世界の構造が変容する中で――二十歳になったVaundy、初の有観客ワンマンに寄せて

世界の構造が変容する中で――二十歳になったVaundy、初の有観客ワンマンに寄せて
2020年10月10日、観客を入れたライブとしては初のワンマンを行ったVaundy。場所は今年7月にオープンしたばかりのライブハウス、Zepp Haneda(TOKYO)だ。
今年5月にリリースされた1stアルバム『strobo』のオープニングと同様、“Audio 001”の街の雑踏やトースターの音のサンプリング音をSEにライブは始まり、そのままアコースティックギターのカッティングが小気味良い“灯火”へ。

探した僕の運命と
揺るぎない世界の歌
そんな場所に僕たちは
いつまでも生きている
交わした天の約束を
裏切られたとしても
そんなことに僕たちは
気付かずに生きていくだけ

完璧な理想郷など
僕らにはあり得はしないから
(中略)
まだ見えない
未来を僕ら
灯火で照らしていくから

1曲終わったところで、Vaundyは「みんな撮っていいよ」と口を開いた。いくら規制をしたって今の時代はあらゆるところから情報が洩れる。そんな息苦しさを生まれた時から受け入れているかのような自然なトーンで放たれた最初の言葉に続いて、ダークなヒップホップチューン“不可幸力”が披露された。

どこにいっても
行き詰まり 
(中略)
みんな心の中までイカレちまっている
welcome to the dirty night
そんな世界にみんなで寄り添いあっている
(中略)
愛で
揺れる世界の中で僕達は
キスをしあって生きている
揺れる世界の中を僕達は
手を取り合っている

閉塞感に覆われる日々の中、到底強い光が注ぐとも思えない。しかし、それでも手を伸ばして何かをつかみ取ろうというような歌が、『strobo』には並ぶ。
『strobo』の楽曲の主人公は、基本的には「僕ら」であり「僕たち」だ。2000年生まれのVaundyの曲からは、Z世代の特性にあげられる「デジタルネイティブ」且つ、人の数だけスタイルも思考も存在する多様性を認め、それぞれの生き方を模索し、そして、完璧を求めない姿勢が透けて見える。そのうえで、連帯することが大事なのだと。その視座を象徴するような2曲がライブの冒頭で奏でられた。

そもそもVaundyが大きく注目を浴びたのは、2019年9月にYouTubeにアップした“東京フラッシュ”のMVがきっかけだ。
VFX処理がされた東京の街が映し出され、今では目にすることが珍しくなった公衆電話ボックスの中でVaundyは受話器を手に取り、誰かと話している。その後、渋谷、新宿、上野、浅草といった東京の中でも記号性の高い街を練り歩く。看板や車の文字は時に反転していて、並行世界と現実世界が混じり合った空間にも思え、Vaundy自身、あてもなく彷徨っているように見える。

東京フラッシュ 
君の目が覚めたら
どこへ行こうどこへ行こう
変わらないよ
東京フラッシュ
君と手を繋いだら
どこへ行こうどこへ行こう
変わらないよ
東京フラッシュ


やがて、Vaundyが手にするコミュニケーションツールはスマホへ。そしてまた公衆電話に戻る。移ろいゆく街と時代、翻弄されるように生きる人々。しかし、自分の意志で軽やかにステップを踏むことも、勢いよく走ることもできるわけで、そうやってこの混沌を生き抜いていく――。そんな物語を感じるMVになっている。

2000年生まれの現役大学生であるVaundyは、作詞・作曲・アレンジのみならず、アートワークのデザインや映像のセルフプロデュースも担っている。“東京フラッシュ”のMVは、同じ歳で旧知の仲であるというVFXアーティスト・MIZUNO CABBAGEととともに作られた。
ユーザーそれぞれが自由に考察を巡らせることのできる余白のある映像作品。様々な考察が拡散され、さらなる考察を生むような広がりを見せた。YouTubeしかり、TikTokしかり、もはや音楽は視覚的に楽しむコンテンツだ。その状況を考慮して作られたのだろう。
音作りにおいては、ひとつの潮流を作ったシティポップを軸に、プレイリストで上位になっている曲を聴き漁り、リスナーの最新のツボを探して作られていったという。
要するに“東京フラッシュ”は、Vaundyが自身初のバズを確信的に狙いにいった楽曲である。

容易に口ずさめるキャッチーなギターリフにメロウなメロディが絡むイントロ。艶っぽさと透明感が共存する歌に絶妙に外しのメロディを配すという抜かりのなさ。キックやタンバリンの位置があえてところどころずれているのも魅力的なポイントとなっている。
結果、このMVは公開から2ヶ月で100万再生を突破し、一躍Vaundyを新世代を代表するアーティストとして押し上げることになった。

その約半年後にリリースされた1stアルバム『strobo』は、ネオソウル、ヒップホップ、J-POP、ダンス、アニソン等、多様なジャンルが詰まっているが、特定のジャンルが突出することなく並列に聴こえるプレイリスト的な作品だ。どの曲もかゆいところに手が届くような、音楽の気持ちの良いツボを熟知したような優れたサウンドデザインを持っている。ひとつひとつの音や言葉にそこに置かれた明確な必然性があり、非常に機能的で洗練されている。大学でデザインを学んでいるというVaundyのバックグラウンドが確実に活かされているわけだ。2020年にリリースされた新人のアルバムの中では、出色のクオリティと時代性を持ち得ている。

話を10月10日に戻そう。
コロナ禍における自粛期間中、多くのミュージシャンがそうであったように、Vaundyも楽曲制作に時間を費やし、ライブでは複数の新曲が披露された。
中でも後半、「次の曲は、僕たちが家にひきこもっていた時に起きた悲しいことを綴った曲。でも、悲しいだけじゃきついので、その中に生まれる笑顔や楽しいことを書いた曲です」と紹介されてから披露された曲が、特に素晴らしかった。

やわらかなトーンに彩られたミドルテンポなチューン。混乱の中で明らかになっていく新たなる「本当」。
今の地球における悪と正義とは。倫理と命とは。僕たちの存在とは。――Vaundy自身初めて体験する地球規模のショックと戸惑いが言葉になり、でも、とても優しく明るいメロディとリズムを伴って、放たれていた。
2020年6月6日。東京で緊急事態宣言が解除された直後、二十歳になったVaundy。未だにどこに向かっているのかわからない状況が続き、パンデミックの終息は見えない。世界の構造そのものが大きく変わっている。カオスの時代を笑顔でサバイブしていこうというタフな決意が静かに滲んでいるかのような、温かい曲だった。

大衆とは気分であり、その曖昧模糊とした空気がポップミュージックには閉じ込められている。よって、優れたポップアーティストの楽曲には、その時代が如実に反映されている。世界が大きく変容している最中に生み落とされたVaundyの新曲からはその原理を改めて感じたし、Vaundy自身の表現もタフに進化している、そんな予兆を強く感じた。

(小松香里)


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