会場に入ると、人、人、人。開演が近づくにつれ、「前に一歩詰めてください」と2、3度アナウンスがあるほどの大盛況ぶり。客層もとても幅広く、夫婦連れ、サラリーマン、学生、また女性客の姿も多く目に付き、まさに世代もジャンルも超えて愛されている音楽であることを実感した。CHON(チョン)はインスト・バンドの無限の可能性を知らしめる存在と言っていい。
結成は08年に遡り、一見風変わりなバンド・ネームは「Carbon(炭素)」、「Hydrogen(水素)」、「Oxygen(酸素)」、「Nitrogen(窒素)」の頭文字から取ったそうだ。彼らは野外フェス「コーチェラ・フェスティバル」を筆頭に様々なフェスに出演、日本でも「朝霧JAM 2017」に続き、「FUJI ROCK FESTIVAL ‘19」に初出演して大きな話題を呼んでいる。今回は約3年ぶりとなる東名阪に及ぶ来日ツアーが行われ、最終日の渋谷CLUB QUATTRO公演は完全ソールド・アウト。
熱気溢れる会場にマリオ(G)、エリック(G)、イサイア(B)、ネイサン(Dr)のメンバー4人(エリック以外は3兄弟)が揃うと、前半は昨年7月に発売された3rdアルバム『CHON』の楽曲を中心に披露。最新作は贅肉を極力削ぎ落としたバンド・サウンドへと回帰していた。4人の正確無比な演奏力はCDと寸分違わぬ再現力を発揮し、音の分離もすこぶるいい。永遠に聴いていられるような耳心地の良さ。マス/ポスト・ロックを掲げた音楽性はジャズ、フュージョン、プログレ、メタルの要素も漂わせ、変拍子や難解なフレーズをバシバシ決めてくる超絶技巧。けれど、眉間に皺を寄せて腕組みして聴くというよりも、心がフワリと軽くなり、自然と笑顔にさせられるサウンドなのだ。
6弦ベースを操るイサイア、手数の多いネイサンのドラミングにも惹き付けられるものの、やはりマリオとエリックのツイン・ギターの掛け合いが最大の聴き所。タッピングはもちろん、スムーズなフィンガリングから繰り出される流麗な音色に押し付けがましさは皆無。晴れ渡る空、白い砂浜など、大自然と共鳴したオープンな空気感で聴き手を優しく包み込んでくる。その感性は、彼らが育った南カリフォルニアという大地から授かったものが大きいに違いない。テンポはだいぶ遅めだが、個人的にはサブライムに通じる心地よさを感じた。
アンコールではエリックのボーカルが入った“Can't Wait”を披露。甘くもけだるい歌声がまたセクシーで、観客から熱いシンガロングが巻き起こるほど。ラストはメタル度高めの“Perfect Pillow”で締め括り、フロアは激しく揺れる大フィーバーぶり。ライブ自体は1時間強というコンパクトな内容だったのだが、密度の濃い演奏に集まった観客は大満足の様子だった。演奏力は恐ろしく高いが、音楽的敷居は低い。テクニカルだけど、圧倒的にメロディアス。それが幅広い層に受け入れられる理由なのだろう。(荒金良介)
<Set List>
Bubble Dream
Story
Petal
Ghost
Cloudy
Visit
Book
Knot
Puddle
Elliptical Illuminations
Newborn Sun
Intro/Peace
Rosewood
Pitch Dark
Sleepy Tea
Waterslide
Encore:
Can't Wait
Perfect Pillow