私と彼らの「プライマル。」 - 生まれ変わった THE YELLOW MONKEY によせて

イエロー・モンキーの 19年ぶりのアルバム「9999」の、初回限定盤に添えられた先着購入特典のDVDを見ている。再集結後に演奏された最初の曲、「プライマル。」のライブ映像だ。


彼らが活動を休止した2001年に発表され、それから一度も演奏されることのなかった、名実ともに卒業ソングのこの曲。発表当時、辛い思いを抱えて聴いたファンも多いと思う。そんなこの曲が再集結を祝う歓喜の 1曲に変わった瞬間を、映像はしっかり捉えていた。


活動休止後からのファンである私にとって、その感動はどこか控えめに受け止める節があったりする。でも、実は私にとっても、この曲は大事な曲だ。この曲がなかったら、本当の意味で私はイエロー ・ モンキーに出会っていないかもしれない。大袈裟に言えば、それぐらいの。




イエロー・モンキーの存在は、大ヒット曲の「JAM」で知った。それから彼らの曲が好きになり、新曲が出ればフレーズを覚えて口ずさんだ。でも、彼らの曲を聴くのはだいたいいつもテレビの前。私にとってイエロー ・ モンキーは、テレビの向こうのアーティストの一人にすぎなかった。
そんな私のぼんやりした「好き」がもっとくっきりとした「好き」に変わるのは、それから更に後、彼らが活動休止期間に入った頃。それも、きっかけは友人と行ったカラオケで。そこでイエロー ・ モンキー好きの友人がマイクをとった、その曲が「プライマル。」だった。


曲自体は知っていた。活動休止に入った彼らの、その時点での最後のシングルだということも。かといって特別な思いを持って聴いていたわけではないその曲が、この日はなんだか気になった。あまりにもその友人が、楽しそうに歌うから。


思えば、活動休止というタイミングにして「卒業」というあからさまなテーマ。なのに、この曲は全然暗くない。明るくて、前向きで、元気が出る。
《VERY GOODだいぶイケそうだ / 振り切ったら飛べそうじゃん》
《今度は何を食べようか? / 卒業おめでとう ブラブラブラ…》
上昇気流に乗るようなプラスの雰囲気と躍動感。最後のシングルになるかもしれないのにこんな曲って、なんかいいな。いい曲だし、いいバンドだな。率直にそう思った。
同時に、あまりこの曲をちゃんと聴いたことがなかったな、とも思った。


いや、この曲だけじゃない。ふと考えてみたら、私が音源を手に取って聴いてきた彼らの曲は、ほんの少ししかなかった。
テレビから聴こえていた彼らの曲たちが、少し懐かしく思い出された。


「イエモン好きなんだね。知らなかったよ、私も好きだよー」とその友人に話を持ちかけると、「いいよなー!俺、大好きなんだよイエモン。」と嬉しそうに話し始める。でも、私が話す言葉と彼の話す言葉は、情報量も熱も重みも、まるで違っていた。その語りからも歌からも、イエロー ・ モンキーが大好きなんだなと分かる彼を見て、ちょっと羨ましくなった。「アルバムだったら『jaguar hard pain』だな。カッコイイんだよ!」と熱っぽく語る彼を目の前にしながら、ああ、私、「イエモンが好き」だけど、大してちゃんと聴いてなかったな、と思い当たる。テレビで聴いて、いいな、好きだなと思っても、それ以上の聴き方を私はしていない。音源はシングル曲が 2~3曲手元にあるだけ、アルバムなんて手に取ったことすらない。そんな私には、イエロー ・ モンキーを好きな気持ちをまっすぐぶつけてくる彼が、なんだか少し眩しく見えた。
そして、ちょっと悔しくなった。


テレビで聴いて気に入ったけれど、音源を手に入れてまで聴いてはいなかった音楽が、急に気になりだした。イエロー ・ モンキーもそうだし、他にもあった。


聴いてみたい。
テレビから流れてくるのを聴くだけじゃなく、ちゃんと手に取って聴いてみたい。
シングル曲を 1曲ずつ聴くだけじゃなく、1枚のアルバムをひと続きの作品として味わってみたい。
そして私も、「この曲」だけではなくて「この人たちの音楽」の好きなところを、あの友人のように真正面からキラキラと語る経験をしてみたい。そう思った。




そこから私の、音楽を聴きあさる日々が始まった。
耳に、心に、どこかに引っかかっていた音楽を、拾い集めて聴く日々が。
まだ芽を出したばかりの、私の音楽好きの心に、初めて火がついた。




