私が彼らに興味を持ったきっかけは、先述したように“アニー”だった。胸をきゅっと掴んでくるような優しい切なさが薫る哀愁と、すぐにでも口ずさみたくなるようなカントリーサウンドが居心地よさそうに同居しているその曲に私はすっかり惚れ込んでしまったのだ。その“アニー”が収録されている自主制作盤『リブ・フォーエバー』は、2017年9月にライブ会場限定販売作品としてリリース。そして発売を追う形でMVが公開されると、私と同じく彼らに興味を持つ人が増えていった。それは再生回数の伸び率からも数値的に分かるし、音楽が好きな友人たちの中でもしきりに「ズーカラデルって知ってる?」という話が出てきたことからも体感していた。その後、2018年3月に現体制となり、同年11月に2ndミニアルバム『夢が醒めたら』、そして今年2019年 7月に1stフルアルバム『ズーカラデル』をリリースした彼らの魅力は、「この曲が良い!」という純粋かつ劇的な効力を持つ口コミをきっかけに大きく広がっていった。
ここまで「“アニー”最高!」という話をしてきたが、リリースを経てどんどん増え続ける彼らの楽曲を聴くと、今となればこの曲はあくまでも最高のきっかけに過ぎなかったのだなぁと思う。あらゆる人間関係を経験してくると「そういえば、あいつのことを悪く言う奴って聞いたことないな」という人がいるけれど、ズーカラデルの音楽はまさにそんな感じだ。あのメロディを毛嫌いしたり拒否したりする人はいないんじゃないか?と思うくらいに、あらゆる人を巻き込んでしまえる包容力と魅力を持っている。それは彼らの音に含まれている聴き馴染みの良い懐かしさや穏やかさもそうだし、気張ったような尖りのなさがそうさせるのだと思う。そんな人懐っこいメロディに乗る歌詞の主には物語性を強く感じさせる言葉が連なっているが、時に《誰かさんみたいに世界を変えたいんだろ/ひとりの心の中も変えられないままで》(“ビューティ”)のように、時にピシッと背筋を正してくれるような刺激を与えてくれる。豊かで良質な音で楽しませたいけれど、だからといってネガティブな感情を押し殺してまで誰かを気持ちよくさせたいわけではない。ズーカラデルの音楽からそういった人間たる二面性をありのままに歌える素直さを感じるからこそ、こちらも安心して聴き続けられるのだろう。
9月からは最新作『ズーカラデル』を引っ提げての全国ツアー(その名も「全国ツアー」! 分かりやすい!)も控えているので、この親密な空気感をその肌と耳で感じてみてほしい。彼らのライブは楽曲もさることながら、とても丁寧で心地良いので。(峯岸利恵)