sumika、10周年イヤーを彩る最高傑作『For.』誕生! そしてsumikaは未来へと進む

sumika『For.』
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sumika For.
sumikaが結成10周年を迎えると聞いて、まず率直に思ったのが、「まだ10年しか経っていない?」だった。いや確かに10年の足跡はくっきりと残されているわけだが、なんというか、sumikaの活動はとにかく濃密なのである。作品ひとつ、ライブ1本、それぞれの質量が大きい気がする。だから10年分以上のものを受け取ってきたような感じがしてしまうのだ。そしてその歴史を改めて振り返って考えた時、sumikaに対しては「変わらない」というイメージと、「変わり続けてきた」というイメージと、その両方が同時に浮かび上がるのがおもしろい。あるいは、「変わり続けながら変わらない」バンドだと言ってもいい。そもそもsumikaは結成当時から正式メンバーとしてのベーシストは在籍せず、作品やツアーごとに(ベースに限らず)ゲストメンバーを招き入れながら活動を続けてきた。片岡、黒田、荒井、小川という4人のメンバーを核にしながら、その時々の自分たちのモードに合わせて、ゲストミュージシャンを選定するスタイルは現在も同様だ。このバンドの在りようこそが、sumikaを「変わり続けながら変わらない」存在たらしめているひとつの要因だと思う。最新アルバム『For.』を聴いて一層強く感じた。sumikaというバンドの稀有なところとは、バンドのサウンドに大きな変化が起こる時ほど原点回帰を感じさせる点にある。それをビビッドに映し出すような『For.』というアルバムが、この10周年を迎える節目に出されたことは非常に示唆的であり、sumikaはsumikaであり続けるという意思表明のように受け取れた。どれほど新たな音楽性やビートを取り入れようとも、すべてがsumikaである。これまで長い時間を共有してきたファンのイメージを覆すようなサウンドだったとしても、あるいは、漠然と「sumikaのイメージ」としてポップで爽やかであたたかい音楽を奏でるバンドという見方をしていたリスナーが一瞬違和感を持つ楽曲だったとしても、最終的には紛れもなくsumikaの作品だと納得させてしまう、濃密で強かで多面的な傑作が『For.』である。これは、sumikaの変わらぬバンドの在りよう、つまりは、その時々の気分や必要に応じて様々なゲストを迎え入れることで、バンドはより自由に音楽を奏で続けることができるという信念にも近い想いが、鮮やかな結晶として表現された結果だ。それこそが「変わらない」哲学。結成当時にはベーシスト不在というのは、もしかしたらひとつのピースの不足というネガティブな捉え方をsumika自身もしていたかもしれない。特にsumikaのようなオーガニックなアンサンブルを得意とするようなバンドなら、それはウィークポイントと捉えられてもおかしくはない。しかし彼らはその埋まらない空白を逆に強みに変え、バンドの自由度を高めることを証明し続けてきた。だからこそsumikaはライブに加わる外部ミュージシャンのことを単なるサポートメンバーとは扱わない。ゲストでありながらその時のsumikaを表現する正式な一員であることを自覚しているからだ。その矜持も『For.』ではっきりと浮かび上がる。

前作『AMUSIC』から約1年半ぶりのフルアルバムとなった『For.』は、前作以降にリリースされた既発曲が6曲、そして新曲が8曲、全14曲というフルボリュームで構成されている。『AMUSIC』が“Lamp”で始まり、不確かで不安な時代に生きるリスナーをあたたかく照らすような始まりだったのとは対照的に、『For.』は、ヘヴィなギターサウンドとデジタルサウンドを融合させ、ダークなリリックを突きつける“New World”で幕を開ける。まるで「sumikaのイメージ」を解体するかのように。不穏なサウンド、アイロニカルな歌詞に驚く楽曲はしかし、sumikaの揺るぎない想いを表すもの。《脅迫ならどうぞ/退路ならもう絶っちゃってる》《極刑でもどうぞ/覚悟はとうにできちゃってる》というリリックの強さは、このサウンドに導かれたものであるかもしれない。バンドサウンドに加え、プログラミングとアレンジに参加しているのはGeorge(MOP of HEAD)。この大胆なコラボレーションに大きな変化を感じながら、逆にsumikaの自由な音楽への向き合い方が、このアルバムで強化されていることを印象付けるナンバーだ。これまでもアレンジャーとして外部ミュージシャンを交えることは、さほど珍しいことではなかったが、今作ではより積極的に新たなピースを加えるように、様々なミュージシャンが編曲で参加している。もともとバンドサウンドだけで、バンドメンバーだけで奏でるということにこだわらない、というよりも、むしろそのこだわりがsumikaの音楽にとっては邪魔になるという哲学で活動してきたバンドである。しかし、ここまで大胆に新たな風を巻き起こすきっかけになったのは、2021年12月にリリースされた『SOUND VILLAGE』の制作であり、そこに収録された“Babel”でのTeddyLoidとのコラボレーションだろう。昨年11月に行われた「sumika Live Tour 2021『花鳥風月』」ファイナル公演のアンコールで突如披露されたこの楽曲は、sumikaとしては初となる打ち込みトラックオンリーの楽曲で、片岡がボーカルをとる以外、メンバーは誰も演奏に参加しない。興味深いのは、この楽曲が生まれた背景である。sumikaは2021年の夏、もう一度まっさらな気持ちで音楽に向き合うべく、メンバー4人で山中湖のサウンドビレッジで夏合宿を敢行する。“Babel”もまた、その中で形作られていった楽曲のひとつだった。従来のようにバンドメンバーが音を出しながらアレンジを模索していく中で、最終的に打ち込みのトラックをバックに片岡が歌うというスタイルを選択する。音楽への向き合い方として、sumikaとしてのある意味原点回帰を求めて行った合宿で、導き出した答えが「バンドは演奏しない」というものだったということ。そのエピソードこそが、sumikaの自由度と楽曲への妥協のなさを表している。もちろんメンバー全員の総意としてだ。その選択がバンドとして躊躇なくできることは、逆説的にsumikaがどのように変化したとしても、ずっとsumikaであり続けられることの証明であると受け取れた。そうして生まれた“Babel”があったからこそ、sumikaが広げる翼はさらに自由で大きなものとなった。先に綴った“New World”もそうだが、『SOUND VILLAGE』の5ヶ月後にリリースされた配信シングル“Simple”にも、その自由度は継承される。 “Simple”は、小川が作曲を担う楽曲だけに、sumikaらしいあたたかなピアノサウンドが耳を惹く楽曲である。そこに宮田‘レフティ’リョウがプログラミングとアレンジで加わって、打ち込みのビートとシンセベースを融合させた、新たなsumikaの楽曲世界を構築した。ここではドラムスの荒井の手は加えられていない。サポートのベーシストもいない。たとえば純粋に生音のアンサンブルのみで作り上げてもsumikaらしいポップスとして素晴らしいものができる曲だと思う。それくらいまさに「シンプルに」メロディがいい。歌がいい。しかしこの楽曲に打ち込みをフィーチャーし、sumikaが自らのイメージにとらわれないことを表明してみせた。新しい音楽的ムーブでもバンドの哲学は「変わらない」ことを印象付ける重要な楽曲となったのだ。同じく宮田‘レフティ’リョウと、ハヤシベトモノリがプログラミングとアレンジで参加した“Glitter”にしても、一聴すればsumikaらしく気持ちよくスウィングするポップソングなのだが、軽やかながら重ねられた上モノやコーラスの仕様は新鮮で、だからこそ、サビの歌詞の《Do the dancing》のシンプルな繰り返しがとにかく気持ちよく響いた。そうした楽曲たちのリリースが布石となり、またアルバムの軸ともなって、『For.』はとても自由で豊かな作品として完成しているのだ。

