ページをめくる手は止まらない
聴き終えてため息が出た。このミニアルバムに注がれた熱量や情報量の総量は、普通だったらアルバム2、3作をかけて描き切るようなものだろう。それをミセスはたった6曲でやってしまっている。“ニュー・マイ・ノーマル”は間違いなく狼煙だと思っていたが、それどころではない。大森のボーカルの持つ華を思い切り伝えてくるソウルナンバー“ダンスホール”に、デュエットソングにすることでミセスのスタイルを軽やかに刷新してみせる“ブルーアンビエンス(feat. asmi)”、大森のソロとミセスの物語を繋ぐミッシングリンクのような印象も受ける“君を知らない”に、サポートメンバー(ドラムは元赤色のグリッターのクラカズヒデユキ、ベースは元Shiggy Jr.、現THE 2の森夏彦)のグルーヴがいかにバンドが更新されているかを物語るロックチューン“延々”。始まりも終わりも、一抹の寂しさも絶えない希望も、すでに彼らは描き切ってしまっている。そしてその先で、また彼らは始めるのだ。《あの橋の向こうで 君を待ってる》という言葉とともに新たなスタートのようにして終わる“Part of me”が、早くも次への期待を掻き立てる。(小川智宏)彼らの進化スピードに追いつけ
この『Unity』を聴いて、バンドとしての進化に驚きを感じるのと同時に、Mrs. GREEN APPLEがこのフェーズ2を迎えるにあたって活動休止の時間を必要とした理由が少し理解できた気がした。大森元貴のソングライティング(および歌唱)の進化と拡張のスピードは作品をリリースするごとに増していき、ともすれば時代の遥か先へと進み出て常人の理解をぶっちぎってしまうようなプログレスでもあったと思う。自身から湧き出る音楽の進化スピードと時代性や普遍性とのバランスを見つめ直すため、彼らは一度「止まる」必要があったのではないか――そう感じてしまうほどに『Unity』はポップミュージックとして突出したオリジナリティに溢れる。“ブルーアンビエンス(feat. asmi)”の安易に寄り添わないハーモニーのあり方にも、“君を知らない”のベルベットのような肌触りの歌声にも、“延々”のギターとシンセが絡み合うカオスにも、他の追随を許さない圧倒的なクリエイティビティが光る。そしてラストの“Part of me”。生きる意味を問うような深遠なる歌は、様々な苦悩や音楽の喜びを知る彼らだからこその美しさで輝いている。(杉浦美恵)(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年8月号より)
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