ONE OK ROCK、遂に産声を上げた、一生モノのロック大名盤『Luxury Disease』。その背景とメッセージを考察する

ONE OK ROCK『Luxury Disease』
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ALBUM
ONE OK ROCK Luxury Disease
ロックが、とりわけその母国であるアメリカやイギリスを中心にかつての影響力を失っていった2010年代。メキメキと成長を遂げていたONE OK ROCKは、日本国内のシーンを飛び出して世界を舞台に闘い始めた。日本のロック事情というのはまた特殊で、00年代から引き続きバンド文化やフェス文化を通してロックが大きな支持を集める傾向にあった。ある意味では日本のロックのガラパゴス化でもあったのだが、ONE OK ROCKのみならず大きな支持を集めるアーティストたちが世界を舞台に活躍し、あるいは世界基準のポップミュージックとしてロックを発信する季節というのは、歴史的にも稀で興味深い。もちろん日本以外にもロックが活況を呈する地域はたくさんあったし、英米でもロックの新しい波が起きているのだが、そんな時期へと至るまでのONE OK ROCKの奮闘ぶりには目を見張るものがあった。世界を舞台に闘う彼らは、ただストレートにロックするだけでは通用しない時代の難しさを、肌身で知っていたからだ。そして彼らはロックと心中するつもりも、ロックと刺し違えるつもりもない。Taka(Vo)がかつて“Nobody's Home”に綴った決意と夢の景色は、まだまだ彼らの進む道の先にあったからである。

約3年半ぶりのアルバム『Luxury Disease』。そのタイトルが公開された6月、多くのリスナーがそうであるように僕もギョッとした。和訳すればそのまま「ゼイタクビョウ」である。言わずと知れた、ONE OK ROCKのメジャー1stアルバムのタイトルだ。これは世界を舞台にした、原点回帰のアルバムなのだろうか。前作『Eye of the Storm』で、自ら大胆な人体実験を試みるように最先端ポップミュージックのマナーを取り入れたONE OK ROCKは、ロックを奪還したのだろうか。思えば“Wonder”の、吹っ切れたようにデカ鳴りするロックに触れた時にも、その予兆はあった。

結論から書いてしまうと、『Luxury Disease』はどこを切っても最強のロックチューンだけが溢れ出すアルバムだ。現代ポップミュージックのマナーは完全にONE OK ROCKの血となり肉となり、グリーン・デイの諸作をはじめ数々のロック名盤を手がけてきたグラミー受賞プロデューサーのロブ・カヴァロや、数多くのソングライター、プレイヤーたちも携わっている。しかし、音の息遣いと躍動感、確かな熱を伴う歌のメッセージに触れた時、ONE OK ROCKの存在をすぐそばに感じ、アルバム全編を通してその緊密な距離感は一切変わらないのである。

オープニング曲は、先行配信の“Save Yourself”だ。エディットされた大ぶりなギターリフが轟く中、他者と向き合うからこそ生まれる痛みと苦悩を歌っている。ウクライナ出身の映像ディレクター=タヌ・ムイノと共に作り上げたMVにも、ただ優れたヒットメイカーだから、という以上の制作意図を感じずにはいられない。眠らない街・渋谷の半ば狂気じみた欲望とバイタリティを見事世界に向けてサウンド化してみせた“Neon”には、パニック!アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーもコライトで参加。続く“Vandalize”は、沸々と立ち上がるエモーショナルなバンドサウンドとエレクトロニックなサウンドの融合が印象的な曲だが、それと同様に英語と日本語の歌詞を織り交ぜて違和感なくロックソングとしての響きを成立させる作詞技術にも注目すべき一曲。途方もなく巨大なスケール感のメロディとサウンドで、深い感謝の念に満ち溢れたメッセージを運ぶ“When They Turn the Lights On”は、間違いなくアルバム前半のハイライト。ロックソングをオペラのようにドラマティックに仕上げる手腕は、ロブ・カヴァロの本領発揮だろう。

“Let Me Let You Go”にはファイヴ・セカンズ・オブ・サマーのアシュトン・アーウィンやアメリカン・ティースのエリーシャ・ノールといったバンドマンたちがソングライティングに携わっているのだが、ドロップ構造を用いたフックの構築が現代的な響きだ。“So Far Gone”はアコギの弾き語り一発でも映えるようなビッグメロディの美曲。楽曲後半に向けて、壮麗に広がるアレンジが練り上げられている。“Prove”がまたライブで大活躍してくれそうな巨大なスケール感のロックチューンで、サウンドのパワフルな推進力と歌のフックが渾然一体となり、オーディエンスを波打たせる光景が目に浮かぶようだ。ONE OK ROCKが抱いた決意と夢、約束を何度でもビビッドに蘇らせてくれる。この曲と、続く“Mad World”が対を成すようにしてアルバム中盤の山場を形成している。日本語詞を中心に綴られた“Mad World”は、かつてTaka少年が15歳の頃に対峙していた世界を描き、ストレンジなリフを掻い潜るストーリーが胸に突き刺さる。米国の気鋭シンガーソングライターをゲストに迎え、エモーショナルな掛け合いボーカルが渦を巻きながら立ち上る“Free Them feat. Teddy Swims”も、スルーすることを許さない一曲になっている。

そして、エド・シーランcoldrainのMasatoらも参加した“Renegades”以降のアルバム後半は、既発曲を絡めながら熱いクライマックスへと向かう。物憂げな立ち上がりからソリッドなビートで転がり始める“Outta Sight”や、もはやクイーンのロックのスケール感を彷彿とさせる“Your Tears are Mine”。まったく、ベスト盤かと思うほどにキャッチーな名曲揃いなのだが、そんな本作の国内盤には、“Renegades”と並んで、映画『るろうに剣心』シリーズ最終章の主題歌として書き下ろされた“Broken Heart of Gold”も収録されていて感慨深い。

最終トラック“Gravity”は、藤原聡(Official髭男dism)を迎えて制作された。孤独な道を選んだ人にこそ寄り添う一曲であり、人間関係がひとつの結論へと導かれる。そしてアルバムは円環を描くように、“Save Yourself”というテーマへと立ち返る。歴史を振り返れば、ザ・ドアーズの“音楽が終ったら”やデヴィッド・ボウイの“ロックン・ロールの自殺者”、尾崎豊の“15の夜”がそうだったように、ロックは孤独な夜を掻い潜る人々にこそ寄り添ってきた。ONE OK ROCKの原点回帰というよりも、ロックの本質へと立ち返る大名盤だ。(小池宏和)


(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年10月号より)

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