マカロニえんぴつ、新章突入。惜別と夢の先を歌うEP『wheel of life』に刻まれた、バンドの新たな出発点

マカロニえんぴつ『wheel of life』
発売中
EP
マカロニえんぴつ wheel of life
2022年10月、マカロニえんぴつは初の全国流通盤であるミニアルバム『アルデンテ』(2015年)の最後に収録されていた楽曲“あこがれ”を再録し、リリースした。

《どんなに頑張ったって
あなたにはなれないけど
仕方ないだろう 憧れてんだ
やめないよ
やめられるわけないでしょ
追いかけてるんじゃない
探してるんだ》
(“あこがれ”)


“あこがれ”は己の現実の小ささを痛感する若いミュージシャンが、自らの「憧れ」に対して憧憬の念を抱いている歌にも受け止められるが、個人的には、その捉え方だけだと少し足りない。むしろ、右に引用した歌詞の《追いかけてるんじゃない/探してるんだ》というラインに見られるような、「これは単なる勝ち負けの勝負事ではなく、探求なんだ」という意志にこそ惹かれるものがある。

この曲を書いた頃のマカロニえんぴつは今のように世の中に知られる存在ではなかったが、それでも、もう既にはっとり(Vo・G)にとって音楽は人生だったのだと、この曲を聴くと感じる。多くの人が知るように、マカロニえんぴつは根っからのミュージックラバーの集まりである。だからこそ、彼らの目にはいつも何かに憧れる少年のような眼差しを感じることができるが、本当に彼らが探していたのは、端から他の誰かの背中ではなく、混濁し、謎に満ちた、自分たち自身の人生だっただろう。

“あこがれ(2022 再録)”も収録した新作EP『wheel of life』が届けられた。「wheel of life」――「輪廻」とも訳することのできる本作のタイトルに掲げられたこの言葉は、3曲目に収録された、はっとり作詞、長谷川大喜(Key・Cho)作曲による楽曲“TIME.”の歌詞に出てくる。

“TIME.”は、この曲だけでシングルリリースされてもおかしくないくらいの1曲である。メランコリックなシンセや震え泣くようなギターソロなど、バンドのドラマチックな面をこれでもかと盛り込みながら、過剰装飾的になっていない。アンサンブルの有機的な躍動感や“なんでもないよ、”以降の端正な質感もバランスよく併せ持ち、バンドの各々の個性を静謐さと共に届けることに成功している。

長谷川作曲の楽曲といえば、アルバム『ハッピーエンドへの期待は』(2022年)に収録された“ワルツのレター”も名曲だった。はっとり以外の現メンバーが作曲に全面的に参加し始めたのはアルバム『CHOSYOKU』(2017年)の頃からだが、はっとり曲以外の楽曲でもバンドの顔になるポテンシャルを持った曲が生まれているところが、今のマカロニえんぴつの強さだ。

『wheel of life』というタイトルや、バンドの原点ともいえる“あこがれ(2022 再録)”が収録されていることにも顕著なように、「時間」というモチーフはこのEPの根幹を成すテーマのように思える。《ねぇ wheel of life やさしくなれるまで/あと何度 生まれ直すだろう》、《maybe Itʼs okay ぼくらは今だけ/愛を忘れてる》――そんなふうに歌われる“TIME.”は、流れゆく時間の中を漂う「今」という時の「不確かさ」を、「確かに」描き出している。思い出すこと、未来を案じること……そうやって揺れ動きながら生きる「今」という瞬間。その揺らぎの中にあって、《憎むため じゃなくて 守るため たたかう》――そんな決意が垂直に突き刺さる。

本作からの先行シングルであり、ドラマ『100万回 言えばよかった』の主題歌でもある“リンジュー・ラヴ”は、死後も残った想いを巡るドラマの内容に即すように、「臨終」という言葉が「リンジュー」という造語になって掲げられている。ディティールには確実な深化を感じさせながら、全景としては彼らの直球というべきロックサウンドを展開するこの曲は、《何度もあなたの名前を 届かない声でも呼びたい》というサビの歌詞を書き出してみれば「未練」の歌に感じられるかもしれないが、実際はそうではない。むしろ、この曲に流れるのは清々しいほどの「ありがとう」と「さようなら」である。《どうかこのまま、お願い、振り返らないで/あなたの背中に手を振ってた。》という一節が、この曲の哀しくも温かな質感を集約して言い表している。

本作『wheel of life』は「時間」というテーマを全体的に含みながら、「時は流れる」という事実を憂いたり、否定しようとする作品ではない。むしろ、その哀しみも知りながら、時の流れを肯定するための作品である。マカロニえんぴつが前進し続けてきたことを誇り、この先も前進し続けるための作品。それを象徴するのが、1曲目に収録された“PRAY.”である。「第95回センバツ MBS公式テーマソング」として生まれたこの曲は、かつて野球少年だったはっとりが、過去の自分と「出会い直して」いるような1曲。今の若者たちに語り掛けている質感もあるが、単なる応援歌ではない。「夢を叶えろ」と告げる歌でもない。《敵わなかった夢の、先を走れ。走れ》――そう歌うこの曲に込められているのは、他の誰かの人生ではなく、自分自身の人生を歩いてきた人が、汗をかきながら、傷を負いながら、引っ掴んできた実感だ。もう「夢」や「憧れ」で何かを語ることができないほどに己の「生」を生きてきた人が、「それでも先に進まなくちゃいけないんだ」と、「俺は俺でしかあれないんだ」と、そう刻みつける曲だ。

このEPは、“あこがれ(2022 再録)”で幕を下ろす……と思いきや、最後の最後に“リンジュー・ラヴ(Short ballad ver.)”という約1分半の楽曲が収められている。“あこがれ”は再録されるに当たってアウトロが拡張されているが、「懐古でも、湿っぽい大団円でも終わらせない。ちゃんと『今』の俺たちで、この作品を終わらせる」という意志を、本作の「終わらせ方」には感じる。そこがとても素晴らしいと思う。(天野史彬)

(『ROCKIN'ON JAPAN』4月号より)


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