2020年のシングル“最も卑劣な殺人”と、アルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』があまりにも鮮やかに現代アメリカを各面から串刺しにしたものであったせいか、この2月にリリースされるボブ・ディランの70年の未発表音源を収めた3枚組『1970』の世界が、とてつもない広がりを生み出している。おそるべし、ディラン・パワー。
もともとこの作品は『The 50th Anniversary Collection:The Copyright Extension Collection』のタイトルで、ヨーロッパで限定販売され
ていたシリーズの最新作。
ヨーロッパでは、音楽著作権の保護期間が50年と定められている国があり、したがって国によっては音源の著作権がそれ以降は消滅し、その後は誰でも自由に使えるパブリック・ドメイン(公有)となりブートレグの温床となってしまうため、著作権保護の目的で作られている。
毎年11〜12月になると新タイトルがリリースされたが、そもそもの経緯から一般的なリリースではなく、ごくごくわずかな限定発売でマニアの間ではウルトラ・レア・アイテムとされてきた。
そして昨年12月に出たのが『The50th Anniversary Collection 1970』で、ジョージ・ハリスンとのセッションは入っている、“イエスタデイ”も歌っている、ときてはディランのみならずビートルズ・マニアの声も大きくなり、こうして正式リリースとなった(ちなみに同作のオリジナル・バージョンは、いまでは数万円なんて話も)。
70年のディラン音源というと、まず6月に発売された『セルフ・ポートレイト』、10月の『新しい夜明け』という2枚の正式アルバムがあって、73年のカバー集『ディラン』にも一部収録、さらに13年の『アナザー・セルフ・ポートレイト(ブートレッグ・シリーズ第10集)』、19年の『トラヴェリン・スルー(ブートレッグ・シリーズ第15集)』などにもレア音源が収録されているが、さらに深く掘って集められたのが今回の『1970』だ。(大鷹俊一)
『ロッキング・オン』最新号のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。