現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』12月号にLiSAが登場!自分の感情をぶつけるだけの、わかってほしいだけの音楽じゃなくて
自分の魂の引き出しのなかから何を乗せたらこの曲が届いていくのか、ちゃんと考えられるようになった
さらなる高みへ
――その足跡を追う2号連続インタビュー 前編
「決定的な新曲“往け”を今受け止めてほしい理由」
インタビュー=小栁大輔 撮影=藤原江理奈
”往け”という曲は、1年前にすでに生まれていた曲だ。そして、この1年、この曲の存在が、LiSAを支えてきた。
LiSAというアーティストの歩みを考えるに言うまでもなく重要な曲だが、それ以上に、巨大なヒット曲を生み、その結果として巨大な存在となっていくポップスターによって歌われるポップソングとして、“往け”という曲はとても示唆的だと思うのである。
“往け”は、LiSAが、“紅蓮華”や“炎”といった大ヒット曲を歌い続けていくなかでずっと感じてきた孤独ややるせなさ、拭えない切なさ、摩擦――といった、この世界をLiSAをとして生きていくことで感じてきた「ズレ」を歌い、そして、その「ズレ」こそを抱きしめながら進んでいくしかない、と表明してみせる、素晴らしく強い楽曲である。
新たな名曲なんじゃないか、と僕は思う。
《昔から弱虫のくせに 気づかないふりをしてきたね》
《いつも「大丈夫」って笑いながら/「変わりたい」と泣いていた》
この楽曲ではこんなフレーズが歌われている。
Ayaseが一筆書きのようにしたためた、あまりに流麗なメロディに乗せて、この極めてパーソナルな言葉が囁かれるように歌われる、その瞬間のセンチメンタリズムはすごい。
強く高く歌うLiSA――というイメージが世間に広がっているのだとしたら、その強く高く歌うLiSAをまるごと受け止めながら、抱きしめるようにして歌われるこの優しく、穏やかで、静かな歌はきっと、「まだ誰も知らないLiSA」ということになるのだと思う。
この「まだ誰も知らないLiSA」として、この静かな自己肯定を表明し、歌えた、という事実が、この1年間のLiSAを支えてきた――そんな話がこのインタビューでは語られている。
彼女自身、このインタビューの中でも「エル・アイ・エス・エー」としてのLiSA、という言い方をしているが、要するに、“紅蓮華”を歌い、“炎”を歌い、女性ソロアーティストとして初の3億回再生というとんでもないサクセスを享受する「LiSA」という存在は、LiSAにとってももはや、自身から日々離れていくような、自分ではない誰かの話をされているかのような、そんな不思議な実感とともに見つめる存在になっていたのだと思う。
しかし、LiSAは、そんな自分をまるごと抱きしめながら、「往け」と、自分自身に対して歌うことができた。「昔から弱虫のくせに、『大丈夫』って笑いながら、ここまで来たよね」と自分自身の人生を振り返りながら歌うことができた。
そんな、自分で自分を取り戻すような作業の果てに生まれたのが、この“往け”である。
時代を象徴するポップスターによる新たな名曲は、こうやって生まれてくるのだと思う。
この号では、”往け”について、そして次号では、『鬼滅の刃』との三度のタッグとなった両A面シングル『明け星 / 白銀』について、話を聞かせてもらった。
さらなる高みへと歩み出したLiSA。その現在地を知ってもらいたい。(小栁大輔)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年12月号より抜粋)