ゆずのブルースが描く「解なし」の重みと滋味
本誌4月号の巻頭インタビューでもふたりが話していた通り、「これまでの/いつもの正解」が雲散霧消した時代の真っ只中で、暗中模索している自分たち自身をアルバムの形に結実させたのが前作『PEOPLE』だった。“奇々怪界-KIKIKAIKAI-” “NATSUMONOGATARI”“公私混同”“ALWAYS”……という色彩豊かなカオスの乱反射を通して、正解なき「今」を映し出すという闘い方そのものの作品だったと言える。そして、あれからわずか3ヶ月のスパンを経て放たれた新作アルバム『SEES』。そこでゆずが描いた答えは――「解なし」。つまり、答えなき日常を生きているという点において、ゆずとリスナーは真にイコールである、というこれまで以上に厳粛な悟りだ。だから今作は、《楽園は僕らが 見つけんだ/ぶち破って また夢描いて》と挑戦精神を掲げる“RAKUEN”、弾けるような高揚感に満ちた“ゆめまぼろし”のポップ感と同時に、“むき出し”や“イセザキ”に象徴される「ゆずのブルースアルバム」としての濃密で切実な憂いを備えてもいる。《君が踏み出すとき 全てはそこから始まるさ》(“ゴールテープ”)という裸のメッセージが、ひときわ深い滋味を帯びて胸に響く。(高橋智樹)
「会いたい」から始まる未来
『PEOPLE』の時も感じたが、一曲一曲の質量が大きい。多くのプロデューサーを迎え色とりどりのポップを並べる作風は近年お馴染みだが、本作ではそれを踏まえたうえで、重厚なエモーションのパンチを一発、また一発と浴びせかけてくる。最新アリーナツアーで初披露された“君を想う”では、切実な「会いたい」というテーマが横たわっていた。それはコロナ禍の困難を乗り越えるだけには留まらず、幾つもの分断や諍いを抱え込んでしまった我々が向き合うべきテーマでもあるはずだ。珠玉のシングル曲“明日の君と”では作家の宮下奈都が作詞を手掛けるという驚きのコラボが行われ、THE HAJIMALSに提供した豪華キャンペーンソングのセルフカバー“AOZORA(YZ Ver.)”は、流麗なメロディを引き立てるトオミヨウのアレンジが素晴らしい。Official髭男dismの藤原聡、蔦谷好位置とともに共作した“RAKUEN”は、タッグによる豊穣な音楽性で入り組んだ感情に立ち向かう。織田信長が好んだ幸若舞「敦盛」の一説を大胆に引用した、岩沢厚治作の“ゆめまぼろし”も強烈。出会いと共鳴が、ゆずの中から新たな力を導き出したアルバムだ。(小池宏和)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年8月号より)
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