③アーティスト主体で作る大規模フェス「AIR JAM」の開催
これについては、若い方でも流石に知っている人が多いのではないだろうか。パンク&アンダーグラウンドシーン主体の手作り大規模フェスである。発案実行者はもちろんハイスタ。第1回は97年で、ライブハウスで対バンしてきた仲間たちと共に、その対バンライブの雰囲気のまま規模をデカくしようとする実験的かつ画期的な試みから始まった。中でも忘れられないのが98年だ。豊洲の広大な空き地にひしめく3万人の観客、轟く爆音と巻き上がる砂埃。でも出演バンドは出順が終わったら普通に客側に混じって観客と化しているばかりか、各メンバーがそのままブースでTシャツの売り子になっていたりもする。そしてそれで何の混乱も起こらない、というかそれが普通というムードが行き渡っていた。3万人もいたのに、である。言い換えれば、ここに居る3万人みんなが平等でみんなが仲間という、あり得ないようでそこにある独特の空気感――そんな大規模フェスとかそれまで見たことも聞いたこともなかったし、何よりとにかく最高だった。
④常識を乗り越えろ! 既存システムへの挑戦
彼らの在り方は一貫している。あくまで市井の人間の一人として、一人間の自覚を持って、でも誰もやったことがない特別なことをやろうとするのだ。常識、既存のシステム、そんなものはお呼びではない。発案も実行も運営も全部、自分たち主体で行おうとひたすら努力するのである。
たとえば、先の「AIR JAM」なら、いち早くチケットに認証システムを導入するなどして販売方法を大きく工夫し改善した。彼らがこれをいち早く実行できたのは、長年そこと戦ってきたからでもある。確か最初は、自分たちのライブに毎回くるようになったダフ屋に「やめてくれ!」とメンバー自ら直接交渉することから始まったはずだ。お客さんが来やすいようにと安い料金設定でライブを行っているのに、ダフ屋が出てきては値段が上がるし、そもそも来たい人間に行き渡らないと憤慨したのである。しかも怒るだけでは終わらせず、かつ自分たちだけではどうにもならないと諦めることも決してせず、むしろ地道に対策し続けて遂には対抗手段を生み出したのだ。ほんと凄いなと心から思った。
ただ、人間、努力し続けることが困難な時もある。ハイスタの場合、尋常じゃなく売れたことで、それに対するストレスも半端なかっただろうことは容易に察することができた。というか、メンバー全員ちょっとみんな、明らかに大分参ってた時期もあった。なので休みを求める期間があったって仕方ないはずだ。そんなもんは自己修理期間だ。
しかし、多くの人が打ちのめされる未曾有の大災害が起こったことを機に、彼らは、苦しんでいる仲間のためにできることをするべきだと、自分たちにできることをしなくちゃと改めて手を取り合い、再び立ち上がってくれた。
ハイスタは偉大なバンドだが、同時にあくまで仲間の延長線上にあるバンドだ。絶対的な神とかじゃなく、努力し困難に立ち向かう姿を見習うべき、一人間として敬愛すべきバンドだ。「手作りのインディーズだって、やろうと思えばこんなこともあんなこともできるんだぜ! 君だってできる、君もやってみなよ!!」彼らはいつでも音楽で、態度でそれを分かりやすく示す。今回の宣伝、発売に関してもそれが存分に発揮されていると思う。どうか興味を持ったなら、1フレーズでもいいから聴いてみてほしい。聴く手段は彼らがいっぱい用意してるから大丈夫。彼らの音楽は、若い貴方が抱えているだろう日々の不満や不安や苦しみを、自分の手で前のめりに打開するための手助けに、きっとなるはずだから。(中込智子)
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