知ってのとおり、このベストアルバムはリリース前から数奇な運命をたどってきた。発売が延期されること二度。その原因はもちろん新型コロナウイルスなのだが、より正確にいえば、このベストアルバムは10周年記念のライブと不可分であり、そして10年間をともにしてきたドラマー、庄村聡泰の勇退作としてあまりにも重要な作品だったからだ。[Alexandros]は「完全な」形でこれをリリースすることにこだわり続けた。それは同時に、サトヤスをきちんと送り出すということでもあったからだ。これは間違いなく、[Alexandros]にとってはひとつの物語の終わりだ。だが、それと同時に、ここにはそんな感傷を遥か彼方に置き去りにするようなスピード感とパワー感で未来へと突き進むバンドの姿が刻まれてもいる。改名後の楽曲が収められた「[A]盤」と、改名前の楽曲を集めた「[C]盤」の2枚組となっている本作は、「歴史を振り返る」というだけでなく、これまでの彼らの歩みを俯瞰して捉え直し、新たな物語を生み出していくようなベストアルバムだ。まさに『Where’s My History?』、「歴史? どこにあんの?」という気分である。[A]盤をいわば「1枚目」に据えているのも、過去よりも今、そして未来に重心を置いているからこそだろう。
改名後初のシングルとなった“Adventure”からはじまる[A]盤と、ライブのSEとしてもバンドを支え続けている“Burger Queen”からはじまる[C]盤。2枚を通して聴いた時にあらためて実感するのは、[Alexandros]がいかに王道だけを追い求めて邁進してきたかということだ。ライブでアンセムとなっている楽曲がいくつも収録されている[A]盤の楽曲たちは、どれもクラシックでど真ん中のロックソングである。“Adventure”の《いつだって僕達は/君を連れて行くんだ》という決定的なフレーズの普遍性はもとより、“ワタリドリ”の勇壮さも、“Girl A”や“Mosquito Bite”のパワフルさも、まるで10年前からそこにあったかのような堂々たる風格で鳴っている。
その先で鳴っているのが、この盤に新曲として収録された“風になって”である。ギターのストロークと早口ボーカルが原点回帰のような印象を感じさせながらも、《風まかせになっていく/あと少しで自分に戻れそうなんだ》という歌詞にはもう一度ここからはじめていくという意志が刻まれている。
そんな[A]盤を経て[C]盤に進んでいくと、ちょっと不思議な感覚になる。タイムスリップしたようなーーというのともちょっと違う。タイムスリップはタイムスリップなのかもしれないが、過去ではなく未来に連れてこられたような気分にもなるのだ。“Burger Queen”のカウントダウンが物語のスタートを告げ、“For Freedom”のずっしりと重いリフが号砲のように鳴り響く。そして“風になって”と対をなすようにかき鳴らされるギターから始まる“Starrrrrrr”へ……そう、昨年8月の「THIS SUMMER FESTIVAL 2020」で[Alexandros]と[Champe]なるバンドの「対バン」が実現したが、ちょうどあのライブを観ていた時の感覚にも近い。[Alexandros]の意志が未来へと受け継がれ、リフレッシュして続いて行くようなイメージが浮かぶのである。
初期の楽曲が今回のベストアルバムのためにミックスし直されているというのもあるのかもしれない。“city”などはオリジナルのハキハキした音像から、どっしりとした重みと奥行きを感じさせるーーつまり、より今の[Alexandros]に近いサウンドに生まれ変わっている。だがそれよりも、これは彼らがいかに最初から一本道を突き進んできたかの証なのではないかと思う。ロックバンドらしく、常に変わり続けながら前へ前へと転がり続けてきた彼らだからこそ、“Kick&Spin”も“spy”も“Don’t Fuck With Yoohei Kawakami”もアクチュアリティとフレッシュネスを失わないのだ。
10年前からあるように聴こえる[A]盤と、生まれたてのようなフレッシュさで響く[C]盤。そんな2枚は、ファーストアルバムのラストに収録されていた“かえりみち”のパーソナルな心象にたどり着く。10年間変わらず俺たちはここで歌ってるんだと宣言するかのように。だがそれでアルバムは終わらない。最後に収録されているのは、彼らがデビュー前から路上ライブで演奏してきた“温度差”の新録バージョンである。「VIPツアー九州」でも久しぶりに披露されていた「幻の曲」だが、これを聴いて驚いてほしい。彼らが目指すロックバンドの姿とロックが描くべき風景が、すでにそこにあるからだ。[Alexandros]は最初から[Alexandros]だったし、これからもそうあり続ける。それを証明するのがこのアルバムだ。『Where’s My History?』――彼らが「歴史」になるのはまだまだずっと先だ。(小川智宏)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年5月号より)
掲載号の購入はこちらから