その奇跡の一夜がこの時代に実現することが重要なのは、珠玉の音楽で時代を築いてきた3組のいずれも、今なお「黄金期を更新し続けること」の凄味を身をもって証明しているバンドだから――であることは言うまでもない。
「主催バンド」エレファントカシマシと「ゲスト」であるスピッツ&Mr.Children。音楽的にも世界観的にもそれぞれまるで異なるキャリアを築きつつも、「時代に作用するロックであること」、「時代を象徴する普遍性を持った『歌』であること」を、長年にわたって音楽シーンの最前線で体現し続けてきたバンドだ。その在り方は、彼ら3組がいずれもアルバムアーティストであると同時に「シングル重視型」の活動を展開してきたことからも十分に窺える。
そして――この3組について考える際、本稿で改めて注目しておきたいのは「シングルアーティストとしてのエレファントカシマシ」という点だ。
Mr.Childrenは1992年の1stシングル『君がいた夏』から今年1月の配信限定シングル『here comes my love』までシングル44作品、スピッツは1991年の『ヒバリのこころ』から最新シングル『みなと』までCD・配信合わせて41作品をリリースしている。そして――1988年のデビューからちょうど30周年を迎えているエレファントカシマシは、昨年発売された『RESTART/今を歌え』までシングル50枚、配信限定シングル含め実に51作品を発表している。
もちろん、この3組はデビューからの期間も異なるので、単純に作品タイトル数だけの比較は意味を持たない。だが、たとえばエレファントカシマシがユニバーサルに移籍した後の2007年以降という期間に限って見ると、Mr.Children:15作品、スピッツ:10作品に対して、エレファントカシマシは17作品、と最もハイペースにシングルを発表していることがわかる。
「絶対に、シングルっていうものは勝負していかないといけないですね。売れる・売れないは別として、出す意味っていうのはもう絶対にあるんだなあっていう。で、それは絶対に一番いい曲を出さなきゃ意味がないんだなって思ってます。『いい曲』っていうのは、『どの曲もいい曲だ』っていうことじゃなくて、自分たちが持ってるものの一番いいダイジェスト、やっぱり自分たちの一番いいところを入れるもんだって」
かつて宮本浩次は『Destiny』(2014年)リリース時、シングルへのこだわりについてそんなふうに語っていた(単行本『俺たちの明日ーエレファントカシマシの軌跡 下巻』参照)。
1994年5月のアルバム『東京の空』発売を最後に、当時の所属レーベル=エピックとの契約が終了。Mr.Childrenが同年6月発売の“innocent world”で、翌1995年にはスピッツが“ロビンソン”で大ブレイクを果たす中、「ロックバンドとして時代を代表するヒット曲を送り出すこと」への探究心を高ぶらせていたことを、宮本は「その時に、『俺はMr.Childrenになるんだ!』と思ったんですね」(『俺たちの明日ーエレファントカシマシの軌跡 上巻』)という言葉で振り返ってもいる。
そして1996年4月。スピッツが『チェリー』を、Mr.Childrenが『名もなき詩』に続くシングルとして『花 -Memento-Mori-』をリリースしたのが4月10日。その9日後、エレファントカシマシはポニーキャニオン移籍第一弾シングルとなる『悲しみの果て/四月の風』で、後の躍進へ向けて新たなスタートを切ることになる。
ちなみに、先ほどのCD&配信限定シングル作品数の比較を上記の「1996年4月」以降というスパンに広げて見ると、Mr.Children:34作品/スピッツ:29作品/エレファントカシマシ:42作品。ポニーキャニオン移籍以降のエレファントカシマシの「シングル多作」ぶりからは、「自分たちが持ってるものの一番いいダイジェスト」をシングルとして世に問い続けるというファイティングスピリットが、契約解消という挫折&新たなレーベルでの再出発を経てさらに加速したことが歴然と伝わってくる。
その後、エレファントカシマシは“今宵の月のように”(1997年)で初の週間チャートのトップ10入り、アルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』で50万枚セールスを実現。1998年、スピッツ・草野マサムネと『bridge』誌上で対談した宮本は、で当時の状況を次のように語っている。
草野「正直言うとエレカシがオリコンとかに入ってくる時代っていうのを、俺は予測してなかった――ファンとしてなんですけど。なんか時代ってすごい簡単に変わっちゃうんだなあと思って。だから、300万枚とか売れてもおかしくないと思いますけどね」
宮本「ただ、まずMr.Childrenがいて。で、スピッツがやっぱり、相当いい曲があるんだっていうことを――その2バンドに関しては、すごく正当にバンドやってるものがいいっていうこと――だから僕たちがやりやすくなったっていうのは実はあります」
草野「ミスチルが切り開いてくれたっていうのは大きいですよね」
(『俺たちの明日ーエレファントカシマシの軌跡 上巻』・P107より)
自らのターニングポイントとなったMr.Childrenとスピッツの存在についてそんなふうに話していた宮本にとって、ひいてはエレファントカシマシというバンドにとって、30周年を迎えた今この2018年という時期にその2組と「対バンライブ」を行うことは、あまりにも必然的なアクションだったのだろう。
それこそ“デーデ”や“奴隷天国”の時代から、シングルというリリース形態を通してその「一曲入魂」感を全身全霊傾けて提示してきたエレファントカシマシ。“今宵の月のように”の後も、“風に吹かれて”(1997年)、“はじまりは今”(1998年)など珠玉のメロディを備えた名曲を次々にシングルとして世に送り出してきた。
激烈ミクスチャーロックの極致“ガストロンジャー”(1999年)あり、《アノ19世紀以来 今日に至るまで/この国の男の魂は右往左往》と俠気をぶち上げる“化ケモノ青年”(2004年)あり……といったエッジ感満載のシングル曲も発表する一方で、エレファントカシマシの中で「ロック」と「歌」をより高次元で統合するための切磋琢磨が行われてきたことは、ユニバーサル移籍後の“俺たちの明日”や“新しい季節へキミと”といった楽曲群、さらに昨年7月のシングル曲“風と共に”の凄絶で美しいメロディを聴けば明らかだろう。
フェス/ワンマン問わず“今宵の月のように”と“ガストロンジャー”という両極のシングル曲をひとつのセットリストの中で響かせてみせるここ最近のライブの訴求力も、最新シングル曲群のハイエナジーな気高さも、30年という長い年月に及ぶ「シングルという闘い方」の迫力を如実に物語るものだ。
3月17日(土)に行われる30周年記念ツアーのフィナーレを飾る集大成的ワンマン「30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" FINAL」、そしてその翌日に同じくたまアリを舞台に行われる「30th ANNIVERSARY TOUR “THE FIGHTING MAN” SPECIAL ド・ド・ドーンと集結!!〜夢の競演〜」。
デビュー以降メンバーチェンジもなく、シーンの変化の荒波に押し流されることもなく、着実に2018年という時代の真っ只中を歩み続けるエレファントカシマシ、スピッツ、Mr.Children――。一切のレトリック抜きで「今が最高潮」を楽曲とライブで証明しているこの3組にとってはもちろん、日本の音楽の歴史と「その先」の未来にとって、極めて重要な一夜となることは間違いない。(高橋智樹)