オウテカに身を浸す、その所要時間4時間超。最新作『elseq 1-5』について

オウテカに身を浸す、その所要時間4時間超。最新作『elseq 1-5』について

UKグリッチ・ミュージックの大ヴェテランであるオウテカは、新曲“feed 1”公開から6日後の5月19日、突如として約3年ぶりのニュー・アルバム『elseq 1-5』をデジタル・リリースした。全21トラック、4時間以上にも及ぶ大ヴォリュームであり、『elseq 1』から『elseq 5』までの5編として構成されている。各編の再生時間が40~50分台なので、5作組のアルバムと考えれば良いかも知れない。公式オンラインストア(https://autechre.bleepstores.com)にて3種のファイル形式(価格もそれぞれ異なる)で購入することができるほか、各編を別個に入手することも可能。注目タイトルのサプライズ・リリースが相次ぐ2016年にあって、とりわけ『elseq 1-5』は独自の流通方法を貫いている。

ヴォリュームがヴォリュームということもあり、通して聴くのはなかなか骨が折れる(この記事を書くのにも随分時間がかかってしまった)。リリース後のSNSやウェブ記事上には、戸惑いの声も幾つか見られた。しかしこのアルバムは、決して熱心なファンのみに向けられた作品ではないし、ましてや雑多なトラック群の寄せ集めでもない。デジタル限定という時代を象徴するようなリリース形態でありながら、アルバムという表現の単位を、またそれによって得られる作品としての性格を、強く打ち出しているのだ。

例えば、『elseq 2』の“elyc6 0nset”は全トラック中最長の27分台という再生時間だが、1トラックの中でドラマティックな展開を描き、オウテカの衰えぬ創作意欲をたっぷりと伺わせる内容だ。また、『elseq 3』は、5編の中でも際立って即興性が強く、ライヴ時のオウテカを想起させる作風となっている。そして『elseq 5』は、最新の洗練を見せつけることにより、オウテカが唯一無二のサウンドとグルーヴを更新していることをきっちりと印象付ける。リスナーの脳内に、陶酔と覚醒を繰り返し引き起こすような内容だ。

この奔放にして入念な「アルバムという概念」の提示を、好意的に受け入れているリスナーの声が見られることはとても喜ばしい。間もなく結成30年に至ろうとするオウテカは、極めて真摯にコンスタントにリリースを続けてきた上、近年はアルバムと同時期に製作したトラック群を立て続けに発表するなど、音源リリースに確かな意味を見出そうとしてきた。時代の最先端を行くリリース形態の中で、同時に世代を引き受け、アルバム作品としての価値を最大限に引き出すこと。そんなアクロバティックな創作の成果だからこそ、『elseq 1-5』はこれほどのヴォリュームとなったのだ。(小池宏和)
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