先週からの大きなニュース。今日もまだ民放局でも報道されているけど、1月24日にニール・ヤングが、ワクチン接種の誤情報を拡散するとしてアメリカで最も人気のあるSpotifyのポッドキャスト「ジョー・ローガン・エクスペリアンス」を抗議。
ローガンのポッドキャストを独占配信するSpotifyに、「ローガンか、ヤングのどちらかを選べ。両方はダメだ」と、ポッドキャストか、自分の全楽曲のどちらかを選ぶようにと迫る公開書簡を彼のウェブサイトで発表。1月26日までに彼の楽曲は全て削除された。
https://neilyoungarchives.com/news/1/article?id=Its-Neil-Youngs-Free-World-Not-Joe-Rogans
その全文は以下の通り。
「Spotifyへのメッセージ。
ルックアウト・マネージメントFrank GirondaとワーナーブラザーズTom Corsonへ。
Spotifyに直ちに、俺の全楽曲を今すぐ削除すると伝えて欲しい。
俺が全楽曲を削除するのは、Spotifyが、ワクチン接種に関する誤情報を拡散しているからだ。
人が死ぬ可能性がある誤情報が、それを信じる人たちによって拡散されてしまう。
今日直ちに削除の手続きに取り掛かって欲しい。どのようなスケジュールで削除されるのか知らせて欲しい。
今日直ちにSpotifyに、俺の全曲をSpotifyのプラットフォームから削除すると伝えて欲しい。
Spotifyはローガンか、ヤングのどちらかを選べ。両方はダメだ。
ありがとう。地球に愛を。体に気をつけて。
ニール・ヤング」
以下その後の大まかな流れ:
1) Spotifyは、ジョー・ローガンを選ぶ。
2) Spotifyから、ニール・ヤングの全楽曲が削除。
3) ジョニ・ミッチェルも「ニール・ヤングに賛同する!」と言うメッセージを1月28日に彼女のウェブサイトで発表。全楽曲をSpotifyから削除。
https://jonimitchell.com/news/newsitem.cfm?id=1592
「Spotifyから私の全楽曲を削除することにしました。この件に関してニール・ヤングと、世界的な科学者、医療関係者と団結し、立ち上がります。
ジョニ・ミッチェル」
4) 2人のアイコンが反発したことにより、Spotifyへのバックラッシュが始まる。
Spotifyをキャンセルしよう、ニール・ヤングに賛同、という運動が起きた。#CancelSpotify #IStandwithNeilYoung などのハッシュタグもできた。さらに、Spotifyに抗議が殺到したため、電話によるカスタマー・サービスを一時閉鎖する事態となった。
5) ニール・ヤングが、音質が最悪とSpotifyをさらに攻撃。「Spotifyを使うことは、このアート・フォームを破壊することだ」
Spotifyは質より量で、大量の曲を配信するために、音源の5%しか配信してない。違うストリーミング・サイトに変えろと訴えている。
1月28日にニール・ヤングが、自分のサイトに投稿した内容。
https://neilyoungarchives.com/news/1/article?id=Spotify-More-Songs-Less-Sound
「Spotifyから全曲削除して、気分が良くなった」とはじめ、
Spotifyは配信する曲数を増やすために、音質を5%に下げて配信している。だから音源の95%は聴かれていない。
AmazonやApple Musicなどは100%で配信している。クソみたいなサウンドのSpotifyより音が良い。
「Spotifyを使うことは、このアート・フォームを破壊することだ。アートよりビジネスを取るということだ。
Spotifyは本来の音質の5%しか配信していないのに、あたかも本物かのように君たちから金を取っている。
Amazon, Apple Music, Qobuzは、現在本物を配信している。Spotifyは、開始当時から君たちから金を騙しとっている。Spotifyの音では鳥肌すら立たない!」
だから本物の音源を配信している他のストリーミング・サイトに変えろと訴えている。
→ この後、AMAZON MUSICに初加入のファンには、4ヶ月の無料配信サービスをすると発表。またAPPLE MUSICも大好きだとし、自らのウェブサイトでも最高音質で聴けるとツイートしている。「俺は、Danile EkがSpotifyを始めた当初会った。その当時は本当にやる気だったのに。でもあれは随分昔のことだ。一体何が起きたんだろう。
Spotifyを離れて、気分が良くなった。
俺は言論の自由を支持するし、検閲に賛同したことはこれまで一度もない。それに私企業は、何から利益を得るのか選ぶ権利がある。それは俺が、人に有害な情報を拡散することをサポートするプラットフォームで俺の音楽を配信しないことを選ぶ権利があるのと同じだ。俺は、医療の現場の最前線に立ち、毎日自分たちの命を賭けて他の人たちを助けるために戦う医療従事者と団結して立ち上がることを幸せに、そして誇りに思っている。
予想していなかったボーナスだが、それ以外の場所では俺の音楽はより良く聴こえる。
地球に愛を。
体に気をつけて。
ニール」
https://neilyoungarchives.com/
→ APPLE MUSICが大喜び(笑)。
6) Spotifyの株が、ニール・ヤングが楽曲を削除した26日から28日までの間に、6%下落。約20億ドルの消失と報道された。また、サンフランシスコ・クロニクル・データベースによるとナスダックのデータでは、12%以上も下落し、40億ドル以上消失したと報道されている。
7) Spotifyが、1月30日新規定を発表。「注意喚起」表示。しかし、問題となっているポッドキャストは削除しない。
バックラッシュと株価の暴落を受けて、Spotifyは、新規定を設定した。コロナ、ワクチン接種に関する誤情報対策として、新型コロナウィルスに関して論議となるような内容を含むポッドキャストには、「注意喚起」の表示をし、コロナウィルスに関するデータに基づいた最新情報を提供するポッドキャストへのリンクを表示することにした。
