この音楽が正しく評価されなければ、それは世界のほうが間違っている。そんな青臭い感情を抱いたのはいつぶりだろうか。シンガーソングライターの映秀。が、19歳の誕生日である3月17日に1stアルバム『第壱楽章』をリリースする。彼の人生を変えるだけでなく、2021年のハイライトにもなりうる作品だ。
最初のきっかけはカバー動画だった。遡ること約1年半前、モラトリアムを謳歌するように部屋で佇む男子ふたり。隣で友人のジェラトーニが寛ぐなか、当時高校生の映秀。はクリープハイプ、King Gnu、Vaundy……と弾き語りを披露していく。遊び感覚で始まったYouTubeチャンネル「ジェラfeat.映秀。」は瞬く間に人気を集めていった。その後、映秀。は自作曲にも取り組むように。アレンジやトラックメイクも自前で手がける万能型アーティストとして才能を開花させると、川谷絵音によるプロジェクト「美的計画」でのフックアップを経て、桁外れのスピートで別次元まで突き進んでいった。
『第壱楽章』は圧倒的な自由を謳歌するように、凄まじい楽曲のオンパレード。張り裂けるようなロックの衝動、ジャズやゴスペルのフィール、モダンR&Bのしなやかさ、荘厳なストリングスの響きーー。“零壱匁”の《僕が何者かは僕自身が決めるんだ》という一節が示す、ジャンルレスな感性には未来を感じずにいられない。
しかし本当に驚かされるのは、それらのサウンドを束ね上げる彼の人間力だろう。もともとは声楽を専攻していたというだけあり、その歌声はすでに一級品。カバー動画で培った表現力に加えて、鬼気迫るテンションが胸を打つ。そんな歌声の根底にあるのは、10代特有のリアルな痛みと哀しみ。《最低で最高な世界を/邁進し堪能し安楽死》と歌う“東京散歩”はまさしく象徴的で、苦悩を曝け出しながら、希望の光を探し求めるアルバムは、文学的な筆致とZ世代のキャッチーさで、焦げつくような精神世界を描いている。心に投げかけるものの大きさは絶大。末恐ろしい才能の登場だ。(小熊俊哉)