現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2月号にYOASOBIが登場!ランキングなんてただの数字でしかないけど、やるからには1位を獲りたいし、本気で遊びをやっているという感覚を大事にしたい(Ayase)
“夜に駆ける“は、“ハルジオン“は、“群青“はいかにして、
ポップ革命を成し遂げたのか? 今という時代、そしてYOASOBIの必然とは
文=小栁大輔 インタビュー=杉浦美恵 撮影=磯部昭子
念願の初インタビューである。テレビや映像メディアでのインタビューはあるが、こうして音楽誌の取材を受けるのはYOASOBIにとって初めてのことだ。僕としてはその機会をずっとうかがっていた。瞬く間に稀代のポップミュージシャンとなったYOASOBIの、そのまだ誰も知らないであろう核の部分に迫ることができるのではないかと、かなりの確信とともに考えていた。
YOASOBIは一体何がすごいのだろう? この問いは、おそらく、多くのリスナーが、この1年を通して、何度も向き合った問いなのではないか。いろいろな答え方があるのだと思う。性急なビートが織りなす四つ打ちの焦燥感が今的であるから、という言い方もできるだろうし、パステルな色彩で統一された映像と、そこで描かれる物語には普遍的な切なさが、生真面目なほどに刻まれているから、とも思う。「夜系」というワードに象徴されるように、誰もがひとりきりの夜を乗り切るための、ファンタジーとしての世界観を見事に描いているから、という言い方もできるだろう。そのどれもが、YOASOBIのブレイクを支える確かな理由になっている。そのどれかひとつでも欠けてしまったとしたなら、きっと、この社会現象的なヒットはなかった――のだろうと思う。
だが、一方で、こんなふうにも思うのである。YOASOBIは「夜系」のアーティストだから、あるいは、軽快で心地のよい映像を作るセンスがあったから、これだけ巨大な支持を集めることができたのだろうか。果たして、本当にそうなのだろうか。いや、違うのではないか。
美しい流線を描きながら進んでいくあの爽快なメロディがあり、アイディアに満ちた軽快なアレンジがあり、いつだって儚く震える、その声自体があまりに切ない歌があるのだとして、「音楽」としての要素がこれだけ完璧に揃っているのだとすれば、それは「夜系」でなくとも、あるいは映像がこのような世界観でなかったとしても、いずれ支持を集めることになったのではないか?
そう、YOASOBIのすごさとは、ポップソングとしての正確さ、そしてそのポップソングをリスナーに伝達するための歌の突き抜けた魅力――という、言ってしまえば、身も蓋もない事実に根ざしている。音楽家として確固たる力を持ち、時代の息吹を感じ取る繊細さもまた兼ね備えたふたりが今、この時代との対話を繰り返しながら誠実に作り上げたものだからこそ、YOASOBIはこれだけ愛されているのではないか。鮮烈なインパクトを刻みながら、しかし何度聴いても聴き飽きることの一切ない、“夜に駆ける”や“ハルジオン”、“群青”といった新たな名曲たちを聴くたびに、そう思うのである。
一体感や熱狂というエネルギーを増幅させるライブが失われてしまったこの1年を通して、大ブレイクを果たしたのがこのふたりだった、というのはとても象徴的だと思う。今こそ、メロディと歌を磨き上げること。ポップソングとしての絶対値で勝負すること。そんなシンプルな命題に向き合い、その世界観を伝達するための手段として、「一人ひとり」がそれぞれの時間の中で向き合うものとしての「映像」を選び、戦った彼らが、今これだけの支持を集めたのは、どこか必然的であると思う。YOASOBIは今、ポップミュージックとして、ただひたすらに優れているのだと、僕は思う。
今回のインタビューは、そんな無血のポップ革命の真っ只中にいるふたりに、YOASOBIの成り立ち、そして、彼ら自ら、楽曲をすべて語ってもらう形にさせてもらった。これまで発表された新たな名曲がすべて収められた初のEP『THE BOOK』をめぐるインタビューである。貴重な話が多く詰まったテキストになっている。2020年という時代の息遣いを思いながら、読んでもらえれば嬉しい。(小栁大輔)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年2月号より抜粋)