ステージはいたってシンプルなセッティングで、背景にはいつもと違う「Kroi」のロゴ。5人はいつも通り気負いなくふらっと現れ、会場の高揚感が極限まで達した瞬間、内田怜央(Vo・G)が「やろう!」という力強い一声を発した。バンドリーダー関将典(B)がベースリフを爪弾き、ドラム、ギター、キーボードがジャムセッションのようにラフに絡み合う、普段とまったく変わらないKroiのライブがスタート。すると突如、背景のロゴが溶け出し、彼らが天井まで届く巨大なLEDビジョンを背負っていることに気づく。セッションはやがて聴き馴染みのあるイントロへと変わり、真っ赤な照明の中で毛細血管のような映像を伴いながら“Fire Brain”が始まる。Kroiの演奏に宿るグルーヴという心臓が、客席後方まで等しく血液を送り出し、武道館がひとつの生命体のように脈打つのを見て、「ライブハウスで観てきたKroiが大舞台でどう変わるのか」という不安はまったくの杞憂だったと即座に確信した。むしろKroiの音楽は今までずっと、このスケール感を必要としていたのだとまで思った。
Kroiはこのライブで、ミクスチャーな音楽性を持つ楽曲の中に結成から約6年の道のりにあった悲喜こもごもの思い出も、ともに歩んできた観客の想いもすべて混ぜ込みながら、ハイパーな映像と照明演出によって、そのサウンドスケープをこれまでのKroiのライブで味わったことがないほどデカいものへと膨らませていたのだった。(以下、本誌記事に続く)
文=畑雄介 撮影=jacK、Goku Noguchi
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年4月号より抜粋)
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