そしてもうひとつ、今作で注目したいのは片岡の書く歌詞である。切なさやあたたかさやポジティブな面にスポットが当たりがちなsumikaの楽曲だが、実はこれまでもアルバムやEP作品、またシングルのカップリングなどで、なかなかに辛辣なことを歌ったり、ダークな心象風景を言葉にしたりしてきている。“チェスターコパーポット”しかり、“ペルソナ・プロムナード”しかり、“No.5”しかり。陰も陽も隠さず表現するバンドだったからこそ、ポジティブサイドの楽曲はより一層のまぶしさを放っていたのかもしれない。しかし今作でsumikaが目指したのは、もっとフラットに、人間には様々な感情があって当たり前、ということなのかもしれない。そこで綴る言葉に「ダークすぎるかもしれない」とか「言いすぎたかもしれない」とか、さらには「もっとうまい表現があるかもしれない」といった迷いを払拭することが、ひとつテーマになっているようにも感じた。先に述べた“New World”や“Babel”は確かに相当に毒っ気を纏うが、躊躇うことなく自身の懐疑をぶつける“何者”のラストの展開にも目を見張るものがある。「躊躇うことなく」と書いたが、もちろんそこに逡巡はあっただろう。しかし片岡は取り繕うような表現はしない。言葉は尽くすが、言葉によって真意を捻じ曲げるようなことはない。そんな言葉への真摯な向き合い方を端的に表す楽曲が今作にある。“言葉と心”という歌がそうだ。盟友、井嶋啓介をベースに迎え、ベーシックなバンドアンサンブルで聴かせる楽曲だ。《カニクリームはもうカニじゃない/そんなような事と/きっと似ているんだろうな/頭の奥の“もや”を/文字にして ことばにして/音にして 伝える事》と綴られる歌詞。そして《ことばとこころ》と繰り返す箇所は、その似て非なるものの関係性を問い続ける自分自身を表すように、無駄な言葉を足すことなく《心の言葉で大事な君と/向き合いたいのです》と結ばれる。本当の心を、真実の感情を、すべて言葉で表現できるなんて思い上がりであることはわかっていながら、それでも人は言葉でしか伝えることができない。けれど音楽ならば、その旋律で、律動で、言葉にできない複雑で繊細な心持ちを補完することもできる。だからバンドで、音楽で、言葉以上の感情を表現するのだ。そんな想いに自らが至った思考をそのまま綴ったような、片岡の誠実さが表れた美しい歌詞だと思う。実はこの楽曲はsumikaの前身バンド時代に作られたもの。それを現在のsumikaで再録した。この “言葉と心”の歌詞が現代でより響くものになるというのは、sumikaの変わらぬ強さの証である。“言葉と心”があるからこそ、そのひとつ前に置かれた“透明”という新曲の、《愛している 愛している》という、究極に純粋で衒いのない言葉がまた驚くほどに「効いて」くる。これ以上ないピュアなラブソングで、この言葉を超える表現を模索するのはかえって心に嘘をつくことにもなる。そんな「言葉」と「心」に向き合った果てに出てきた《愛している》に、バンドサウンドが寄り添うから、その5文字以上の感情を聴き手は理解する。sumikaの音楽への変わらぬ向き合い方を、リスナーはここにきてはっきりと理解するだろう。こうした「心」と「言葉」を思考した先のピュアな作詞もあれば、“Babel”や“New World”などは「ビート」あるいは「サウンド」と「言葉」の関係性が密接にあって、そのビートがより片岡の言葉をむき出しにしたものだったかもしれない。ベクトルや表現する感情はまるで違うが、“チョコレイト”でのゴスペル的なコーラスの導入も、片岡の作詞をアップデートするものだったかもしれない。心地好く耳を癒すような押韻で紡ぐ歌詞が印象的だ。「言葉の意味」ももちろん大切に紡がれているが、言葉の耳心地の良さが研ぎ澄まされているのも今作の特徴のひとつ。打ち込みやバンドサウンド以外の音を多用することにより、譜割りやニュアンスの解釈に変化が訪れるのは必然であり、片岡の書く歌詞が、そのビートやサウンドにチューニングを合わせるように、韻や語感にフォーカスした作詞が際立つようになったのかもしれない。心を震わすようなバラード“フレア”でもストリングスが描く心象風景にぴたりと寄り添うような作詞が胸に沁みる。ぜひ歌詞カードに書かれた文字を追いながら聴いてみてほしい。音楽として聴こえてくる歌と文字として綴られたもの、その間に隠れた様々な感情をきっと読み取ることができるはずだ。

過去作と比べてもかなり多彩なゲストを迎えて制作された本作の中で、多くの音楽ファンを驚かせたのが“Porter”での田村明浩(スピッツ/B)との共演だろう。今すぐシンガロングしたくなるようなバンドサウンドは、ベースを際立たせるというか、まるでベースが歌うようなアレンジで、田村の個性をしっかりとsumikaの楽曲の中に取り込んだ形だ。スピッツとsumikaは対バンの経験もあり、この9月にスピッツ主催の「ロックのほそ道」で共演したことも記憶に新しい。それでもこの共演はサプライズだったし、それ以上に、ここに田村のベースがあることの必然がしっかり見られる楽曲であることが素晴らしい。

そして6分超えの名曲“Lost Found.”がアルバムのラストを飾る。乾いたロードムービーのような肌触りの、素晴らしいバンドアンサンブルに聴き入ってしまう。ゆったりとしたテンポで確かめるように奏でられる荒井のドラムも、熱い風のような黒田のエレクトリックギターの音色も、美しく記憶を呼び起こすような小川のピアノの音も、井嶋の胸の奥で共に歌うようなベースも、すべてが美しく重なり合う。《Hello Goodbye》を繰り返す片岡の歌声の奥にある様々な感情。まさにその心にサウンドが寄り添う。メロディが、文字では書かれていない心象風景を浮かび上がらせる。《新しい世界を/ハロー/新しい正解へと/探して壊して》と伸びやかに歌う片岡の歌声は、過去を慈しみながら、その眼差しは遠く未来にも向けられる。“New World”で提示された意思表明が“Lost Found.”で大きなスケール感を携えて、力強く刻みつけられている。

sumikaにとっては音楽性やバンドとしての形の変化こそが、バンドの本質を変えずに保つ必然であることが、このアルバムからよく理解できる。それはまたsumikaの未来の可能性を大きく広げるものとなった。『For.』というタイトルは、もしかしたら4枚目のフルアルバムであることや、10周年という節目にあって、4人の歴史の通過点という意味で「Four」にかけたものだったのかもしれない。もしくはこの作品を手に取る多くの「誰か」に向けての「For」であったか。でもいちばん大きな意味として感じ取れるのは、やはり「未来」への目線だ。決して順風満帆ではなかったが、10年の濃密な誇るべき歴史を刻みつけ、sumikaは確実にその先へと進んでいく。(杉浦美恵)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年11月号より)

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