【連載】ロック恋愛♂解体新書♀ 藤原聡(Official髭男dism)編

【連載】ロック恋愛♂解体新書♀ 藤原聡(Official髭男dism)編
【連載】ロック恋愛♂解体新書♀ 藤原聡(Official髭男dism)編
世にラブソングは多く存在していて、そこに描かれる恋愛観もまた様々である。あなたが聴いているそのラブソングのなかで、いったいどんな主人公が恋をしているだろうか。なかなか決断できない女々しい男の子? 24時間ずぅっと大好きな人のことを思い浮かべているピュアな女の子? すぐに妄想をしてしまう男? お酒を飲まないと本音が言えない女? この連載「ロック恋愛♂解体新書♀」では、個性的なアーティストの楽曲からどんな恋愛観が読み取れるのか、ラブソングをもとに解体新書のごとく紐解いていく。
その第3回目では、Official髭男dism・藤原聡のラブソングに迫る。


恋愛には、誰もが通るいくつかのステップがある。恋の始まりはドキドキするもの、片想いは切なく、両想いは幸せなもの、別れは寂しいもの。いわゆる「ラブソング」と呼ばれる類が共感されやすいのは、必ずこのどれかに属する時間が切り取られているからだろう。

でも実際、どのステップにいても恋愛は単純なものではない。「好き」と「好きじゃない」、「幸せ」と「不幸せ」、「一緒にいる」か「離れる」か、そのバロメーターの針がどちらにも倒れてくれずに、行ったり来たりを繰り返すこともある。

Official髭男dismの藤原聡はそんな恋愛の複雑な時間や、心の機微を歌詞に落とし込むのが抜群に巧い。特に最近書かれたラブソングは、人間の迷いや不完全さもしっかり言葉にしている作品が目立つ。しかしどの曲も単なる「切ない恋愛」や「情けない思い出」に留まらず、人を好きになることで生まれる光を感じさせるラブソングとして、私たちの心を癒してくれる。それは、曖昧な感情の中にも差し色のように鮮やかな「真実」を残しているから。

今年5月にリリースされた“Pretender”は、聴き手の人生によって様々な型に変わる楽曲だ。筆者は、同曲をこのように捉えた。結ばれることが許されない立場で出会い、惹かれ合ってしまった2人。だからこそ「好き」だなんて軽々しく口にすることもできない。それでも何かを伝えたくて「僕」は「君は綺麗だ」という一言に自分の複雑な想いを託した――。「僕」にとっての「君」が本当はどういった存在なのか、あえてその決定的な問題を明確にしないままだからこそ、愛の言葉に代わるたったひとつの「真実」が、言葉以上の意味を持って胸に響いてくる。


これは、1stフルアルバム『エスカパレード』に収録されているバラード曲“LADY”でも同じことが言える。曲に出てくる2人が今も一緒にいるのか、それとももう離れてしまったのかはハッキリ分からない。でも、一緒にいてもうまく行かないのではないか。そんな予感をも漂わせる中、《世界で一番素敵なLADY》という歌詞がどこよりも力強く歌い上げられることで、2人がまだ想い合っている時間が黄金のように輝き出す。


この「真実」が言葉ではなく、恋愛そのものの、または人生においての本質として曲の中に存在していることもある。それは例えば、「いくら恋人同士だろうと、結局は別々の人間である」ということ。藤原はそんな2人の「違い」を決して無理に分かり合わせようとはしない。

《だから手をつないで喧嘩をしよう最高の妥協点で会おう》(“たかがアイラブユー”)

どんなに好きで想い合っていても、別の人間同士が完全に分かり合えることは有り得ないのかもしれない。これは何も恋愛に限ったことでなく全ての人間関係で言えるが、果たしてそれは寂しいことなのだろうか? “たかがアイラブユー”を聴くと、むしろ相容れない部分があるのに手を離さない方が、強い愛の繋がりに思える。恋愛も人間関係もどちらか一方の想いだけではなく、ひとりひとりの想いが絡み合って構築されているもの。本当は当たり前のはずなのに、つい見えなくなりがちな「真実」をこの曲は気付かせてくれる。


ちなみに、ヒゲダンは甘酸っぱいラブソングも多く、“SWEET TWEET”や“恋の前ならえ”、“日曜日のラブレター”といった恋愛中の高揚感がストレートな言葉で綴られた曲も人気が高い。一生分のフィルムに「君」を映し出す“115万キロのフィルム”は、結婚式で流したいと思っているファンも沢山いるだろう。そういった様々な魅力がある作品の中でも、“Pretender”などのあえて曖昧な感情が曖昧なまま書かかれたラブソング群は、ひと味違っているように思える。それらは「こうじゃなければいけない」という型にハマることがナンセンスな今の時代だからこそ、ラブソングの新機軸として聴き手の心を惹きつけ、大勢の人の人生に寄り添うのだ。(渡邉満理奈)
公式SNSアカウントをフォローする
フォローする