現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』4月号表紙巻頭にゆずが登場!ある種の戦下のような異常な状態のもと、混沌の中で人々の姿や真実が浮き彫りになったんですよ。
その中で安心を求め、幸せを考え直す姿を生々しく作品にしたかった――(北川)
ゆずの今と最新作『PEOPLE』のすべて
ゆずが向き合った2年間の「生身」の時間とは何だったのか? 徹底ロングインタビューで胸中を明かす
インタビュー=小栁大輔 撮影=藤代冥砂
この発言を聞いて、今、ゆずのインタビューをさせてもらって、本当によかったと思った。
このアルバムは、今年2枚のフルアルバムを作ると発表されたうちの、最初の1枚である。タイトルは『PEOPLE』。言うまでもなく、このアルバムでは、この2年、世界を翻弄し続けたコロナ禍の日々を生き抜きながらゆずが見つけた、まさにすべての「人々」に向けられた巨大なメッセージが歌われることになるのだろう――と、僕はこのタイトルを知った時に思った。ゆずのファンであればあるほど、きっと同じような印象を受けたはずだ。ゆずは常に、大きな肯定のメッセージを背負い、人々を鼓舞するようなスケールの大きなポップソングを歌い、時代の矢面に立つ覚悟を込めて、アルバムを作ってきたのだから。
しかし、『PEOPLE』に描き込まれたものは違っていた。
ここにあるのは、人々の日々を肯定してみせる、力強く大きな世界観――の手前に存在する、北川悠仁と岩沢厚治、ふたりの人間の日常を貫いていたのであろう無数の自問自答の痕跡である。
無垢に純粋に、生まれたままの形でそっと歌われるメロディはまるでデビュー当時のように無防備だし、いち生活者としての悲喜こもごもが呟かれる歌詞もまた生々しく、驚くほどにリアルなものだ。あるいは、行き先を決めずに猛スピードで疾走していくようにかき鳴らされる実験的なサウンドデザイン――。そのどれもがどこか、なんだかとても「極端」なものに思える。
そして、そのどれもが、ふたりが何かを探し求めた道中で吐き続けた荒い息遣いのように、混沌を生き抜こうとした決死の生き様としての残滓のように聴こえるのである。
これはゆずの「答え」ではないのだろう。
このアルバムはゆずがゆずとしての答えを探し求める道の途中でその目に写した10の風景であり、この2年間という無情な日々を懸命に生き抜いてきたふたりの人間の心のありさまそのものなのだと思う。
だから、「PEOPLE」というのは、北川悠仁、岩沢厚治というふたりの人間を含めた、すべての人々が生きる「この世界」ということであり、真摯なるポップミュージシャン、ゆずからの決死の生存報告、その手紙のような作品なのだと思う。ゆずは今、ゆずの新たな形を見つけ出そうとしている。
これまでひとつのメッセージを限界まで研磨し、誰しもの共感を呼ぶポップソングとして、できる限り遠くへ、文字通り、すべての人々を鼓舞しようとしてきたゆずが今鳴らした、針を振り切ったような10曲のポップソングが示す意味とはなんなのか。
ふたりと長く、深く話をしてきた。ともに答えを探し求めるような時間になった。そこで北川が呟いた、『PEOPLE』をめぐる赤裸々な実感が冒頭の発言である。
次なるアルバムは『SEES』。そこで描かれるであろうひとつの回答に思いを巡らせながら、じっくりと読んでもらえたら嬉しい。(小栁大輔)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年4月号より抜粋)