【10リスト】私たちの心を揺らした宇多田ヒカルの名歌詞10

⑥誰かの願いが叶うころ

《あなたの幸せ願うほど わがままが増えてくよ/あなたは私を引き止めない いつだってそう/誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ/みんなの願いは同時には叶わない》


映画『CASSHERN』テーマ曲であり、DVDシングルもリリースされた。アルバム『ULTRA BLUE』へと向かう頃はサウンドプロデュース面においても宇多田自身が主導する楽曲が増え、“誰かの願いが叶うころ”では自身のピアノ演奏によって歌の存在感を引き立てている。痛ましく引き裂かれる個人の愛の形を伝えながら、より広い視野を持って人それぞれの立場に注目する宇多田の作風の変化が表れている。ポップソングとしての深みが一層増していった時期だ。作品としての趣は違えど、後のシングル曲“Keep Tryin’”などでも同様のことが言えるだろう。

⑦Flavor Of Life

《信じたいと願えば願うほど/なんだかせつない/「愛してるよ」よりも「大好き」の方が/君らしいんじゃない?/The flavor of life》


MVは、シングルのカップリングであるバラードバージョン(情感を膨らませるストリングスアレンジ)の方が制作され、アルバム『HEART STATION』では本編にこのバラードバージョンが、初回盤のボーナストラックにオリジナル版が収録された。《君》に深く関わり翻弄されずにはいられない、そんな一貫した宇多田節が玄妙な心の揺らぎとして伝い、歌詞が練り上げられたナンバーだ。ただ一面的に嬉しかったり幸福だったりするわけではない事柄を、人生そのものとして受け入れてゆく覚悟が滲む。狂おしい言葉の抑揚と珠玉のメロディが手を取り合った名曲である。

⑧Goodbye Happiness

《ありのままで生きていけたらいいよね/大事な時 もう一人の私が邪魔をするの/So goodbye happiness/何も知らずにはしゃいでた/あの頃へ戻りたいね baby/そしてもう一度 kiss me》


「人間活動」宣言と同時にリリースが告知された『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』のリード曲であり、当時の新曲。活動休止前のライブ「WILD LIFE」においては、横浜アリーナの両日でオープニングに披露された。宇多田自らディレクションしたMVでは、“Automatic”や“traveling”、“ぼくはくま”などをセルフトリビュートする内容が注目を集めることになる。歌詞の方も、無垢な幸せを投げ打って愛を求めずにはいられない、苦い経験を覚悟してでも他者と関わらずにはいられない、そんな宇多田の表現者としての姿勢を総括するようなラブソングとなっている。

⑨道

《私の心の中にあなたがいる/いつ如何なる時も/一人で歩いたつもりの道でも/始まりはあなただった/It’s a lonely road/But I’m not alone/そんな気分》

活動再開後初のアルバム『Fantôme』のオープニング曲。“花束を君に”、“真夏の通り雨”という配信曲2曲で、人生に最も長く関わってきた身近な人物との永遠の別れを歌詞にしたため、歌い、シーンの最前線に帰還した宇多田の姿勢は凄まじいものがあったが、“道”ではそこからさらに思考を重ね、別れを新たな日々を生きるためのモチベーションへと転化させている。この深い知性と覚悟の大きさには、頭が下がるというより他にない。新章の宣言として、ここからじゃないと始まらないというふうに歌われた、完璧なオープニング曲である。

⑩あなた

《終わりのない苦しみを甘受し/Darling 旅を続けよう/あなた以外帰る場所は/天上天下 どこにもない》


本稿執筆時点で届けられたばかりの最新曲。レコーディングに参加したミュージシャンは、名手Chris Dave(Dr)やサム・スミス新作にも携わったJodi Milliner(B)、Reuben James(Piano)ら、世界の気鋭ばかりがズラリ。その中で宇多田は、慈しむような優しさと強烈な情熱を纏めて声に乗せ、この歌詞を届けてくる。ラブソングではあるけれど、覚悟のラストセンテンスは《あなた》=リスナーにダイレクトに響くはずだ。『Fantôme』以降の、さまざまなアーティストと関わりながら楽曲を生み出す姿勢が、メッセージの強さにも反映された素晴らしいナンバーである。
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする