さあ、進もう。自分自身の複雑さを抱きしめて。愛して、愛し抜いて、生きて、生き抜こう──。壮絶なリアルと、開かれた心と、愛する人と過ごす時間のような温もりと、星々が煌めく夜空のようにスケールの大きな美しさが混ざり合う空間で、ONE OK ROCKはそう伝えていた。2025年8月30日、日産スタジアム。アルバム『DETOX』を引っ提げて開催されたツアー「ONE OK ROCK DETOX JAPAN TOUR 2025」の神奈川公演1日目。
この日のライブが終わってから数日が経って、この原稿を書いている今もずっと、あの日、モニターに映し出されたTaka(Vo)の眼差しが僕の脳裏には焼き付いている。それは一切の言い訳を必要としない、覚悟を決めた人間の眼差しだった。約7万人の観衆の期待を引き受けるロックスターとしての眼差し。「伝える」ことの可能性を諦めない不屈の表現者の眼差し。「君は何に怒っている? 何を必要としている? 何に悲しんでいる? どう在りたいと願っている?」──そうやって自分自身の内側にあるものをなかったことにせず見つめる勇気を、恐怖を超えて明日を生きるための希望を、確かに手渡すように、ひとつの孤独からこの世界のどこかにいるまた別の孤独に向けて音楽を奏でる、強く優しい人間の眼差し。
『DETOX』の根底に刻まれた社会への不信や怒りは、彼らや僕らを暗闇に閉じ込めるためのものではない。むしろ「だからこそ、それを乗り越えるために僕らはコミュニケーションを求めるんだ」という確信がここにあるということを、僕はこの日のライブを観て強く感じた。煌びやかな演出に彩られたスタジアムライブ。写真や映像で観れば僕ら観客は米粒よりも小さく映るだろう。でも、実際はそうじゃない。僕らはONE OK ROCKの表現の半身としてそこにいた。ONE OK ROCKは僕らを見物人にはさせなかった。リアルなロックバンドだから、それができたのだ。(以下、本誌記事に続く)
文=天野史彬 撮影=Kosuke Ito、Masahiro Yamada
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年11月号より抜粋)
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