『ROCKIN'ON JAPAN』最新号(2021年1月号)New Comerより
この現在19歳のシンガーソングライターはすごい。2019年からYouTube動画で注目を集めてきたアーティストだが、経歴や素顔、人となりについては依然として謎に包まれている。当初Anonymousというアーティスト名を用いていたが、今から約1年前に投稿されたメッセージ動画によれば「匿名の=anonymous」の語をもじり、際限なき可能性の意味を込めたアルファベット最後の文字「Z」を加えたのだそうだ。ある日自分の名前を失ってしまった彼女は、本当の名前を見つけるために歌い続けるのだという。つまり、ミステリアスなAnonymouzとは彼女の名前ではなく、本当の名前を見つけるまでの仮のエイリアスなのである。
Anonymouzはこれまで、RADWIMPSをはじめ、Official髭男dismや米津玄師、King Gnuに宇多田ヒカル、藤井 風やYOASOBIらの人気曲を英語詞でカバーし動画公開してきたのだが、驚かされるのはそのクオリティの高さだ。Anonymouzの美しくエモーショナルな歌声もさることながら、日本語でしたためられた歌のキャッチーな響きとストーリーを損なわず英語詞で歌うには、ただ文章を翻訳するのとは違う、言葉の音楽的な響きに対する高度な理解と感性が必要だ。苦心して自らの楽曲を日本語詞と英語詞で歌い分けてきたRADWIMPS・野田洋次郎が賞賛を惜しまないところにも、Anonymouzによる英語詞カバーのすごさが表れている。まさに、彼女は仮のエイリアスのまま、カバー曲を通じて驚異的な作家性と可能性を知らしめてきたのである。
2020年4月にリリースされたデビューEPはズバリ『No NAME』。この11月には2作目のEP『Addiction』が届けられた。英語詞を中心にしながら日本語の歌詞も交えたオリジナル曲の数々は、オルタナティブな刺激を振りまきつつ最先端ポップの機能性を兼ね備えた、新人にあるまじき完成度を誇っている。Anonymouzが本当の名前を探す旅は、我々が進むべき未知の未来へと続く道と、重なっているのだろう。(小池宏和)
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Anonymouz、本当の名前を探しにゆく歌声
2020.12.09 12:00