レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、最新曲"Dark Necessities"レヴューと最新AL展望
2016.05.06 17:14
週末近くなると大物もそうでない人も突然新作や新曲をリリースするので俄然忙しくなる。レディオヘッド新曲がきて、ジェイムス・ブレイク新作が来て、そしてレッチリ新曲"Dark Necessities" も来た。
もっともレッチリに関しては木曜日に新曲を発表するという予告が為されていたので驚きはない。この曲を含む新作アルバムのタイトル『The Getaway』、大きな熊とあらいぐま(?)と少女が街角を歩いている、彼らにしては目新しいアート・ワーク、全13曲のトラック・リスト、リリース日が6月17日となることもあわせて発表されている。つまりフジロックの一ヶ月以上前には新作が聴ける。十分に予習して臨めるわけだ。今月半ばからアメリカ~ヨーロッパと回るツアーが始まるが、そこで新曲が多く披露されるだろうし、いわばそれがゲネプロ代わり。フジロックではちゃんと「本番」を見せてくれるはずだ(笑)。
さて肝心の新曲だが、『カリフォルニケイション』以降のレッチリの基本をがっちり抑えた手堅い一曲、という印象だ。珍しくピアノをフィーチャーしているのが新鮮に響くが、歌メロはジョン・フルシアンテ時代に確立された叙情的でメランコリックな美しい旋律。そこにフリーのファンキーなスラップ・ベースが躍動して、ハンドクラップ、様々な技法や音色を駆使したギターによる美しい裏メロと、新しい試みを織り込みながらも、見事に最近のレッチリの黄金律を踏襲。これを大嫌いなレッチリ・ファンはそうそういないだろう。
今回は長年の相棒リック・ルービンに代わり、ゴリラズ、ベック、ノラ・ジョーンズ、ザ・ブラック・キーズ、U2などを手がけたデンジャー・マウスをプロデュースに抜擢。彼の存在がレッチリには大きな刺激となったという話だし、前作からジョン・フルシアンテに代わって参加したジョシュ・クリングホッファーが初めて本格的に作曲に参加したのも大きいはず。彼らのようなあらゆることをやり尽くしたベテランにとって、自らの創作意欲を掻き立ててくれる刺激は何より重要だからだ。アルバムではそんな彼らの新生面が切り開かれているのかもしれないが、この曲はリード曲ということもあり、「みんなが好きなレッチリ」をやってみせた、というところだろうか。アルバムは「スーパー・ダンサブルで、ファンキィなものもあるし、すごく内省的で美しい感じのものもある」とフリーは語っている。過去最高の楽曲ができた、という発言もあり、期待は大きい。
レッチリに関してはいろんな見方があると思うが、フロントマンのアンソニー・キーディスの成長を見守る、というファンの楽しみ方がある。その成長の手助けをしてきたパートナーが、初期はフリーやヒレルであり、それからジョン・フルシアンテだったわけだ。音楽的にはただのど素人だったアンソニーが親友の死や嵐のフジロックやドラッグ中毒など本当に様々な経験を経て、人間的にも音楽的にも成長して、ただチンポ丸出しで荒っぽいラップをがなり立てるだけだった初期から、こうした叙情的でスケールの大きな美しい曲を歌えるようになってきた。そうした物語性も彼らの魅力のひとつなのである。それが彼らを、単なるマッチョなロック・バンドの域に止まらせず、「オレたちのレッチリ」にまでさせた大きな理由だろう。
新作『The Getaway』と、何度目かになるフジロック(しかも今年は彼らが出演した嵐の第一回目から数えて20回目のアニヴァーサリーだ)で、彼らはどんな新たな物語を作り出していくのか。期待しましょう。(小野島大)