「君」を輝かせ続けるロックバンド=Mr.Childrenの存在証明。20作目のアルバム『SOUNDTRACKS』を読み解く

Mr.Children『SOUNDTRACKS』
発売中
ALBUM
Mr.Children SOUNDTRACKS
《誰の目にも触れないドキュメンタリーフィルムを/今日も独り回し続ける/そこにある光のまま/きっと隠しきれない僕の心を映すだろう》(“Documentary film”)

通算20作目のオリジナルアルバムに、Mr.Childrenは『SOUNDTRACKS』というタイトルを与えた。「自分が主役として輝くための舞台装置」としての音楽ではなく、「楽曲に触れるリスナーが『人生の主役』である」ための歌とサウンドを響かせてきたMr.Children。最前線での闘いの日々すらも自らの日常として受け止め、「君」が輝くための音楽を自分たち自身の至上の喜びとして享受する。彼らがロックバンドとして生み出す楽曲が、今を生きる僕らの力強い鼓動になっていく――というMr.Childrenの核心が、改めてバンド自身のアティテュードの象徴としてタイトルに掲げられた、ということだ。

全曲ロンドン&LAレコーディングによって制作された今作のサウンドは、バンドの表現に新たな装飾や武装を加えるためのものではなく、むしろ彼らの音楽を編み上げているタフな構造体を丹念に抽出し磨き上げた、とでも言うべきものだ。それによって、聴く者がその物語性の中によりいっそう深く入り込み想いを重ね得る「余白」が生まれ、やがて幾多のエモーションが渦巻く雄大なポップの絶景を繰り広げていく――というイメージが、“Brand new planet”や“The song of praise”でのシンガロング必至のコーラスワーク、“Birthday”のダイナミックな高揚感をはじめ、今作の随所から湧き上がってくるはずだ。前作『重力と呼吸』でのバンドサウンドの肉体性とは一線を画した、しかし確実にデビュー以降28年に及ぶキャリアの迫力を感じさせる今作は同時に、これまでのMr.Childenのアルバムの中で最も優しい包容力をも備えた作品として響いてくる。

《四半世紀やってりゃ色々ある/あちらを立てれば こちらは濡れずで破綻をきたしそうです》とブルージーな哀愁を逆噴射させながら極彩色のポップを突き上げる“DANCING SHOES”。《静かに葬ろうとした/憧れを解放したい/消えかけの可能星を見つけに行こう》と聴く者の内なる「不滅の青春性」を熱く強くドライブさせてみせる“Brand new planet”。《みんな いずれ/そこに逝くからね/生きたいように/今日を生きるさ》と「終末の景色」越しの生命の手触りを、フォーキーな質感とともに歌った“losstime”……。今作に収められた10の楽曲は、憂いや悩みでこんがらがった僕らの日々のサウンドトラックであるのみならず、時代の荒波の中で憂い悩みながら音楽を紡ぎ続け、さらに「その先」を見据えて邁進するMr.Children自身の渾身のサウンドトラックでもある。

同じ時代を生き、同じ楽曲を通して、最高のロックバンドと僕らが同じ景色を共有し、悲しみも喜びも分かち合う――。誰もが当たり前に謳歌してきたコミュニケーションの形が、どれだけ得難い奇跡であったかを、このコロナ禍の中で否応なしに痛感している人も少なくないことと思う。そんな中で、《僕だって小さな歯車/今なら 違う誰かの夢を通して/自分の夢も輝かせていけるんだ》(“The song of praise”)と「同じ現実」をこの上なく晴れやかに歌い上げる桜井和寿の歌は、ロックの希望であり存在証明そのものだ。(高橋智樹)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年1月号より)

【JAPAN最新号】Mr.Childrenの究極の到達点――20年ぶりの海外レコーディングで生まれた最新アルバム『SOUNDTRACKS』をメンバー全員で語り尽くす!
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