しかし「番組の検閲はしない」とし、肝心のジョン・ローガンのポッドキャストを削除するわけではない。
8) ジョン・ローガンが、「気分を害した方へ、申し訳ありませんでした」と謝罪する。
「今後、より良くなるように頑張る」とインスタなどでコメント。ただし、自分は論争を巻き起こしたり、誤情報を拡散するのが目的ではなくて、メインストリームのメディアとは違う意見を聞こうとしただけ、と内容は擁護している。
さらに今後改善できることがあるとすれば、論争が起きそうなテーマについて語る時は、その反対の意見を持つ人を呼ぶようにする、自分がそのテーマについての情報を事前にもっと把握するなどしたいと思うと語っていた。
9) 1月31日のNY株式市場で、Spotifyの株価が13.5%急伸。
ここまでが最新情報。
ちなみに、ローガンのポッドキャストで、ワクチン接種などに関する誤情報が問題となったのは、今回が初めてではない。1月半ばに、ローガンのエピソードが公開された後、270人以上の科学者、医療従事者、教育者がSpotifyに公開書簡を送り、Spotifyに、新型コロナウィルスに関する誤情報を取り締まるように要請していた。
https://spotifyopenletter.wordpress.com/2022/01/10/an-open-letter-to-spotify/
問題となったポッドキャストの中で、ローガンは、免疫学者であるRobert Maloneにインタビュー。彼は、mRNA技術を用いたワクチンに効果がないという主張をし、ワクチンに反対していた。彼のツイートやYouTubeはその前に誤情報を拡散するという理由で使用禁止となっていた。その後でSpotifyの番組に出演した。
ローガンは、それ以外にも、コロナは、計画された実験だったと主張する医者や、一度感染した人は永遠に抗体があると主張する医師なども招いていて、以前から問題となっていた。またそれ以前にも、若者は、コロナ感染を心配する必要がないなど、物議を醸し出す発言を度々していた。
ローガンは、2009年にポッドキャストを開始し、2015年10月までには1ヶ月で1600万回ダウンロードされ、無料のポッドキャストとしては最も人気のあるポッドキャストとなった。2020年に、Spotifyが1億ドルで独占契約。1100万人ものリスナーがいるアメリカで最も人気のあるポッドキャストとなった。
なので、Spotifyがニールか、ローガンと迫られた時に、ジョン・ローガンを選ぶのは明白だ、と誰もが予想していた。ニール・ヤングは、Spotifyに毎月600万人のリスナーがいたそうで、彼がストリーミングから得る利益の60%はSpotifyから得ていた。つまり、彼は自分への利益より、彼が大事だと思うことを選んだことになる。
ニール・ヤングがSpotifyは、「アートよりビジネスを取る」と指摘しているが、Spotifyはこれまでもずっとそうだったと思う。なので、ある意味一貫している。今回ニール・ヤングの反発が株価に直接ダメージを与えたことが効果的だった。アメリカのメディアなどは、ローガンが謝罪したことが珍しいのと、Spotifyが今後透明性のある規定を設定することになるのが前進だと報道していた。
Spotifyは過去にも、何度もアーティストに批判されてきた。
記憶にあるだけでも、2014年にテイラー・スウィフトが「音楽はアートで、貴重なものだ。貴重なものには支払いがされるべきだ」と、アーティストへの支払い額を批判して、Spotifyから削除した。2017年に配信開始した。
2013年にピンク・フロイドも、公平な支払いをするように要求。
2013年に、トム・ヨークも「ミュージシャンはSpotifyと戦うべき」とコメント。
2014年に、デヴィッド・バーンは、「Spotifyは、アーティスティックな音楽の未来を危険に晒している」と発表。
2015年に、ピート・タウンゼントは、「自分はSpotifyを使っているから完全に偽善者みたいだけど、Spotifyの経営者はたぶんファッキング詐欺師だと思う」と発言。
2015年に、ジョアンナ・ニューサムは、「アーティストへの支払いを回避するためにゼロから作られたビジネスで、メジャー・レーベルの極悪な陰謀団みたいなもの」と発言。
忘れられないのは、ブラック・キーズのドラムのパトリック・カーニーが2014年に言っていたこと。
ちなみに、ダニエル・エクは現在38歳で、資産は50億ドルと言われている。ポール・マッカートニーは、資産12億ドルと言われている。「誰かがそれで金儲けしているなら、アーティストには公平な支払いがされるべきだ。
だけど、Spotifyのオーナーは、資産30億ドルと言われていて、それってポール・マッカートニーより金持ち。しかも彼はまだ30歳で、1曲も曲なんて書いたことがないのに」
今後は、Spotifyに限らず、アーティストへ支払われる金額も含め、全体としての規制を作るしかないのでは?とも思う。
ストリーミング・サイトの現在世界での加入者シェアは以下の通り。
Spotify 32%
Apple Music 16%
Amazon 13%
Tencent Music 13%
Google 8%
また各ストリーミングが曲を1回ストリームしてアーティストに支払う金額と、$1000払われるまでのストリーム回数(全て推定)
Tidal 0.12ドル、8,333回
Apple Music 0.01ドル、100,000回
Amazon Music 0.004ドル、250,000回
Spotify 0.0033ドル、303,030回
YouTube Music 0.002ドル、500,000回
サウンド・クオリティは、いくつかのサイトを見るとニール・ヤングが勧めているように最新のAmazon Music HDが一番高いようだ。
アメリカでは、次がTidal HiFi, 次がApple Musicで最後がSpotify。ただSpotifyもHiFiのサービスを今年開始すると発表している。
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