【知りたい】Hi-STANDARDはこんな風に音楽業界の常識を覆してきた!

Hi-STANDARD、通称ハイスタ。91年に結成された日本のパンクバンドである。

その彼らが、昨年発表のシングル『ANOTHER STARTING LINE』、『Vintage & New,Gift Shits』に引き続き、10月4日、ついにニューアルバム『THE GIFT』を発売――前作『MAKING THE ROAD』から、なんと18年ぶりのアルバムリリースだ。待望どころの騒ぎではない。発売が発表された今年の夏から、音楽シーンどころか世の中的にも、大袈裟でもなんでもなく文字通りの大騒ぎだ!

そんな中にあって「えっ、この大きな看板何?」、「ハイスタって誰?」、「何でこんなに大人がソワソワしてるんだ?」と、首を傾げるお若い方もいることだろう。ちなみにそのソワソワしている大人たちは、今でこそきちんとした格好をしているかもしれないが、90年代はキッズと呼ばれたパンク出身の方々だ。そしてそもそも90年代~2000年代初頭にパンク好き爆音好きの元キッズが一際多いその理由も、ぶっちゃけハイスタに起因しているのである。ハイスタは、いろいろ特別なバンドなのだ。

ということで、ここではハイスタを知らない若い方に向け、彼らがいかに特殊な存在であるのかについて解説していきたい。ついでに、彼らの新譜&旧譜に興味を持って聴く機会になってくれたら嬉しいなと思っている。


①音は爆音、歌詞は英語。そして一大シーンの発生



91年の結成時から現在まで、彼らの楽曲の根幹となっている要素は、まず「速い・煩い・短い=ファスト・ラウド・ショート」という、いわゆるパンクの三種の神器だ。さらに彼らは、そこに時に甘く時に切なく同時に豪快に弾けまくる黄金のメロディーを炸裂させた。めっちゃ速くて、めっちゃタテノリで、めっちゃメロディアス。そしてメロディック・ハードコアという言葉が発生し、ハイスタは日本の元祖として認識され、さらには次々と後続バンドが出現した。

面白いのは、後続となったバンドのほとんどが、ハイスタにならうように歌詞を英語で歌ったことだ。英語が母国語ではない我々にとって、英語で歌詞を作り英語で歌うことは基本ハードルが高いはずだった。また、「セールスを考えるならマイナスになるから一般に理解され難い英詞は絶対にやめたほうがいい」という考え方が常識な時代でもあった。爆音で英語、普通なら一般層に浸透するはずがない二重苦。でも、だからこそ、ハイスタのスタイルはカッコ良く映ったし、カッコいいからこそみんな続いたのだ。また、そもそもパンクの源流はUK&USにあり、パンク好きはみんな普通に洋楽も聴いていたことに加えて、90年代中盤のグリーン・デイのブレイクによってUSパンクの勢いが復活復権し、バッド・レリジョンやオフスプリング、NOFX、ランシドといったバンドに大きな注目が集まったことも後押しとなり、ついに90年代日本のパンクシーンにおいては、英語で歌うことがごく普通のことになったのだ。

速くてメロディアスなパンクバンドも、英語で歌うパンクバンドも、それまで日本にいなかったわけではない。むしろいっぱいいた。だが、それらをもって爆発的な人気と支持を獲得し、さらに後続シーンの発生にまで繋げたバンドは、ハイスタが最初だし現在のところ最後だ。

②「前例は演歌ぐらい」――ロック界異例の売れ方



ハイスタは、アンダーグラウンド出身のバンドであり、現在も自らのレーベル、PIZZA OF DEATH RECORDSからリリースしているインディーズバンドである。だが、インディー盤である1stミニアルバム『LAST OF SUNNY DAY』の発表を手助けしたことを縁に、1stフルアルバム『GROWING UP』と2ndフルアルバム『ANGRY FIST』はメジャーであるトイズファクトリーからリリースしている。これについて、当時忘れられないエピソードがある。トイズの担当者が「お金をかけて宣伝してあげられたわけじゃない。むしろ大したことはしてないんだけど、でも毎日100枚以上売れるんです。日本全国で毎日100人以上の人が『GROWING UP』を買ってるんですよ。それがここ1年以上ずっとなんです! だからチャートも、下の方だけど延々と載り続けているし、そもそも総売上枚数の累計も物凄いことになってきた。こんな売れ方、ロックでは見たことないです。ていうか演歌ぐらいでしか前例がないですよ!」とのたまったのだ。ぶっちゃけ、たまげた。ちなみにその当時、彼らが何をやっていたかというと、ひたすら日本全国の小さなライブハウスを尋常じゃなく回っていたわけだが、そんなのバンドの基本だ。つまり、彼らは決して爆発的な瞬発力があったバンドではなく、むしろ地道かつ真っ当に活動していたら、観たお客さんによる純粋な口コミで日本全国に広まってしまったバンドだった。しかもネットはおろか、携帯すらも普及し始めたかどうか怪しいくらいの時代の話だ。おまけに雑誌にも大して載ってなかった。そもそもパンクバンドを掲載する音楽雑誌なんて、この当時ほぼ無かったのだ。ただただ、観た人が友達に熱く語り、そしてそれが全国に広まってゆく――とても美しい話だと思っている。


