圧倒的なスケール感と、次元を超えたクオリティーと感動!
『Editorial』を世に放ったヒゲダンの「今」を見せつけた圧巻の最新無観客ライブ、全12ページで徹底検証する!
文=小川智宏 撮影=溝口元海(be stupid)
Official髭男dismにはでかいライブ会場がよく似合う。似合うというか、そもそも楽曲がそのスケールを想定している、あるいは要求しているようなところがある。それは“Pretender”の大ヒットが景色を変えたとか、それによって実際にライブをやる場所のサイズがドカンとでかくなったからとかいう状況的な変化によるものではなくて、本当に、最初から彼らの音楽はでっかく鳴っていた。たぶん4年か5年前くらいに、新代田FEVERかどこかで彼らのライブを観た時に、“犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!”か“異端なスター”あたりをやっているのを聴いて――もはやすべてがあやふやな記憶で申し訳ないのだが、もうどう考えても楽曲がハコのサイズに合ってねえじゃねえか、と感じたことだけは覚えている。お客さんがパンパンというわけではなかった、と思うのだけど。
別に「売れる前からわかってたぜ」ということを言いたいのではまったくなくて、本当のところはその逆だ。その時僕は、なんでこのバンドはこんな音をこんな場所でこんなふうに鳴らしているのか、まったく理解できていなかった。感じたのは「ん?」という違和感のような引っかかりだけだった。実際、違和感があったのだ。めっちゃプログレだったりめっちゃファンクだったりするのに、スタンダード然とした顔をして美メロをぶっ刺してくる。ちょっと待って、どこに向かって曲ぶっ放してんの君ら、という感じだ。目の前のフロア越しにものすごく遠くを見ているような感じが、ステージ上の彼らにはあった(ということなのだと今にして思う)。
「ものすごく遠く」なんて漠然としたものじゃなくて、彼らのポップミュージックは日本全国津々浦々、老若男女を余裕で射程に収めるものであったことをその後の歩みは証明しているわけだが、それは最初から当たり前にそうだったわけである。みんなが見つけていなかっただけ。地中から見たことのない恐竜の化石が出てきて「新種だ!」とみんな大騒ぎしているのだけど、当の恐竜からすれば「いや、俺ら1億年前からずーっとここにいたんだけど」みたいな感じだ。まあ、言うまでもなく、発見されることがレアで難しかったりするわけだけど。(以下、本誌記事に続く)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年11月号より抜粋)