昨年から兆候は大いにあったが、今年に入ってからのBiSHの勢いがあからさまにすごい。3月のZepp Tokyo公演は勿論、7月に行った幕張メッセイベントホール公演もソールドアウト。全国各地でのライブ、イベントでも超満員を連発。最新アルバム『THE GUERRiLLA BiSH』は、iTunes総合アルバムチャート1位。セブンイレブンとのコラボレーションソング“おでんの歌”を聴くと、味しみ大根、濃厚絹ごし三角厚揚げ、こだわりの逸品焼きちくわなどを食べたくて仕方なくなる……などなど、華々しい事柄は数知れない。そして12月1日には、ついに『ミュージックステーション』に初出演! ビッグアーティストたちに続いて堂々と登場した彼女たちは、澄ました顔でコマネチ……。「なんだ、こいつらは!?」と思った人も多いだろう。BiSHは、様々な点で異質なグループだが、あのコマネチは、まさにその部分を視聴者に印象づけるための粋なジャブになっていたと思う。
数々のガールズグループが存在する中でも一際光っているBiSHのユニークさの源とは、一体何なのか? この点を語る上で、やはり押さえておかなければならないのは、彼女たちの結成の経緯だろう。すでによくご存知の方も多いとは思うが――BiSHは「BiSをもう一度やろう!」と、BiSを手がけていた渡辺淳之介、サウンドプロデューサー・松隈ケンタが再び動き始めたことによって誕生した。BiSとは2010年から2014年まで活動した女性アイドルグループ(2016年から新体制で再始動しているが、2015年3月に結成されたBiSHの背景について綴っている本稿の中では、「BiS」とは「第1期のBiS」を指すものとする)。すっぽんぽんで野山を走り回るMVを公開したり、スクール水着で観客の中に飛び込んだり、ぬるぬるした動物の臓物を投げたり、車中泊&自炊で全国ツアーをまわってメンバーたちが疲弊しまくったりするなど、BiSは、いろいろな意味で型破りな存在であった。そんな彼女たちの流れを汲むBiSHにも、当然ながら同種の要素が色濃く反映されている。
まず、私は最早完全に慣れてしまっているので、うっかり紹介するのを忘れそうになっていたが、BiSHのメンバーたちの名前は、やはりどうかしている。アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D……就職活動の履歴書に書いたら間違いなく怒られる異常な名前のメンバーばかりだ。その他にも下ネタに対するメンバーたちの抜群の対応力、ライブ中の命知らずなヘッドバンギング、ダイブ、クラウドサーフ、いかがわしい言葉に聞こえて仕方ないのに歌詞カードを見るといかがわしくはない曲たちの存在(この作風を体感したい人には、“OTNK”という曲をオススメしておく)、メンバーたちが気持ち悪い液体まみれにされている“BiSH-星が瞬く夜に-”に代表されるようなぶっ飛んだMVの数々、時折炸裂する「かわいい」とはなかなか言いづらいアーティスト写真、メガネが外れたらクビになってしまうというハシヤスメが背負っている壮絶な宿命……などなど。これらはBiSで培われてきたものの継承、発展形だと言っていいだろう。そして、このスタイルを端的に言い表しているのが、メジャーデビュー以降、彼女たちが掲げている「楽器を持たないパンクバンド」というコンセプトだ。
BiSHの活動に一貫して脈打っている刺激は、「パンク」として捉えるのが、とてもしっくりくる。そもそも彼女たちのサウンド面に関しても、主体となっているのはパンクロックだ。疾走感に溢れたメロディックパンク的なものの他、70年代後半のオリジナルパンク、80年代以降のハードコアパンク的な曲も数多い。99秒の尺の中に雄叫びと爆音が轟きまくるメジャーデビュー曲“DEADMAN”は、「楽器を持たないパンクバンド」としての彼女たちの痛快な攻撃開始の狼煙であった。
このような曲たちを表現する歌声が、とても素晴らしいのも特筆すべきことだ。誇張でも何でもなく、まさしく「魂を揺さぶられる」と紹介するのがふさわしいハスキーでソウルフル、時にはブルージーでもある声を持っているアイナ。可憐な透明感を漂わせつつ、不思議と程よい少年性も帯びているチッチ。このふたりを頼もしい切り込み隊長としつつ、全員で繰り広げる歌は、いつもドラマチックなコンビネーションを発揮している。松隈ケンタの制作チーム「SCRAMBLES」が生み出しているサウンドにフレッシュなパンクロックとしての生命を宿らせている6人の姿が、実に眩しい。BiSHのバンドスコアが今年の7月に発売されたが、彼女たちの曲をバンドで演奏するのもオススメしたいところだ。楽器演奏、合奏の喜びを知る入り口に成り得ているという点でも、BiSHは正統派のパンクバンドに非常に近しい側面を持っている。
また、6人が紡ぎ出している生々しい表現も、パンクに通ずるパンチの利いた存在感に繋がっているのだと思う。BiSHの曲は、メンバー自身が作詞を手がけているものが数多い。深い詩情を湛えた作風からユーモラスなものまで、幅広い切り口が冴えているモモコ。シンプルな表現でありながらも圧倒的に人の心を打つ言葉を放つことに長けているリンリン。このふたりの書く歌詞は、特に異彩を放っている。そして、ダンスが手作りで生まれている点にも、触れておかねばなるまい。振り付けを担当しているのはアイナ。かっこよさの中にウィットもきらめくBiSHのダンスは、キャッチーさの塊だ。例えば“プロミスザスター”には、噛み切った手の親指から滴る鮮血で大きな星の形を描くかのような動きが盛り込まれている。この曲は『ミュージックステーション』で披露されたが、視聴者の胸に強烈に焼き付いたのではないだろうか。
と、ここまで細かなことをいろいろ書いてきたが……BiSHの本質で息づいているのは、極めてシンプルな「応援したくなる」という魅力でもある気がしている。共に物語を歩んでいるような感覚になって、ハラハラドキドキできるという点で、彼女たちは王道のガールズグループでもあると言っていいだろう。『ミュージックステーション』を観ながら私が感じたのも、そういうものであった。「ハシヤスメのメガネが吹っ飛んでクビになったらイヤだなあ」、「リンリンがトークコーナーでタモリに話を振られて無口担当ぶりを発揮したらヤバイぞ」、「チッチはしっかり者だから安心だけど、大事なところで転んだりしませんように」、「アイナ、まさか変なことを突然言い出したりしないだろうな?」、「モモコがうっかり椅子と間違えて椎名林檎とかの膝の上に座っちゃったらどうしよう」、「アユニの完璧な美少女っぷりが視聴者に見つかっちゃう!」というようなことを考えながらも、「本当に良かったなあ」という想いと共に画面を見つめるのは、とても幸せなひと時であった。
BiSHは、来年の5月22日に横浜アリーナでワンマンライブを行う。『ミュージックステーション』内のCMでそのことが発表された瞬間、過去最大規模のライブであることにも胸が躍ったが、2014年7月8日に行われたBiSの解散ライブの会場に辿り着いたという点も感慨深かった。あの解散ライブのタイトルは「BiSなりの武道館」――BiSは日本武道館での単独公演を以って解散することを目標にして活動していたが、諸事情によってそれは叶わなかった。そんな想いが刻まれている場所にBiSHが立った時、また新しい何かが始まるのだと思う。少なからずアクが強いこの6人のお姉ちゃんたちは、今後さらにどんな物語を描いていくのか? 期待はますます膨らむ一方なのだ。(田中大)