ロックバンドは、今日も生きている――UNISON SQUARE GARDENの配信ライブを観て

ロックバンドは、今日も生きている――UNISON SQUARE GARDENの配信ライブを観て
木曜の夕方だったと思う。「明日が終われば休みだ~」と疲れた感じでスマホをいじっていたら、UNISON SQUARE GARDENの情報解禁が目に入ってきた。2020年内の活動計画。しかもどーんと、5大トピックス形式で。何故か知らないが、今回に限らずこのバンドは、すごい量の情報を一度に解禁する傾向にある。それが若干可笑しくもあり、でも、まんまとワクワクさせられてしまうのだ。

しかし私個人に関して言うと、今回は切実な感情も混ざっていた。当時は5月中旬。外出自粛がいつ解除されるのかわからず、先の見えない生活に漠然と不安を抱いていた。音楽は衣食住に直接関係がないから、急ぎ必要ではないとされる。それは普通に理解できるが、いざライブに行けなくなった時、自分の心がこんなに沈むとは思わなかった。

そんなタイミングでの発表。ツアーは延期になったが、バンドは動いている。新曲が生まれたり、「今後の活動はどうしようか」と話し合ったりしている。それを知れただけで心は幾分軽くなった。5大トピックスの内容は以下の通り。

①昨年行われたツアーの模様を収めたライブDVD/Blu-ray作品をリリース
②制作中の8thアルバム『Patrick Vegee』を年内にリリース
③歴代MVを期間限定でフルサイズ公開(※現在は終了)
④フルアルバムのストリーミング配信を解禁
⑤初の配信ライブを開催

ここでは⑤=7月15日に開催された配信ライブ「USG 2020 “LIVE (in the) HOUSE”」の話がしたい。

開演を待っているとサウンドチェックの様子が聞こえてきて、SEがライブの始まりを知らせてくれるところまでは普段のライブと一緒。しかし舞台袖からステージへ向かうメンバーの姿まで見ることができてしまうのは、配信ならではのご褒美だろうか。1曲目は“mix juiceのいうとおり”。しかし音源通りではなく、サビから始まるアレンジだ。最初の3曲を終えたところで斎藤宏介(Vo・G)「MCなし、UNISON SQUARE GARDENです!」と告げ、バッチバチの展開が約束される。久々のライブだからといって、温いことをやるつもりはない。オーディエンスが(目の前に)いたっていなくたって、自分たちのやることは変わらない。そんなバンドの気概が窺える。

今回の配信ライブに際して、バンドは特設サイト内で「ライブで聴きたい曲」を事前募集。「ファン投票によるリクエストを元にバンド側でセットリストを決定する」 (=ファンの意向は汲むが最終判断をするのはバンド自身)とのことだったが、結果的に18曲中16曲が上位20位内からの選曲となった。この企画、言ってしまえば、「客とは気安く馴れ合わない主義」のユニゾンっぽくない試みではある。が、「限られた条件でどう遊べるか」というある種のゲームを始めることで、このバンドの「変わらなさ」が逆説的に浮き彫りになった。

たとえば、多くの人が「自分の投票した曲はいつ演奏されるだろうか」を気にしているのを見越したうえで、1曲目を音源と違うアレンジで始める天邪鬼さ。それこそ「客とは気安く馴れ合わない主義」的な、「僕らは好きにやる」、「君も好きに楽しむといい」というバンドのスタンスをユニークに伝える“オトノバ中間試験”、そして《愛が世界救うだなんて僕は信じてないけどね/今 目の前の君が明日を生きれるくらいには/ありえない不条理はぶっ蹴飛ばしていけ》と歌う“桜のあと(all quartets lead to the?)”と、通じる人には通じるメッセージを序盤に配置する感じ。“きみのもとへ”と言った直後に“君の瞳に恋してない”と軽く突き放す、つかず離れずの距離感。“オリオンをなぞる”から曲間0秒で“I wanna believe、夜を行く”に入る、余韻を遮断したうえで上回る驚き・喜びをもたらす展開。ユニゾンには数少ない斎藤作詞作曲の曲=“スカースデイル”を「1番:弾き語り、2番:バンド」というアレンジで演奏するという、文脈を踏まえての演出。

時にはいたずらっ子のように視線を合わせながら、音を合わせる3人はシンプルにめちゃ楽しそう。でありながら、キメというキメが都度都度精度高くキマッていく痛快さもある。およそ1時間半の間、一瞬も緩みを見せないバンドサウンド。右へ左へ、感情のまま動き回る田淵智也(B)は、コーラスのためにマイク前に戻るもギリギリ間に合っていなかったりする。エンターテイナー気質で、ワンマン恒例のドラムソロでは毎回に何かしらの要素をぶっこんでくる鈴木貴雄(Dr)は、今回、ヘッドセットカメラを装着しながら演奏。配信ならではの魅せ方に挑戦した。今回のセットリスト、ボーカルがハイトーンを連発する曲が序盤に固まっていただけに、特に斎藤は苦戦を強いられていたんじゃないかと思うが、驚くことに、ライブが進むにつれて彼は調子を上げていく。プロとしての誠意と根性が表れた歌に心を打たれた。

