きっかけをくれる「伝言歌」 - 大切な人に「伝えたい」、sumikaがかけてくれる魔法

びっくりした。アンコール終わりに隣の友人を見ると、そこには涙ぐんだ顔があった。
sumikaはたった少しの時間で世界を変える魔法が使えるのかもしれない、と本気で思った。CDJ17/18に私を誘ったその友人は、バンドを全くといっていいほど知らず、歌い手さん何組かを見たいが為に来ていた。ライブが始まる前は、「sumikaって女性ソロ?」というsumikaファンなら一度は質問されるようなことを聞いていた。だから、どうして私よりもそんなに泣いているの?と聞いてしまった。
彼女はただ、「連れてきてくれてありがとう、来てよかった」と言った。
伝わったんだ。私はその日別行動でそれぞれ見たいアーティストを見ようと言っていたのだが、sumikaだけは一緒に見てほしいとわがままを言ったから、どんな反応をするだろうと内心気になっていた。友人が快く「もちろん!(筆者)の好きなバンドはきっといいライブすると思う」と答えたとき、妙なプレッシャーを感じていた。
しかし、sumikaだけは大切な人と一緒に見たいという私の気持ちはsumikaズのおかげで正確に伝わったらしい。
その日のsumikaはいつも通りというべきか、いつもよりももっと「やってやるぞ感」が強くて、演奏も間の取り方も片岡健太のMCも何もかもが完璧だったように思う。その日見たどのアーティストよりも本気で一等賞を獲りに来ていた。それは見ている人それぞれの心の中の一等賞。本気のリハで聴衆の心をつかみ、間髪を入れずに開幕の合図「Answer」が鳴り響く。最初からルンルンに王道の曲たちでフロアが踊り、小川貴之のしっとりとしたキーボードの音色が、暖められた空気を「まいった」が作り出す冬の寒さのようにスーッと冷ましていく。
片岡はこの日、しきりに「あなた」という言葉を使って話した。「皆さん」というのは失礼だと。GALAXYステージという大きな会場で、自称視力9.2の片岡は一人一人と向き合ってステージとフロアという関係を取っ払った大きな大きな家を、住処を、作っていた。
「あなたの隣にいる人はどんな人ですか?今あなたの隣にいる人をもっと大切だと思えるように、例えばおいしいものを食べたときにできれば一緒に食べたいと思うように、終わった後少しでもいい関係になってほしい、今日もし一人で来ているのならこの楽しさを一番伝えたい人を思い浮かべて。」
sumikaは私たちの大切な人を大切にしてくれる。ライブが終わって隣の友人とハグをしたとき、こういうことか、と思った。sumikaは私たちに魔法をかけてくれた。それはほんの少しの勇気という魔法。「伝える勇気」はなかなか湧いてくるものではない。どんなに相手のことが好きでもそれを素直に伝えられる人は少ない。深い関係であればあるほど何か「きっかけ」がなければ逃げてしまうのだろう。恥ずかしいし。うん、そう、ただ恥ずかしくて言えないだけ。何歳になっても、いやむしろ大人になればなるほど。
私たちはお互いに伝えあった。お互いに感謝して、笑いあって、sumikaをほめたたえた。帰り道、友人はsumikaの何がすごかったのか教えてくれた。
「全員の愛を感じた。私が知っている普通のライブはフロアが歌うことはないのに、全員がsumikaの歌を歌っていて感動した。」
その日ももちろん「伝言歌」の大合唱。sumikaのライブでは恒例だし、私はいつも通りに気持ちよく歌っていたから、それが普通ではないことを忘れていた。コール&レスポンスではない。みんなで同じ歌詞を一緒のタイミングで歌うことは、バンドが誰かに向けてではなく、そこにいる一人一人がだれか大切な人への気持ちを「伝えたい」という五文字に乗せて歌うということだ。一人一人の暖かい感情が会場を包み込んだ時、それは大きな愛になった。
最後に片岡は「このライブを忘れられないライブにしたい、今日ここで出会ったのは何かの縁だと思うから長生きしてね、元気でいてね。」と言った。sumikaは私たちファンのことをお客さんという言葉では済まされないくらいの愛情で迎え、そしてまた送り出してくれる。「いつでも帰っておいで、行ってらっしゃい」と。
そんな住処に一人、私の大切な人が家族として加わった日、sumikaの音楽性だけではない魅力にまた惚れてしまった。sumikaの音楽が、sumikaズという「人」に出会わせてくれた。だから今日も、あの近所のお兄ちゃんみたいな人たちのことを思い浮かべながらイヤホンを耳にさす。
私は、Doorを開けて扉のその先で、自分の世界で誇れるような頑張りをしたら、大切な人たちと一緒にまたこの空間に帰ってこようと思う。次に「ただいま」というときには、きっとsumikaのことが大好きな人たち、もっと増えているんだろうなあ。
ステージの上の皆さんの笑顔がキラキラ輝いていますように。
最後に、sumikaの大切な楽器がどうか戻ってきますように。


この作品は、「音楽文」の2018年2月・月間賞で入賞した神奈川県・りーぬさん(19歳)による作品です。


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