『ROCKIN'ON JAPAN』最新号(2022年8月号)New Comerより
今しかない。とにかく今、この瞬間に、輝きたい――つまるところ、ロックンロールはそんな欲望の中から生まれ、加速するのだと。ここに紹介する新鋭4ピースバンド・帝国喫茶の音楽を聴いていると、改めてそんなことを感じさせられる。彼らの新作EP『まちあわせ』の1曲目に収録される“じゃなくて”は、こんな言葉で幕を開ける――《「夢で逢えたら」じゃなくて/目の前の君の手を取りたいよ/世界は僕らのものだった》。曲の中で「じゃなくて」という言葉が出てくるのはこの冒頭部分、たった1回だけである。それでもタイトルになるのだから、それだけ彼らにとってこの否定形の言葉は、カジュアルな語感ながら、大きな意味を持っているのだろう。自分たちは何を拒み、何を欲するのか。バンドは作品の初っ端で高らかに主張しているのだ。
帝国喫茶は2020年に関西大学の軽音学部で結成された。そもそもは学園祭のためだけに始まったバンドだったが、結局、コロナの影響で学園祭が中止に。しかし、YouTubeに弾き語り動画を上げるなどの活動もしていた杉浦祐輝(Vo・G)が手応えを感じ、バンドは存続することになった。学園祭のステージでの華々しい活躍ではなく、むしろ不可抗力的にステージに「立てなかった」ことがこの帝国喫茶というバンドにパーマネントな命を与えたのだと考えれば、このバンドの成り立ちにも、彼らの音楽に全面的にたぎる「次は俺たちの番なんだ!」と叫ぶような飢餓感の源泉があるのかもしれない、と勘繰ってしまう。
EP『まちあわせ』の2曲目、andymoriを思わせる疾走感溢れる1分ちょっとのパンクソング“燦然と輝くとは”では、《燦然と輝きたい/命捨てたロックスターに捧ぐ/この歌を聴けなくて残念だな》と歌われる。ここにあるのは生きてロックンロールを鳴らす意志であり、そして「あのロックスターだって俺たちの曲で救えるかもしれない」という、孤独と哀しみへの時空を超えたシンパシーだろう。(天野史彬)
帝国喫茶、今、輝くための生きたロックンロール
2022.07.08 12:00