それぞれの曲についてもっと語りたいところだが、文字数が超過しそうなので、細かい話はrockin’on.comのライブレポートに譲りたい。

UNISON SQUARE GARDEN/生配信ライブ「USG 2020 “LIVE (in the) HOUSE”」
●セットリスト 1.mix juiceのいうとおり 2.オトノバ中間試験 3.桜のあと(all quartets lead to the?) 4.きみのもとへ 5.君の瞳に恋してない 6.オリオンをなぞる 7.I wanna believe、夜を行く 8.スカースデイル …
UNISON SQUARE GARDEN/生配信ライブ「USG 2020 “LIVE (in the) HOUSE”」 - All Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)

正直、実際にライブを観るまで危惧していたところもあった。「いい曲を作る」、「いいライブをする」というロックバンドとしての活動サイクルを愚直に回し続けてきたバンドだからこそ、そのサイクルが根幹から揺らいだ時、これまでの「通常営業」が叶わなくなった時、大ダメージを食らってしまうんじゃないかと。

しかし全くの杞憂だった。観客の盛り上がり様とか、時代の変わり様とか、自分たちでは操作しようのないところに本質を預けやしなかったバンドだからこそ、こういう時でも強度を保っていられるのだ。

そしてここで思い出す。結成15周年を迎えた昨年、2019年のことを。野外大型ワンマン、カップリングベストアルバムのリリース&ツアー、トリビュートアルバムのリリース&2デイズライブなど、普段ならばおおよそやらないような企画が目白押しだった1年を経て感じたのもまた「結局ユニゾンは変わらない」ということだった。「(バンドも観客も)何にも邪魔をされることなく、音楽を楽しめるロックバンド体験」が守られていることには変わりなかった。「変わらない」より「変わる」ほうがなんとなく難しそうなイメージがあるが、「変わらない」ためには強い意思が必要だ。ロックバンドとしての意地と誇り。そこに対するUNISON SQUARE GARDENの執着をなめてはいけない。

変わらない意思を貫いていたのはメンバーだけではない。そういう意味で印象的だったのが、“mouth to mouse(sent you)”と、ドラムソロ明けの“Phantom Joke”~“to the CIDER ROAD”だ。“mouth to mouse(sent you)”では歌詞に合わせてステージの下手側がブルーの、上手側がオレンジの照明に染められる場面があった。“Phantom Joke”~“to the CIDER ROAD”ではメンバーの背後に映像演出が映された。つまり、ツアーでホールライブをする時と同じような演出があったということ。

配信ライブの特色のひとつに、観客の視界を指定できる点がある。ライブ会場にいる観客は、自分の好きな方角に視線をやることができるが、配信の場合、カメラで映された場所しか見られない。だから「映さなければいいよ」ということにして、照明・映像による演出をカットすることができる。にもかかわらず、そうしなかったのは、「観客が(目の前に)いてもいなくてもやることは変わらない」、「自分たちは質のいいライブを作るだけ」という考えがチームの意思としてあったからだと推測できるわけだ。さらに今回に関しては、ユニゾンのライブを作るメンバー以外の人たちの存在を観客に伝える意図もあったのでは(エンディング映像でスタッフクレジットが細かく記載されていたのもそう)。

この日バンドは『Patrick Vegee』に収録される新曲“弥生町ロンリープラネット”を初披露。さらに、以下の情報を新たに解禁した。

①『Patrick Vegee』発売日が9月30日(水)に決定
②その初回限定盤には、今回の配信ライブ+セットリストに含まれていなかった4曲のライブの模様を収録した映像作品が収録される
③8月22日(土)に、2度目の配信ライブを開催
④そのセットリストはリクエスト投票31~70位の曲を基に構成される

相変わらず情報が氾濫気味。特に④、ちょっと捻くれたところのある彼ららしくて笑ってしまった。ライブがひとつ終わっても、まだまだこんなに楽しみがある。世界が大きく変わっても、ロックバンドは、今日も生きている。当たり前はなくならない、大丈夫だ。そう言われている気がする。「来月は来月で、もっとカッケーUNISON SQUARE GARDENになってライブできたらなと思っています」と斎藤。その口調は、これまでと同じものだった。(蜂須賀ちなみ)

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ロックバンドは、今日も生きている――UNISON SQUARE GARDENの配信ライブを観て - 『ROCKIN'ON JAPAN』2020年9月号『ROCKIN'ON JAPAN』2020年9月号
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