アイコンの挑戦 ーー 『カウボーイ・カーター』でふたたびアメリカ音楽に歴史を刻む
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