【JAPAN最新号】ずっと真夜中でいいのに。、ポップシーンにさらなる衝撃を放つ2ndフルアルバム『ぐされ』完成。そのすべてに全曲解説で迫る!

現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』4月号にずっと真夜中でいいのに。『ぐされ』全曲解説を掲載!

ポップシーンにさらなる衝撃を放つ2ndフルアルバム『ぐされ』完成。
リスナーの心に深く複雑に侵食するACAねの歌と表現世界、そのすべてに全曲解説で迫る!

文=小池宏和


①“胸の煙”
アルバム『ぐされ』は、リリース同日にMVも公開された“胸の煙”で幕を開ける。村山☆潤の静謐なピアノに導かれて始まるこの曲は、4つ打ちロックの展開を経由してダイナミックに飛翔してゆく。レコーディングには共同アレンジャーの100回嘔吐もベースで参加。ヒロインの変身した鳥だけが色づくシーンも印象的なMVでは、追いつ追われつのスリリングな関係にあるふたりが心を通わせるきっかけとして、形の不確かな「煙」が描かれている。立ち上っては儚く消える、価値や意味さえも判然としない煙が、残り香のように深く心に刻まれてしまうこともある。そんな切ないロマンティシズムは、まるでずとまよの生み出す音楽そのもののようだ。『ぐされ』全編に言えることだけれども、楽曲ごとに変化するレコーディングの布陣とハイレベルな演奏という特徴を維持しつつ、スッと腑に落ちるポップソングの輪郭が明瞭になっている点が素晴らしい。

② “正しくなれない”
映画主題歌として日の目を見た“正しくなれない”は、実写映画版『約束のネバーランド』のために書き下ろされたナンバー。歌い出しの直後に立ち上がってくる重厚かつ荘厳なストリングスアレンジの中で、ACAねの歌声は音に埋もれるというよりもむしろ芯の強さを発揮するように響き渡っている。曰く付きの孤児院を舞台に、自由を目指す少年少女たちの物語。それを捉えるために、ずとまよは《正しくなれない》という表現を用いる。言われるがままに進む幸福な道の先には、思わぬ落とし穴が待ち構えていることもある。自ら考え、探り、知ることは、行儀よく正しくなれない後ろめたさと引き換えに、生きる自由を手にすることだ。残酷なファンタジーの脚本を背景に、大切で普遍的な反骨のテーマを導き出している。だからACAねの歌声とメロディは、悲痛でありながらもそれ以上に気高く、勇敢な響きをもたらしているのである。

③ “お勉強しといてよ”
MVやミニアルバム、フルアルバム、そしてライブと、ずとまよの楽曲は響き渡る場面によって少しずつ異なる意味合いを帯びながら、パラレルにそれぞれの表現世界を担うパーツとなってきた。『ぐされ』収録曲の中で最も早い時期に公開されていた“お勉強しといてよ”は、ミステリアスな分だけ魅惑的なずとまよに向き合う、不特定多数のリスナーに宛てた挑戦状かラブレターのような楽曲だった。スピード感溢れるジャズ/ファンクの曲調も、今となっては懐かしく感じられる(と言っても公開されてから1年も経っていないが)。自由な解釈を許容しつつ、確かな熱と美を伴う感情表現で多くのリスナーの心を射止めてきたずとまよは、その濃密なコミュニケーションを基盤にポピュラリティを獲得してきた。『朗らかな皮膚とて不服』の頃とは“お勉強しといてよ”の意味も変わり、「だから言ったでしょ?」と言わんばかりの答え合わせになっている。(以下、本誌記事に続く)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年4月号より抜粋)



『ROCKIN'ON JAPAN』2021年4月号