【連載】ロック恋愛♂解体新書♀ 野田洋次郎(RADWIMPS)編

【連載】ロック恋愛♂解体新書♀ 野田洋次郎(RADWIMPS)編
【連載】ロック恋愛♂解体新書♀ 野田洋次郎(RADWIMPS)編
世にラブソングは多く存在していて、そこに描かれる恋愛観もまた様々である。あなたが聴いているそのラブソングのなかで、いったいどんな主人公が恋をしているだろうか。なかなか決断できない女々しい男の子? 24時間ずぅっと大好きな人のことを思い浮かべているピュアな女の子? すぐに妄想をしてしまう男? お酒を飲まないと本音が言えない女? この連載「ロック恋愛♂解体新書♀」では、個性的なアーティストの楽曲からどんな恋愛観が読み取れるのか、ラブソングをもとに解体新書のごとく紐解いていく。
その第5回目では、RADWIMPS・野田洋次郎のラブソングに迫る。


例えば「曲そのもの」と恋愛することができるとして、RADWIMPSだけは勘弁してほしいと思う。なぜって、どう考えたってこっちの分が悪いからだ。
「涙は女の武器」だなんて言うけれど、逆に「男だからこそ有効な武器」をためらいなく活用しているのがRADWIMPSの、野田洋次郎のラブソングなのだ。

今さら説明する必要もないくらい、音楽における野田の愛情表現はいつも120%の出力で、とにかく惜しみがない。
《お前がおかずならば俺はどんぶりで50杯は軽くご飯おかわりできるよ》(“いいんですか?”)や、《僕が総理大臣になったら 君を苦しめる全てのものを/僕の全てをかけて苦しめよう》(“マニフェスト”)というフレーズを聴くたびに、愛の言葉とはここまで多様だったのかと驚かされる。

ラブソングに限らず、RADWIMPSの歌詞には多くの言葉遊びがふんだんに盛り込まれている。例えば“25コ目の染色体”なら、いつか生まれる君との子どもについて、《ハッピー運とラッキー運だけは一つずつ/染色体にのせてあげてほしいな》と架空の二つの染色体まで生み出してしまう。けれど、これらの愛の言葉は決して「遊び」で紡がれているわけではない。自分の感情の大きさ、強さを伝えるためにたどりついた境地なのだと思う。


自分の想い、感情をむき出しにすることを多くの人は避けるし、こわがる。こと恋愛においては、いいところを見せようとしたり傷つきたくないという理由で、取り繕って素直な感情を隠しがちだ。
ところが、野田には驚くほどそれがない。常に想いを伝えるのに全力だ。それは恋がうまくいっている時だけではなく、例えば“俺色スカイ”では《一人夕焼けにね/「お前キレイだなぁ」って/言ってみたりすると/どこか胸がぎゅっとなって泣けたりするの》と、失恋した時の情けない心情も露わにするし、“そっけない”では、《君の掴めない 恋の核心に迫るほど/恐いと思った そんな心がはじめてで》と、初恋のようにおずおずと相手に手を伸ばすつたなさも赤裸々に描き出す。

なぜ野田はここまでストレートに自分の感情を表現することができるのだろう。そう考えてRADWIMPSの音楽を見渡すと、そこにはシンプルに「恋をする喜び」があふれていることに気づく。野田は多くのラブソングの中で「君と出会えたこと」、「君を好きになったこと」、それ自体を幸福だと歌い、さらにその幸福感は自分自身を肯定することにもつながっていく。

《僕の好きな君 その君が好きな僕/そうやっていつしか僕は僕を大切に思えたよ》(“me me she”)

彼にとっては、きっと恋そのものが祝福なのだ。だから、駆け引きだとかテクニックなんてものは必要ないのだろう。


野田のこの犬が腹を見せるかのような無邪気な愛情表現を前にすると、もう降参するしかない、という気にさせられる。ストレートな愛情表現は男女問わず嬉しく感じるものだと思うけれど、特に男性が格好つけたがりな生き物というのが正しいのなら、それが開き直ってこんな丸腰の愛の言葉を紡がれたらもう打つ手がない。お手上げだ。「惚れたほうが負け」なんて言葉もあるけれど、結局、小手先の駆け引きなんて正攻法には敵わないんだと思わされる。
私たちは「何馬鹿なこと言ってんの」と線を引いてクールぶって見せながら、心のどこかではそれを飛び越えてくれるのを待っていたりするし、それを軽々と越えて見せるのがRADWIMPSなのだ。
《俺が木星人で君が火星人だろうと/君が言い張っても/俺は地球人だよ いや、でも仮に木星人でもたかが隣の星だろ?/一生で一度のワープをここで使うよ》(“ふたりごと”)、《君が全然全部なくなって チリヂリになったって/もう迷わない また1から探しはじめるさ》(“前前前世”)なんて、大げさすぎる屁理屈で。

そもそも、理屈で恋愛しようなんて思うほうがナンセンスなのだろう。心は本来コントロールできるようなものじゃないし、恋に浮かされてる状態ならなおさらだ。誰だって欲しいのは、結局《迷わずYOU!!!!》(“ます。”)と言い切ってくれる強さなのかもしれない。

ああ、だからRADWIMPSのラブソングはおそろしい。むき出しで飛び込んできて、こちらが取り繕ったことも、格好つけたことも、全部剥がしてしまうから。
そんなまっすぐな愛を前にしたら、ただ白旗を振るしかないのだから。(満島エリオ)

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