【連載】東京事変、全フルアルバム＆EP「全部のせ」レビュー――第1回『教育』『大人』『娯楽』

2021.12.19 18:00

2004―2021
祝！オールタイム・ベストアルバム『総合』発売
東京事変、全フルアルバム＆EP「全部のせ」レビュー

衝撃のデビューシングル“群青日和”を収録した1stアルバム『教育』から、2012年の解散と2020年の「再生」に至るまでの8年間を経ての最新作『音楽』まで。17年間の軌跡をひもとく全アルバムディスコグラフィー第1回！

『教育』（2004年）

1stならではのせめぎ合い

椎名林檎がソロでのキャリアとは別に、バンド形態での音楽表現を求めた、その第1作目となるアルバムが2004年11月リリースの『教育』だ。1曲目の“林檎の唄”は、この1stアルバムリリースの1年前にソロ名義でリリースした“りんごのうた”のセルフカバー。表記を漢字にし、もともとのソフトなボサノヴァフィールのアレンジを強力なバンドサウンドで再構築し、「椎名林檎」としての音楽と「東京事変」での表現の違いを明確に表明してみせた。初期メンバーであるH是都Mと晝海幹音が参加している唯一のアルバムではあるが、先行シングル曲“群青日和”など、走りはじめたバンドならではの音のせめぎ合いがいい意味での混沌を生んでいる。極端に歪んだギターでヘヴィなロックを鳴らす“クロール”も、リミッターをはずしたかのような過剰なアンサンブルがスリリングな“サービス”も、東京事変というバンドの稀有な在り方をよく表している。一言で言うならば、やはりこの1stアルバムは「カオス」。それは狙いというより実験的なおもしろさ。あるいは「バンドとは？」を自ら音楽で問うていく、その衝動を刻みつけた、色褪せぬ魅力を放つ作品。（杉浦美恵）

『大人（アダルト）』（2006年）

熟成の味わい

『教育』で、敏腕ミュージシャンたちのピュアなバンド感に胸を高鳴らせていた人間としては、『大人』リリース当時、メンバーも変わって緻密になったサウンドに、より真剣勝負に突入していった雰囲気を感じ、文字どおり大人の階段をのぼったんだなあ！と、まぶしく見上げるように聴いていた。ところが、今になってみると、しっくり心身に馴染むのだ。単純に、私が大人になったからなのだろうか。僭越ながら、椎名林檎は私と同い年。どれだけ背伸びを等身大にして生きてきたのだろう。改めて、その才能や鍛錬に圧倒される。また、熟成が必要な作品だったのかもしれない、とも思うのだ。『教育』からの……という流れを切り離して見られる今こそわかることが、たくさんあるから。耳や目や心で「体感」できる、鮮やかなサウンドスケープ。緻密さや気迫に圧倒されて聴き逃していた、キャッチーなリフやリズム。キュートな“透明人間”も、大人になった今だからこそ泣けてくる名歌詞だ。バチバチの“歌舞伎”と、深すぎる“手紙”とか、相反しているようで、当時の空気がまるっと封じ込められていると思う。ぜひ、『総合』リリースを機に、フルで聴き直してほしい一枚。（高橋美穂）

『娯楽（バラエティ）』（2007年）

確かに、まさに、「バラエティ」

椎名林檎は歌と13曲中9曲の作詞のみ、4曲の作詞（浮雲3曲、伊澤一葉1曲）と、すべての作曲は、他のメンバーに任せた（浮雲7曲、伊澤一葉5曲、亀田誠治1曲）3rdアルバム。
という情報を、音を聴く前に知った時は、「気持ちはわかるけど極端すぎるのでは」とか「近い時期に出たソロアルバム（『平成風俗』）と分けるためにそうしたのかも」とか、「メンバーの作家としての能力アップのためなのかな」とか、いろいろ思った。で、聴いて、全部間違いであることがわかった。単に、いい曲を書ける人たちなんだから、書いてもらわない手はない、ということだったのだと思う。あと、こんなに書ける人たちなんだから、その才能を世に問いたい、というのもあったのだろう。実際、浮雲・伊澤の、それ以降の活躍は、ご存知のとおり。
浮雲作詞作曲のリードシングル曲“OSCA”を最初に聴いた時の、「こんな日本のロック、しかもシングルで、ありなのか！」というショック、今でも覚えている。なお、浮雲と伊澤一葉が、椎名林檎と共にボーカルをとる、という、東京事変の定番のひとつになっていくスタイルがはじまったのも、このアルバムから。（兵庫慎司）

（『ROCKIN'ON JAPAN』2022年1月号より）

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