King Gnuの魅力としてまず、「個」の強さを挙げたい。バンドの首謀者で作詞作曲を手掛ける常田は、かつて東京藝術大学でチェロを専攻していた人物(といっても大学はすぐに辞めたそうだが)。Daiki Tsuneta Millennium Parade(DTMP)としてソロ活動もしていて、PERIMETRONというクリエイティブチームも立ち上げた。PERIMETRONは映像作家やスタイリストなどの若手フリーランスが所属していて、ファッションブランドのコレクションムービー、モデルのスタイリングなども手掛けている。King GnuはMVをはじめとしたビジュアル面も洗練されているが、それはPERIMETRONが制作を請け負っており、ブランディングがしっかりとなされているからだ。また、ベーシストの新井は国立音大のビッグバンドに所属していたらしく、ドラマーの勢喜遊は幼少期から自宅の電子ドラムを叩いていたり、プロのダンサーを目指してダンススクールに通っていたりと、元々パフォーマー気質だった。常田と同じ東京藝大出身で声楽を専攻していたボーカリストの井口は、現在役者としても活動している。
終身雇用制度の崩壊が語られるようになってしばらく経つなか、現代の日本では、組織に依存せずとも生存できるような「個」のスキルが求められている一方、例えばインフルエンサーによるサロンの運営など、自立した「個」同士がゆるやかな繋がり(=コミュニティ)を構築する動きも表出し始めている。そう考えると、King GnuやPERIMETRONの在り方も社会の空気にフィットしていて、非常に現代的だ。ライブを観ると、現時点ではバンドとしての塊感よりも各々のキャラクター、自由度の高さが際立っている印象があり、その歪さがかえって面白かったりする。
音楽性はというと、ヘヴィかつダークな曲調が多く、(特にリズム隊において)ブラックミュージックからの影響が強く感じられる。しかしそれをあくまで歌モノとして着地させていること、また、ほぼ日本語詞であることがこのバンドの大きな特徴だ。バンドのロゴマークに「JAPAN MADE」という文字がある点から察するに、邦楽然とした佇まいであることはKing Gnuにおいて重要な要素なのかもしれない。そんな歌メロを、歌唱力抜群でどこか気品ある声質の井口、掠れた声がワイルドな常田、という対照的な二声が歌い上げる。そうして生まれる「知性と泥臭さ」、「クールさと低俗さ」が渦巻くサマは、「東京」あるいは「日本」の持つ混沌に似ている。
ここまで長々と説明してしまったが、「King Gnuってどんなバンド?」ということを知りたければ、7月13日より配信開始された新曲“Flash!!!”を聴くとよい。全部で3分弱。ライブではすでにおなじみのショートチューンは、シンセを大胆に取り入れた刺激的な曲。歌詞にはこのバンドの姿勢が反映されているため、MVを観る際にはぜひ字幕の内容も追ってみてほしい。それにしてもこのMVもすごい。MADやCGが挿入されるタイミングが的確で、これはおそらく、観た者の記憶に残るよう計算し尽くした結果なんじゃないかと思う。
なお、“Flash!!!”のMVは、スペースシャワーTVの「POWER PUSH!」、MUSIC ON! TVの「M-ON! Recommend」に決定しており、各局でヘビーローテーション中。また、これとは別の新曲“Prayer X”がTVアニメ『BANANA FISH』(フジテレビ)のEDテーマとして現在放映中だ。これらを入り口にして、さらに多くの人が彼らの魅力に惹かれていくことだろう。乗り遅れたと後悔はしてほしくない。あなたもこれを機に、King Gnuに出会ってみてはいかがだろうか。(蜂須賀ちなみ)