音楽を愛する情熱を「踊れるロック」に乗せて ~the telephones 10年の軌跡と共に~

2014年12月23日は電車に揺られいつも通り携帯を開いた。
何気なく見たニュースの中に「the telephones、2015年以降無期限活動休止」の文字が
あったとき、流れる景色と共に寂寥感が浮かび上がった。
限界が来たのだ、そう感じた。
時代と共に音楽は変わる。
彼らが10年過ごせば、私たちも同じように10年、歳を取る。
聴く比重だって、範囲だって変わる。そう思っていた矢先のことだった。
時代が変わっても、音楽を作ることはやめていなかったし、DISCOという縛りから離れる挑戦もしていた。
相変わらずフェスでは「We are DISCO!」で溢れていたし、私自身も彼らの音楽を心のよりどころにしていた。
活動休止を受けて、音楽は永遠じゃないと感じた。
いつでも聴ける、また後で行けるなんてそんなの嘘だと思った。

思い起こせば彼らが音楽シーンに躍り出たのは2010年頃だ。
当時の音楽の主流は、キャッチーだけど、ギターが3本同時に鳴るような野太いサウンド。
スタンダードなギターロックが流行っていた。
彼らのようにキャッチーというよりはむしろ掴みにくく、ギターの野太さというよりはシンセのエレクトロニックに重きを置いた、アッパーで踊りださずにはいられないような攻めたてるサウンドだった。
当時の流行りとはまるで真逆を行く音だったのだ。
ある時、私はファンである友人に訊いてみた。
「彼らの音楽のどこに惹かれるの?」
すると、友人は笑いながらこう話してくれた。
「ふと冷静になってみると、何だこれ! 変じゃない?という気持ちが浮かんでくる。歌詞は意味分からないけど、メロディとサウンドはたまらない。ヘッドフォンを通して聴くこの音が生で聴けたらどんなに素敵だろう、ライブに足を運んでみたいって思えた。彼らのおかげでライブはこう楽しむんだ、音楽はこんなに面白いものなんだと思ったよ。何がいいかなんて理屈で説明できないけど、何も考えずに楽しめる音こそ良いもので、まさに今の自分を作ってくれたバンドだよ」と。
とても明るい声で、なんの淀みもなく真っすぐに答えてくれたのだ。
その夜、部屋の中にある本棚を整理していると、雑誌の一つにVersion21.1を開催するきっかけを語る記事があった。
そこで石毛輝はこんなことを話していた。
「もっとライブに来る人を増やしたい。そのためには常に新しく、面白く、誰もやっていなくて、生で聴きたくなるような音を作りたい」

その言葉通りに彼らはものすごい勢いで躍進していった。
彼らの代名詞ともいえる「We are DISCO!」という意味の分からないコトバが誕生した。
しかしこのコトバ、意味どころか文法的にも正しくない。でも、そこにいる誰もがただ叫ぶだけで、拍手が湧き起こり、一体感が創り出される。その異空間の中で初めて意味が生まれる魔法のようなコトバになった。
彼らはその代名詞を武器にフェスの盛り上げ役となり、唯一無二で、ぶれない音楽を鳴らし続けた。いるのが当たり前となり、その空間で非日常を味わわせてくれていた。
しかしフェスでは満員であることを受けて、演奏する会場がどんどん大きくなった。
その一方でホールのワンマンではいつしか空席が目に付くようになった。
時代は変わり、若手はメディアを通してどんどん認知度を高め、今までとは違う路線のキャッチーなバンドがランキングを埋めていく。
彼らが作り上げてきた「踊れるロック」は邦ロック界の常識となり、アレンジをして成長する若手がフェスのシーンを飾ることが多くなった。
2010年代に入り、彼らの創り出した音楽はスタンダードへと変化した。
そして彼らの人気が落ち着き始め、無期限活動休止を発表した2014年12月23日のことを後に友人はこう話してくれた。
「大きくなるにつれて会場も比例するようにホールになるとチケットは高くなるばかり。私はハコで聴く方がすきだし、大きなホールで聴くのはいいや、今回はいい、次行けばいい。そんな風に言い聞かせて、この日は行かなかった。あれは今でも後悔している」と。
もし、自分が同じ目にあったら、同じように、「いつでも聴けるだろう」と思って、このように後悔したのだろう。
こんなにも、悲しくなって、考えると切なくなって。
ああ、私はやっぱり音楽によって作られた人間だと再確認したのだ。
それくらい彼らの無期限活動休止は衝撃的なことだったのだ。

