先に配信リリースされた“創造”は、まさにそのポップ的実践の原点を見つめるような楽曲だった。時代におもねるのではなく、先回りしてもっと楽しい時代へと導いてくれるような、そんな「創作」を提示する星野源のようなアーティストこそ、ポップ先駆者と呼ぶにふさわしい。さらに、ドラマ『着飾る恋には理由があって』の主題歌として書き下ろされた“不思議”もまた、今の時代を生きる人々が漠然と抱えている不確かさに、ひとつヒントを投げかけてくれるような楽曲だ。「好き」とか「愛」とかの言葉が持つ説明し難い、けれど本当はとても丁寧に向き合うべき感情について、星野源は正面から言語化することに取り組んだ。“不思議”というラブソングは、ポップミュージックが、特にJ-POPが強く普遍性を求めた時代を経て、もう一度、もっとパーソナルな感じ方、愛し方をこそ慈しむ時代へと進むことを示唆しているとも受け取れる。だからこそ、そこで展開されるサウンドの奔放さこそが、“不思議”というバラードにはふさわしいのだ。それでいて、懐かしさと新しさが同居するような、何年もあとにまたこの楽曲を聴く自分を想像できるような、そんな「普遍」も刻み込まれている。ラブソングにこそ「その時代の思考」が宿っていたことを、あとになって実感する――そんなことをこれまでも素晴らしい音楽で何度何度も経験してきた。星野源の“不思議”も、まぎれもなくそうしたポップソングのひとつとなることだろう。
そんな“創造”と“不思議”が表題となった今回のシングルには、“うちで踊ろう (大晦日)”の新録バージョンと、もう1曲、未発表の楽曲が収録される。シングル作品なら3曲収録されていれば十分満足な昨今、そこで終わらないのが星野らしい。
さらに、今回の初回限定盤の特典映像がすごい。「初回限定“感謝”盤」には昨年7月の配信ライブ全18曲の映像に当日のドキュメンタリーを加えたディスクを。「初回限定“宴会”盤」には、YELLOW PASS会員限定配信イベントのライブパート全12曲と、作品化のための「打ち上げ」パート、そしてドキュメンタリーを収録したディスクが付属される。もちろんいずれも別途オーディオコメンタリー付きという手の込みようだ。フィジカル作品を出すということの意義を、星野源は自身の歴史のなかで、また更新しようとしている。まだ不確定な要素ではあるけれど、先日の『星野源のオールナイトニッポン』では、「(フィジカルの)音源は、音圧なんかは配信と変えたいなと思っていて」と、それぞれの聴かれ方を想定した「良い音」へのこだわりを語っていた。これはとても嬉しい。配信のスピード感とフィジカルの特別感――リスナーとしての自分も、うまくニーズの棲み分けができていなかった部分だ。そうであるならば、音楽の楽しみ方はまた多面的に広がる。やはり星野源は、ポップシーンを牽引するトップランナーなのだと、あらためて確信するのだ。(杉浦美恵)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年7月号より)
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