久々の王道ラブソング誕生!
スタンダードなふりして超革命的な名曲“Subtitle”を解き明かす!
文=小川智宏
“115万キロのフィルム”“LADY”“Pretender”“I LOVE…”これまでもOfficial髭男dismは素晴らしいラブソングをたくさん生み出して、リスナーの人生を彩ってきた。そしてそれらの楽曲の多くは映画やドラマのタイアップ曲として、作品のストーリーを大いに盛り上げてきた。今回フジテレビ系木曜劇場『silent』の主題歌としてリリースされた新曲“Subtitle”もまさにその系譜に連なる名曲である。ヒゲダンが久々に生んだ極上のラブソング。しんと静まり返った世界の中で、その奥にある熱い思いが溢れ出す、とてもエモーショナルでドラマティックなウィンターバラードだ。そういう意味では極めて「王道」的な楽曲のようにも思える“Subtitle”だが、実はそうではない。まさに王道な「エモーショナルでドラマティックなウィンターバラード」だからこそこの楽曲の新鮮さ、画期性は際立つ。まさにエモーションとドラマの作り方と重ね方が、これまでのヒゲダンとは180度違うからだ。その180度違う作り方でヒゲダンの新たな王道を打ち立ててしまったところに“Subtitle”の素晴らしさはある。
ヒゲダン、とりわけメインソングライターである藤原聡(Vo・Pf)が優れたメロディメイカーであることは言うを俟たない。最初に挙げた楽曲たちをはじめ、聴けば一瞬で曲名が浮かぶようなキャッチーで強烈なサビメロは、彼らの大きな武器のひとつである。だがそれと同じくらい、彼らの大きな特徴となってきたのが器楽的なアレンジの多彩さとこだわりだった。曲を時にひっぱり、時に支えるリズム隊。印象的に曲の表情を変えていくギターリフやソロ。鍵盤のフレージングやストリングスのインサート、コーラスの重ね方まで、時に過剰なまでに注ぎ込まれ練り上げられたアイデアの数々が、ヒゲダンならではのポップソングを生み出してきた。有り体に言えば、ヒゲダンの音楽は常に「足し算」と「掛け算」で成立してきたのである。(以下、本誌記事に続く)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年12月号より抜粋)