2015年11月3日、Last Party当日。
初めはこれが彼らにとってのピリオドとなるということに実感が湧かなかった。
そしてある疑問がぽっかりと浮かんだ。
「どうして彼らは活動休止前の一番大切な時間を、あえてファンだけに捧げるワンマンという形ではなく、フェスという形にしたのか?」
大概のアーティストは「活動休止」「解散」を選択したとき、大きな会場で有終の美を飾るのが一般的である。
何故彼らは集客力の高い東京ではなく、あえて都心から少し離れた埼玉にしたのか。
ファンだけではなく、すべての音楽好きが集まれるフェスという形にしたのか。
最後のステージに立って伝えたかったことは何だったのだろうか。
その疑問を片手に、彼らのLast Partyへと向かったのだ。
Last Partyは、「埼玉」「同世代」をキーワードに集められたアーティストで開催された。
どのフェスでも集まることないような貴重なメンバーだ。
ひとつひとつのステージが本当に音楽を愛する者たちによる、敬意を表していた素晴らしいフェスだった。
トリとしてステージに立ったthe telephonesが繰り返し口にしたのは「ありがとう」の言葉だ。
オーディエンスも少しずつ訪れる悲しみを吹き飛ばそうとしているかのように踊り狂っていたし、飛び跳ねていた。
私は新しい道を選択した彼らを応援したいと思う傍ら、寂寥感がぬぐいきれなかった。
でも一つだけ私を驚かせることが起きたのだ。
周りにいるファンたちは誰一人涙を流していなかった。
今までにないくらい最高の笑顔と大きな声で、彼らと同じように音を楽しんでいた。
後にその光景を思い浮かべながら、友人にこのことを話すと、彼女は笑いながらこう言った。
「もしこの活動休止前の最後のライブが武道館だったら、私はきっと泣いていたと思う。
湿っぽいのは苦手だし、どうせなら笑って終わりたい。ファンでなくとも、この音を受け入れてくれた大勢の人に楽しんでほしい、そう思ったんだよ。だってこの通り、発表されてからこのフェスが開催される間に『悲しみ』『寂しさ』はぼやけたよ。またどうせ戻ってくるんでしょ?って明るく考えられるようになって、泣かなかったんだ」
それを聞いて私の中のもやもやが解決し、何もかもが腑に落ちた。
この音楽をどのような形であれ、受け入れてくれた人みんなに最後は聴いてほしかった。
どうせなら共に育った、地元・埼玉で。
それが今までこの音楽を愛してきてくれたリスナーに対する、彼らの最大の敬意の表し方だった。

あれから、2か月経とうとしているのに、今でも石毛輝の言葉を頭の中で反芻している。
「ミーハーなバンドを求めれば、ミーハーなバンドが増える。カッコイイバンドを求めれば、カッコイイバンドが増える。みんなはどっちがいい?」
この言葉で最後のステージで伝えたかったことが分かり、私はハッとしてこの文章を書いている。
自分が心からいいと思えた音楽に出会えなくなっていたのはいつからだろう。
ううん、それを求めようとしなくなったのはいつからだろう。
ただただ、流動的に音楽を聴いて、心に留めなくなったのはいつからだろう。
誰になんと言われようとも愛せた音楽はあっただろうか。
リスナーとして貪欲にいい音楽を求められていたのだろうか。
無我夢中で音楽を追いかけてた頃は明日がたとえ大事なテストでも、仕事でも、自分が応援しているバンドのラジオを深夜2時に聴いていたのに。
田舎ゆえに入らない電波を部屋中歩き回って夢中になって探していたのに。
その情熱を全部、私は一体どこに置いてきてしまったのだろう。
いつのまにかスマホがあれば簡単にラジオが聴けて、アプリで手軽にいろんな音楽が聴けるようになった。
その世界はとても便利だけど、何かを「追い求める」ということはしなくなった。
石毛輝のこの言葉を受けて、自分の音楽の聴き方を見直した。
あれから周りに流されずに好きだと胸を張れるような音楽を探している。
「純粋に音楽がやりたい、流行りには乗りたくない、DISCOで終わりたくない――」
彼らがこの活動休止を決めるまでどれだけの葛藤と後悔があったのだろう。
これは彼らの音楽に対する敬意であり、確固たる意志の表れである。
そして私たちは彼らに置いていかれないように貪欲にいい音楽を求め続けなければならないし、探し出さなければいけない。
時代が変わって、音の好みも年と共に変わるのはきっと自然なことだ。
でもどこかで自分の中で決めた音楽の軸が確立しているようなリスナーになりたい。
彼らが身をもって音楽への情熱と意志を表明したように。
私たちリスナーもたくさんの音楽で耳をこやして、彼らが戻ってきたくなるようないい音楽を溢れさせたい。
それがリスナーとしての音楽に対する愛と情熱を表す手段であるから。
そして彼らは最後にこんなメッセージを残した。
「いい、音楽はいいんです。みんな自分の好きな音楽というものを、なるべく自分の意思で決めてくれたら、かっこいいと思う」
私たちが心から愛せる音楽を見つけるまで、さよならDISCO!
10年分の軌跡と共に最大の感謝を込めて。


この作品は、第1回音楽文 ONGAKU-BUN大賞で入賞した諏佐美友さん(24歳)による作品です。


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