【10リスト】imase、一生聴き続けられる名曲10はこれだ! 

コロナ禍ど真ん中だった2021年5月よりTikTokへの投稿をスタートし、音楽活動開始からわずか1年でメジャーデビューを果たしたimase。その後は“NIGHT DANCER”が大ヒットとなり、国内のみならずアジアを中心とした世界の人気アーティストへ。2024年6月から7月にかけては、バンコク、香港、クアラルンプール、上海、ソウル、台北をまわるアジアツアーの開催に至った。imaseの歌詞は、日本語の母音・子音を意識的に操った言葉の綴り方と歌唱法で、日本語が第一言語でない人が聴いても気持ちのいいグルーヴを感じさせると同時に、深く読めば読むほど、2020年代を生き抜くうえで相応しい心構えを教えてくれるものになっている。デビューから約2年半のあいだに数多くのタイアップオファーを受けてきたimaseだが、彼が求められる理由もそんなところにあるだろう。いかにimaseが新しい時代を象徴し、牽引する表現者であるかを知ってもらえる10曲をピックアップした。(矢島由佳子)


①Have a nice day

2021年12月にリリースされたメジャーデビュー曲。同年5月にアップされたサビの一部を歌った動画は、今もimaseのTikTokアカウントにて観ることができる。その頃はファルセットと地声を重ねてボーカルラインを作っていたが、デビューの時点で、すでに今のようなファルセットとタ/ダ行の破裂音がパーカッシブに聴こえるボーカリゼーションを自分のものにしていたことがわかる。この楽曲は、新型コロナウイルスの蔓延によって《笑う日々も 歌う君も 灯る街も》一変してしまい、人と距離を取ることやマスクの着用が命じられて《喜びも驚きもない》日々となり、世の中全体が何が正解かわからない混乱状態にあった時代を切り取ったもの。imaseは世代の代弁者であり、ポップミュージックを通して同時代を生きる人たちとそっと肩を組もうとする姿勢を、デビュー曲から見せてくれていた。

②Pale Rain

デビューから4ヶ月後にリリースされた、3rdシングル。ポカリスエットのCMソングとして、ラッパー/プロデューサーのPUNPEE、ゲーム『UNDERTALE』の開発者であり作曲家のToby Foxとともに書き下ろした。岐阜の自宅で音楽制作を始めてまだ1年と少しだったimaseにとって、もともとリスナーであったミュージシャンとのコラボレーション、さらには「ポカリスエット」という誰もが知っているブランドのプロジェクトは大きなプレッシャーでもあったというが、彼なりの度胸とセンスと努力で見事に乗り切ってみせた。体内に衝動が走るのに動けない歯痒さや、抗いたいけれど自分が《本当は何がしたいの》かを見定められていないような、そんな10代の絡まった心情をimaseが描き、人生の先輩であるPUNPEEのラップが頼もしさを醸し出す。そして最後は、《まぁなんとかなるっしょ》《声に出すのは/今》という出口へと導いてくれる。

③NIGHT DANCER

imaseの名前が世界中に知られるきっかけとなった曲。韓国配信サイト「Melon」ではJ-POP初のトップ20入りを果たし、いくつもの韓国の音楽アワードを受賞。日本でも『第65回輝く!日本レコード大賞』優秀作品賞として表彰された。BTSのJUNG KOOKのカバーがバズの火種として語られることが多いが、それ以前から、ダンスクリエイター・Hoodie famによる振付のダンス動画をENHYPENATEEZLE SSERAFIMTOMORROW X TOGETHERなどがアップしたことでバズの波が何度か起こり、ここまでの大ヒットに育った。母音を崩してグルーヴを作る歌唱法だけでなく、ESME MORIによるアレンジ、小森雅仁によるミックス、それらすべてが掛け合わさったことで同時代の世界中のリスナーが「気持ちいい」と感じる音像のポップダンスミュージックに仕上がっている。

④僕らだ

2023年の成人の日に公開されたNTTドコモの料金プラン「ahamo」のウェブCMのために、当時22歳のimaseが「大人って、なに?」をテーマに新成人へ贈る楽曲を書き下ろした。そもそもimaseは、社会に蔓延る旧来的な価値観やコロナ禍以前の常識をスルリとかわしながら、自分なりの方法で自分の「好き」や「やりたい」を手に入れる生き方を体現してきた。事務所やレコード会社での長年の育成を経るでもなく「音楽制作を始めてから1年でメジャーデビュー」を果たし、地下のライブハウスや海外の現場で下積みを重ねるという方法ではなくインターネットの波に乗って「5作目で世界ヒットを生み出す」ということを成し遂げた物語がまさにそうだ。《未来は僕らだ》というサビを締め括る言葉にも、「全力で抗って、戦って、汗が飛び散る熱量を込めて、自分を主張する」といったものとは違う、どこか軽やかさが滲み出ている。そのうえで、Z世代は「夢や希望が持てない」「冷めている」「合理主義」などと言われることもあるが、《無頓着なフリしても/横目で眺めてる》というラインも交ぜることで、この世代のムードをさらに鋭く表しているように思う。