ちなみに、3枚目のフルアルバムとなる『MAKING THE ROAD』で、彼らはPIZZA OF DEATHというレーベル名をそのまま会社名に用いて独立し、インディーズバンドとなって、並み居るメジャー勢をなぎ倒す痛快なセールスを打ち立てて行くわけだが、この時、別にトイズと対立したわけではないことを付け加えておきたい。トイズはむしろ、彼らの夢を後押しするべく彼らを敢えて手放したのだ。トイズとハイスタの関係は、いわゆるメジャーレコード会社とバンドという関係を超えて、とても家族的なものだった。トイズに所属するパンクバンドが多かったのも、こうした社風が関係していたと思う。



③アーティスト主体で作る大規模フェス「AIR JAM」の開催



これについては、若い方でも流石に知っている人が多いのではないだろうか。パンク&アンダーグラウンドシーン主体の手作り大規模フェスである。発案実行者はもちろんハイスタ。第1回は97年で、ライブハウスで対バンしてきた仲間たちと共に、その対バンライブの雰囲気のまま規模をデカくしようとする実験的かつ画期的な試みから始まった。中でも忘れられないのが98年だ。豊洲の広大な空き地にひしめく3万人の観客、轟く爆音と巻き上がる砂埃。でも出演バンドは出順が終わったら普通に客側に混じって観客と化しているばかりか、各メンバーがそのままブースでTシャツの売り子になっていたりもする。そしてそれで何の混乱も起こらない、というかそれが普通というムードが行き渡っていた。3万人もいたのに、である。言い換えれば、ここに居る3万人みんなが平等でみんなが仲間という、あり得ないようでそこにある独特の空気感――そんな大規模フェスとかそれまで見たことも聞いたこともなかったし、何よりとにかく最高だった。

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④常識を乗り越えろ! 既存システムへの挑戦


彼らの在り方は一貫している。あくまで市井の人間の一人として、一人間の自覚を持って、でも誰もやったことがない特別なことをやろうとするのだ。常識、既存のシステム、そんなものはお呼びではない。発案も実行も運営も全部、自分たち主体で行おうとひたすら努力するのである。

たとえば、先の「AIR JAM」なら、いち早くチケットに認証システムを導入するなどして販売方法を大きく工夫し改善した。彼らがこれをいち早く実行できたのは、長年そこと戦ってきたからでもある。確か最初は、自分たちのライブに毎回くるようになったダフ屋に「やめてくれ!」とメンバー自ら直接交渉することから始まったはずだ。お客さんが来やすいようにと安い料金設定でライブを行っているのに、ダフ屋が出てきては値段が上がるし、そもそも来たい人間に行き渡らないと憤慨したのである。しかも怒るだけでは終わらせず、かつ自分たちだけではどうにもならないと諦めることも決してせず、むしろ地道に対策し続けて遂には対抗手段を生み出したのだ。ほんと凄いなと心から思った。

ただ、人間、努力し続けることが困難な時もある。ハイスタの場合、尋常じゃなく売れたことで、それに対するストレスも半端なかっただろうことは容易に察することができた。というか、メンバー全員ちょっとみんな、明らかに大分参ってた時期もあった。なので休みを求める期間があったって仕方ないはずだ。そんなもんは自己修理期間だ。
しかし、多くの人が打ちのめされる未曾有の大災害が起こったことを機に、彼らは、苦しんでいる仲間のためにできることをするべきだと、自分たちにできることをしなくちゃと改めて手を取り合い、再び立ち上がってくれた。

ハイスタは偉大なバンドだが、同時にあくまで仲間の延長線上にあるバンドだ。絶対的な神とかじゃなく、努力し困難に立ち向かう姿を見習うべき、一人間として敬愛すべきバンドだ。「手作りのインディーズだって、やろうと思えばこんなこともあんなこともできるんだぜ! 君だってできる、君もやってみなよ!!」彼らはいつでも音楽で、態度でそれを分かりやすく示す。今回の宣伝、発売に関してもそれが存分に発揮されていると思う。どうか興味を持ったなら、1フレーズでもいいから聴いてみてほしい。聴く手段は彼らがいっぱい用意してるから大丈夫。彼らの音楽は、若い貴方が抱えているだろう日々の不満や不安や苦しみを、自分の手で前のめりに打開するための手助けに、きっとなるはずだから。(中込智子)


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