大盛況のうちに終了した6年ぶりの武道館公演にみる、ニッケルバックが愛される理由

大盛況のうちに終了した6年ぶりの武道館公演にみる、ニッケルバックが愛される理由

ニッケルバックが愛される理由。何を今さら、と言われそうな気もするが、改めてそれが理解できたように思えるライブだった。

2月9日、日本武道館。会場最寄りの九段下駅を出ると、すぐに目に飛び込んできたのは「チケット譲ってください」と書かれたボードを掲げた人の姿。昨年夏の「サマーソニック」での熱演から半年を経ての日本公演、しかも彼ら自身にとって6年ぶりとなる武道館公演に対する期待感が充分すぎるほど高まっているのが伝わってくる。大阪、名古屋での両公演の盛況ぶりもSNSなどを通じて把握してはいたが、誤解を恐れずに言えば、やはりこの怪物バンドが本領を発揮するのはアリーナ規模でのライヴだ。逆に言えば、その2割程度の規模の会場で彼らと向き合うことができた大阪と名古屋のファンは、世界的にみても贅沢というか、超ラッキーということになるわけだが。

場内は開演定刻の午後6時をほんの少しだけ過ぎた頃に暗転。まず聴こえてきたのは、一昨年の6月にリリースされた現時点での最新作、『フィード・ザ・マシーン』の表題曲だ。さすがにすぐさま大合唱というわけにはいかないが、アリーナのみならずスタンド席の上方まで人で埋め尽くされた風景はいつ見ても気持ちのいいものだし、ステージ上から放たれる音楽が会場全体で共有されていることが実感できる。そして過去さまざまな時代の楽曲が繰り出されていくなかで、チャド・クルーガー(vo,g )の歌唱に同調する観衆の歌声はどんどん大きくなっていく。

たとえばこのバンドの音楽について、往年の産業ロックなどとイメージを重ねながら「毒にも薬にもならない中庸な大量生産型ロック」などと皮肉めいたことを言う人もいるだろう。実際、ニッケルバックのサウンドはポップスと呼ぶにはハード&ヘヴィすぎるし、エクストリームなメタル側から見れば、ぬるくて甘いものということになるだろう。ただ、それが心地好いのだから仕方ないじゃないか、と言いたくなる。

とにかく曲が良い。チャドはもちろん、ところどころでリードをとりながら絶妙のボーカル・ハーモニーを聴かせるライアン・ピーク(g)の歌声にもまた違った味と色気がある。かといってその歌唱に芝居がかった大仰さはなく、静かに耳を傾けるよりは一緒に歌いたくなる人懐こいウタゴコロが、メロディ自体に備わっている。だから、ぶっちゃけ歌詞を完全に覚えていなくても、なんとなく歌ってしまうのだ。とはいえ“ロックスター”で観客をステージに上げて歌わせるお馴染みのシーンでは、ふたりの男性ファンが見事に歌いきっていたが。

ポップ・ボーカルとしてはラウドすぎて、メタル側から見ればバラード系の曲の割合が高すぎる。ニッケルバックのライブには確かにそうしたどっちつかずのところがあるが、だからこそ幅広いリスナーに受け入れられ、支持されてきた。ものすごく乱暴な解釈かもしれないが、彼らはちょうどブラック・アルバムの頃のメタリカと、同じカナダ出身の大先輩にあたるブライアン・アダムスの中間地点あたりにいるのかもしれない。

しかも、21世紀のロック市場における屈指のヒットメイカーでありながら、このバンドにはスター然としたまばゆさよりも、いまだに近所のお兄さん的な親しみやすさがある。チャドとライアンはしばしば漫才めいたやりとりを披露し、“サムシング・イン・ユア・マウス”の演奏前にはライアンが「ギョウザ、オネガイシマース!」と注文し慣れた口調で言う(今後、この曲を聴く際には彼が餃子をくわえた図が頭に浮かんでしまいそうだ)。衣装もシンプルだし(そう見えて実は高級品なのだろうが)、街で遭遇しても躊躇なく声を掛けられそうな気安さがある。そんな彼らがオーディエンスと同じ目の高さで歌うからこそ、こちらにも自然にスッと入り込んでくるのだろう。しかも、アリーナ規模だからこそいっそう映える照明効果も楽曲と見事にシンクロして、彼らの音楽のスケール感とダイナミックスを強調していく。完璧だ。

看板ヒット曲のひとつである“ハウ・ユー・リマインド・ミー”でひとたび幕を閉じたショウは、“ミリオン・マイルズ・アン・アワー”、“バーン・イット・トゥ・ザ・グラウンド”という2曲のアンコールを経て、開演から約1時間45分後に終了。その間、予定外のことも起こらなければ、破綻も何ひとつなかった。ひとつ付け加えておくと、客席には若い層の姿もとても目立っていた。彼らにとってニッケルバックは「常に身近なところにいて、新たなフェイバリット・ソングを提供し続けてきてくれたバンド」なのだろう。そうした愛着を抱く世代もいれば、「ニッケルバックなら聴ける」と言うクラシック・ロック愛好世代もいるに違いない。これは当たり前のようでいて、とても稀有なことなのではないだろうか。

敢えて文句をつけるとするなら、もう何曲か聴きたかった気もするし、最新作から表題曲だけしか演奏されなかったのも少々残念ではあった。が、そんなちょっとした食い足りなさが残るからこそ、また観たくなるのだ。そうした点も含めて、パーフェクトなショウだったといえる。もしかすると彼らに共鳴できない人たちは「スキがなさすぎて、そこが気に入らない」と言うのかもしれないが。(増田勇一)
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