⑤18

2023年に新成人を迎えた世代へ向けた楽曲。サントリーホールディングスのブランドCMのために書き下ろされた。コロナ禍に高校生活を送り、給食も部活も学校行事も思い切り楽しめなかった世代へ、《楽しみはここから》《ときめきを残した/大人じゃん》《思い出の写真には目元以外映んなくて/散々だけどその分貴方を/知りたくなるしな》など、悔しいはずの経験に対して異なる見方や考え方を優しく提案してくれる。誰のせいにもできない感染症のことを《青春は宇宙人に連れ去られ》とユーモラスな言葉で、経験できないまま終わってしまったことを《I still don’t know》と駆け上がるメロディで表現。無理やり前を向かせるのではなく、そっと力をくれるポップアーティストとしてのimaseの魅力がこの曲に表れている。

⑥Nagisa

男女が出会って一晩を過ごす物語を爽やかに表現したのが“Nagisa”。特別な夜の煌めきを描きながらも、《馴染めないな 都会は》《一途な彼女には 言えないね》《本当は孤独に 怯えちゃって》などの言葉に表れるような寂しさや切なさも滲ませたサウンドが胸を掴む。気持ちのいい4つ打ち、軽やかなピアノの伴奏とともに始まるサウンドは、80年代シティポップをimaseなりに現代版にアップデートしたもの。ジャケットデザインも当時のオマージュになっている。“NIGHT DANCER”に続いて海外のリスナーからも愛されている曲で、ミュージックビデオは1000万再生超え。ライブではオーディエンスの腕が揺れて《さざなみ》のような景色が生まれる曲となっている。

⑦ユートピア

2023年8月公開の鳥山明原作映画『SAND LAND』主題歌として書き下ろした楽曲(imaseにとって初の映画主題歌)。ストリングス、ブラス、バンジョー、マンドリンなどが鳴り響くアレンジはmabanuaが手掛けたもので、多彩な音が映画の舞台や冒険のドタバタ感とドラマティックさをイメージさせる。imaseは、社会全体になんとなくある「正しさ」「幸せ」「目指すべきところ」やそこにたどり着くまでの方法論を疑って、自分なりの方法で、自分が思うゴールへとたどり着こうという新時代の生き方を体現している人だ。《貴方でいる理由なんて最後でいい》《今を生きる答えなんて なんでもいい》《希望なんてなんでもいい》は、そんなimaseだから説得力を持って歌える言葉。自分の選択に理由なんて必要なくて、自分の願うものや楽しいと思うものへと足を動かすことこそが「生きる」ということだと背中を押してくれる。1stアルバム『凡才』では、終盤の“Shine Out”と“ユートピア”にだけ《希望》という言葉が使われており、「あなたなりの希望に向かって踏み出せばいい」といったメッセージを宿してアルバムが終わる流れとなっている。

⑧ヒロイン

インドネシア、マレーシアなどで展開するグローバル寿司チェーン「香港元気寿司」のCMソング。香港とマカオにおいてはテレビでも放映された。《意気地のない僕》が一方的に恋に落ちたラブソングで、その主人公の描き方は旧来的な「男らしさ」から脱したものであり、今の時代を生きる人たちにとって共感性の高いものになっている。ライブでは、サビでタオルを振り回し、中盤のギターソロで歓声をあげて、《騒ぎ出すよ》「イェイ!」などのコール&レスポンスが巻き起こり、ラスサビはタオルを左右に振るなど、盛り上がるポイントが次々と続く楽曲。

⑨Happy Order?

マクドナルドのタイアップソング。ハンバーガーやポテトをイメージしたジャケット写真、期間中はトレイマットや店内放送にimaseが登場するなど、マクドナルドとがっつりコラボレーションした作品となった。楽曲のテーマは、マクドナルドで働く約20万人のクルーをはじめ「働くアナタへの応援歌」。そんな大きなタイアップソングで、サビを《めんどくさいな》から始めるところにimaseの果敢さを感じる。《やる気の“や”の字もない》《遊んで食って寝てたい》といった言葉も並ぶ歌詞には、前向きなことを届けたい時こそ聴き手のリアルな感情に寄り添う、といったimaseの筆致を見ることができる。《働き出したら一瞬さ》《最後の1時間が死ぬほど長く感じるのは/お前だけじゃないから》など、バイト中の気持ちを巧みにすくいあげた歌詞は、imaseが高校生の頃に焼肉屋でバイトしていた経験から書いたもの。歌詞だけでなくトラックにも、マクドナルドにまつわるさまざまな音やメロディがちりばめられている。

⑩BONSAI

1stアルバム『凡才』のタイトル曲。岐阜の田舎で暮らし、まだ何者でもなかった自分が、5畳半の部屋で音を鳴らし始めてから今に至るまでのライフストーリーを歌とラップで届けてくれる。世の中ですでに定義づけられている形の「天才」にあてはまらなくとも、「自分らしさ」を歩き続けることで枝が伸びていく、というストーリーはここまでたどり着いたimaseだから歌えるもの。そうやって新しい「天才」の定義が生まれるのだ、ということを私からつけ加えたい。imaseにとって音楽とは、《足りない日々を/補えるようなアート》であるという重要なこともサビで歌われている。心音とキラキラが交じりながらボリュームが上がっていくアウトロは、この先も「音楽」がimaseをさらなる光ある日々へと連れていくことを暗示するようだ。


【JAPAN最新号】imase、世界をとらえる稀代の「凡才」。待望の1stアルバムに刻まれた変化のドキュメント、そして存在証明
ずっと刺激というか、新しいものを求めているみたいなところはある。 出て行きたい、大きなところに行きたいっていう欲望は、どこかにずっとあった気がします 20歳で音楽を始めてから約3年、その軌跡のすべてを注ぎ込んだ1stアルバムに、imaseは『凡才』というタイトルをつけた。ネット…
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