MAN WITH A MISSION、10周年の功績に寄せて――憧れさえも追い越して、その先に見えたロックの景色

MAN WITH A MISSION、10周年の功績に寄せて――憧れさえも追い越して、その先に見えたロックの景色
本来なら、「夏の苗場で21年連続のキャンプ生活をした挙句、次の週末にまた苗場に行けってのか? OK、やってやろうじゃないか」という意気込みで、このテキストを書いているはずだった。しかし周知のとおり、MAN WITH A MISSIONがフジロックのステージをジャックして開催する予定だった野外フェス&ワンマン「THE MISSION」は、新型コロナウイルスの影響で中止のアナウンスがなされてしまった。日本でのバッド・レリジョン(MWAMのライブ登場SE“Man With A Mission”でもお馴染み)とのイベント共演はこれで通算3度目になるはずだったけれども、僕はこれまでに一度も観ることができていなかったので、今度こそ、と楽しみにしていた。唯々、無念である。

そんな時に、企画アルバムとして届けられた『MAN WITH A “B-SIDES & COVERS” MISSION』はバンド史上初のオリコン週間アルバムチャート1位を奪取し、続いて『MAN WITH A “REMIX” MISSION』も1位を記録した。シーン全体でリリースが大きくズレ込んだり、流通が滞ったりとイレギュラーが起こりやすい時期ではあるけれど、収録曲の大半が既発曲であるにもかかわらず、このチャートアクションはすごい。ベスト盤『MAN WITH A “BEST” MISSION』も楽しみだ。MWAMのアニバーサリーイヤーには様々な形でコロナ禍が影を落としたが、チャート上の嬉しいニュースは多くのファンが「今できること」を尽くして祝祭感を盛り上げようとした結果なのかもしれない。そういうわけで本稿では、「MAN WITH A MISSION の10年間の功績」について、改めて振り返ってみたい。


2010年、地球温暖化の影響で南極の氷から解凍されてしまったオオカミの頭を持つ究極生命体5匹は、ロックバンドとして目を見張る勢いでシーンを席巻していった。僕が初めて彼らの音源作品に触れたのは、たしか地元のTSUTAYAで初の全国流通盤となるミニアルバム『WELCOME TO THE NEWWORLD』がプッシュされていたからだったと思う。初めてライブを目の当たりにしたのは、翌年の夏フェス「BAYCAMP 2011」だ。真夜中のステージで新人にあるまじき「出来上がっちゃってる感」のキャッチーさとエンタメ性を振りまき、そのうえでしっかりとロックしているパフォーマンスの精度にびっくりさせられたのを思い出す。やたら高性能なミクスチャー・ダンス・ロックと化した、ニルヴァーナ“Smells Like Teen Spirit”のカバーもプレイされていた。その頃にはすでに確固たる支持基盤を築き、フェスやイベント、対バンなどでも引っ張りだこ状態のMWAMではあったけれど、「このバンドは売れる」という予感どころか、「もし売れないならこれをやっている意味がない」というぐらいの、切実さすら伴う高度な戦略に唖然としたものだ。

ロックと呼ばれる表現スタイルがこの世に誕生してから半世紀以上が経過しているので、今日では幅広い年齢層のロックファンが、いろんな時代の、世界の様々な地域で生まれたロックを聴いている。でも僕は、ロックはやはり若者が夢中になって聴くべき音楽であり、若者が率先して飛び込むべきカルチャーだと思っている。理由はいろいろあるけれど、簡単に言えばそうしないとロックが古びてしまうからだ。ロックリスナーとして年齢を重ねると、もちろん耳が肥えたり、感性が耕されて価値観が変わったりもする。しかし、僕がロックアーティストと向き合う時に最も大切にしているのは「中学生の自分に訊く」ことだ。自分のなかのロックキッズはワクワクしているかどうか。そうすると、若いリスナーにも支持されるベテランアーティストの存在感や、次世代を担うニューカマーの登場にも敏感でいられる。何が言いたいかというと、MWAMが登場した時、自分のなかにいる中坊のロックキッズが前例を見ないほど大騒ぎした、という話である。


