前作『ホームタウン』はとても野心的に、サウンドのクオリティとそこから生まれる快感を追求した作品だった。その挑戦は単純に「邦楽的/洋楽的」という二軸で語れるようなものではなく、ロックバンドという表現形態にふさわしい音像、ロックバンドという「形」の魅力をブーストする音質をどう実現するかというトライアルだったと思う。今作『プラネットフォークス』はある意味でそのコンセプトをさらに押し広げたところで作られている。
過去最多の14曲というボリュームの中で、今作のアジカンが鳴らしている楽曲はじつに多彩で自由だ。重厚なギターでサイケデリアを描きながら美しいファルセットのサビで伸びやかに飛翔するビッグスケールの“De Arriba”、シティポップなサウンドが新鮮な“雨音”、ループ感のあるアコギのサウンドにのせて時代と自身の来し方に対するシリアスな心情を覗かせる“Gimme Hope”。それぞれの楽曲でそれに相応しい音色、アレンジが熟考されている。だが本当にすごいのは、そういうアルバムであるにもかかわらず全体の印象としてはアジカンらしい安心感と安定感がまず来るというところ。“Dororo”“ダイアローグ”“エンパシー”といったシングル曲もまさにそうだったが、2020年代のアジカン・スタンダードがこれだという感じがする。その白眉といえるのがchelmicoのRachelとOMSBをフィーチャーした“星の夜、ひかりの街”。ロックバンドとラッパーのコラボのよくあるパターンを想像すると驚くはずだ。ここでもふたりのラップは、アジカンの王道をアップデートするために存在している。(小川智宏)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年5月号より)
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