ロックキッズの視点でMWAMのキャリアを振り返ってみた時、とても重要なターニングポイントがあった。通算3作目のフルアルバム『Tales of Purefly』だ。あのアルバムは、2010年代に生み落とされた偉大なロックオペラ作品であり、少年心をくすぐりまくるロックファンタジーであり、ロックのジュブナイルだった。若いリスナーの感性を射抜くコンセプトががっちりと練り上げられていたわけだが、『〜Purefly』のすごさはそれだけではない。あのファンタジックな世界観を用いることで、MWAMはそれまで得意としていたソリッドかつアップリフティングな爆音ロックだけでなく、よりフォーキーで豊かな音楽性を獲得した。それは、変化するロックバンドとしての音楽的探究心を充分に満たすものでもあっただろう。つまり、キッズのハートを持ちながら、ロックバンドとしての成長を刻みつけるというアクロバティックなことをやってのけたのである。つくづく、オオカミたちの抜け目のない戦略に驚かされたものだ。近年の、大型ライブ会場に映えるストリングスやホーンセクションを絡めた壮大なアレンジも、元を辿れば『〜Purefly』期の飛躍がヒントになっているのではないだろうか。

またその時期と前後して、MWAMは海外ツアーに積極的に取り組むようになり、『Beef Chicken Pork』など海外向けの音源作品もリリースするようになった。当初から邦楽ロックの先駆者だけでなく、洋楽ロックへのリスペクト精神も溢れ出させていたオオカミたちは、来日アクトのサポートなども含めて(というか、洋楽アーティストのライブに出掛けるとMWAMを観る機会が多かったし、オオカミたちも自身のライブに洋楽アーティストを招いた)、いよいよ本格的に海を股にかけた活動に乗り出すことになる。ここで重要なのは、MWAMのデビュー時にはすでに隆盛を見せていたフェス文化との関わりだ。日本で行われるロックフェスには、邦楽と洋楽がミックスされたフェス、邦楽アクト主体のフェス、そして「Ozzfest」や「KNOTFEST」などのように海外発祥で日本に上陸を果たすフェスと、大きく分けて3つのタイプがある。MWAMがすごいのは、デビュー直後からそのすべてを活躍の場にしてきたことだ。あたかも、リスナーの嗜好に対して邦楽/洋楽の垣根を越えた影響を及ぼそうとしているかのように、ありとあらゆるフェスに出演し続けてきたのである。今日では決して珍しいことではないけれど、10年前、邦楽リスナーと洋楽リスナーの嗜好の差異は今よりも色濃く表れていたはずだし、タイアップ曲をガンガン手がけるようなポップミュージックの人気者が、洋楽ロックアーティストとステージを共にするなんてのは珍しいことだった。もし、あなたがこれをおかしな話だと思うのなら、それはMWAMが常識を塗り替えたということである。


「SUMMER SONIC 2019」の東京2日目、MARINE STAGEを驚喜させたMWAMの勇姿を、僕は決して忘れないだろう。通算20回目、初の3日間開催というアニバーサリーを迎えていたサマソニで、オオカミたちは10-FEETTAKUMAゼブラヘッドのアリとマッティ、フォール・アウト・ボーイのパトリック、東京スカパラダイスオーケストラ、ダメ押しに布袋寅泰と、国内外の先輩アーティストたちを次々に呼び込み、コラボ曲を連発してみせた。デビュー翌年からサマソニに出演してきたオオカミたちによる、サマソニのアニバーサリーに相応しい、サマソニだからこそ可能なお祭りステージであった。サービス精神旺盛なホスト役に徹したオオカミたちだったけれど、僕は彼らの姿をとても偉大だと感じて思わず涙してしまった。その背中には、お茶の間からフェス、海外のライブハウスからスタジアムまであらゆる現場を沸かせ、他者との信頼関係を築き、そして数々のコラボ曲を生み出してきたキャリアの重みが滲んでいた。そんなロックバンドは、古今東西に例がない。


思えば、今春公開されたあの笑い混じりのドキュメンタリー映画『MAN WITH A MISSION THE MOVIE -TRACE the HISTORY-』(8月19日にはBlu-ray/DVDがリリースされる)を観て感動した部分も、まさに認知と信頼を獲得しようとするデビュー時期からの地道な努力であった。初めて出会った時に一体何者なんだと訝しんだオオカミたちは、知れば知るほど愚直なまでの人間くささを感じさせ、そしてその印象のままのロックをずっと奏で歌ってきた。きっと多くのファンにとっても、そんなオオカミたちの本質は魅力的だったのだろう。ロックへの憧れを抱き続けてきた永遠のキッズによる、かつて誰も見たことのないロックの景色。結成から10年を経て、MAN WITH A MISSIONはそんな場所へと辿り着いた。だから今こそ、その歩みを心から祝福したいと思うのだ。(小池宏和)

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MAN WITH A MISSION、10周年の功績に寄せて――憧れさえも追い越して、その先に見えたロックの景色 - 『ROCKIN'ON JAPAN』2020年8月号『ROCKIN'ON JAPAN』2020年8月号
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