「JAM」より前のイエロー ・ モンキーの曲は、この時初めて聴いた。最初に私の心を掴んだのは「追憶のマーメイド」と「太陽が燃えている」だ。「陰と陽」で言うところの「陽」のパワフルさが凄くカッコよくて、一撃でやられた。
アルバムも聴いた。大好きな「BURN」や「バラ色の日々」や「球根」のような曲とはまた違う曲たちが、そこには並んでいた。弾けた曲調にシニカルな詞を乗せた「審美眼ブギ」や、ユーモアに溢れた「薬局へ行こうよ」のようなイタズラめいた曲なんて、アルバムを聴かなきゃきっと出会えなかっただろう。
アグレッシブにロック路線を攻めた「I Love You Baby」や「Chelsea Girl」も好きだったし、ガツンとくるメロディの「熱帯夜」や、そこに独特なストーリーを乗せた「薔薇娼婦麗奈」みたいな曲も気に入った。「カナリヤ」なんかの感傷的な感じもぐっとくる。
でもやっぱり私が一番魅せられたのは、彼らの「陽」のカッコよさだった。
最初に心を掴まれた「太陽が燃えている」や、「Romantist Taste」や「悲しき ASIAN BOY」や「パンチドランカー」みたいな曲が持つ、明るいのに軽くない、ぐつぐつと煮えたぎるようなエネルギッシュなカッコよさ。「Foxy Blue Love」や「ROCK STAR」、「甘い経験」なんて、ひたすら楽しげな曲なのに何故それがカッコよく聴こえるんだろう。この、曲に込められた熱量がまっすぐ聴き手に届く感じ、どっしり構えた小手先勝負なしの感じって、こんなにもカッコイイものなのか。その衝撃をまのあたりにしながら、彼らの曲を聴く手がとまらなかった。知らなかった、こんなバンドだったなんて。


暗いメロディーやダークな雰囲気でカッコよく聴かせる曲は、たくさん知っている。 だからこそ、それとは逆の「明るさ」は、カッコよさからは遠いものだと思っていた。なのに、それがカッコイイ。おまけに詞だって気取っていない。その気取らなさが、大胆不敵でまたカッコイイ。くだけた歌詞や明け透けな歌詞って、実は魅力的なんだな。というより、そういう詞をはめてもカッコよく聴こえるって、説得力あるし凄くイカしてるな。そういうのがホンモノってやつなんじゃないのかな。そんな一人問答を繰り返しては、ほくそえんでまた曲を聴く。そういう曲たちが持つ爆発力に、堂々とした曲の佇まいに、とにかく魅了されて心が踊った。マイナー調の暗い曲にはない、ウキウキした空気って最高だ。


そんな曲たちの中に、「プライマル。」もあったはずだった。


夢中になってイエロー ・ モンキーの曲を聴くうちに、でも、やっぱりちょっと気になった。
前向きで、背中を押されるような華やかな曲。元気が出る曲、好きな曲。でもそれはもしかしたら、私が活動休止前からのファンじゃないから言えるのかもしれない。よく聴けば、ちょっとセンチメンタルなこの曲の詞。
《手を振った君がなんか大人になってしまうんだ》
《さようならきっと好きだった》
活動休止時に出た曲にこの歌詞。
それよりも前からイエロー ・ モンキーのファンだけど、この曲を生き生きとカラオケで歌えるような、そんなあの友人みたいなファンばかりじゃないのかもしれない、と思った。
ちょっと寂しい気もした。
元気をくれる、いい曲なのに。活動休止というタイミングじゃなければ、もっと多くの人が明るく受け取れる曲だったのかもしれない。でも、そんな時にあえてこんなビタミンカラーな曲だったからこそ、私は魅かれたのに。何より私をイエロー ・ モンキーの楽曲たちに導いてくれた、素敵な曲なのに。イエロー ・ モンキーだけじゃない、他のたくさんの音楽との出会いも、引き寄せてくれた曲なのに。
そんな「プライマル。」には、少しチクっとするような色が、いつも端っこに見え隠れしている気がした。




でも、それから 15年の時を経て、イエロー・モンキーはその色を呆れるほどドラマチックに塗り替えた。
奇跡の再集結、その最初の曲が「プライマル。」




繋がった。
なんか、そんな気がした。




今まで公の場で演奏されることがなかったこのほろ苦い卒業ソングが、イエロー ・ モンキー自身の手によって、初めてライブで演奏されている。その時をもってきっとこの曲は、本来曲がもつポジティブな色を取り戻したんだろうと思った。きっと彼らと同じように、この曲も生まれ変わったんだ。


私がかつて「プライマル。」に抱いた思いと、この時「プライマル。」を聴いた人々の思い、そして、それを演奏したメンバーの思いがやっと今、近い色に染まったような気がした。




画面の向こう側に私はいなかった。その興奮も感動も、私は味わってはいない。でも、それとは別の感動を得て、私は私で嬉しかった。画面の向こうの嵐のような歓喜と、私の中の静かな感動。それが重なって、少し涙が出た。


そしてこの活動再開から3年、遂に 19年ぶりの新作アルバムは発表され、今私はそれを手にしている。イエロー ・ モンキーは止まらない。活動休止前からイエロー ・ モンキーを聴いていた人も、その後からの人も、この再集結でイエロー ・ モンキーを知った人も。皆が等しく彼らの新作「9999」の完成を祝っている今を、嬉しく思った。






あのとき「プライマル。」を歌ってたアイツ、今何してるんだろう。もう何年も連絡を取ってないけど、今でもイエロー ・ モンキー聴いてるのかな。軽口ばかり叩き合うような仲だったからこんなこと言うのは恥ずかしいんだけど、でも、ありがとう。彼らの音楽に本当の意味で出会えたのは、悔しいけど、アンタのおかげなんだよ。まあ、そんなこと知ったこっちゃないだろうけど。


19年ぶりのアルバム、「9999」はもう聴いた?私はアンタに聴いてほしいよ。決して明るくはない空気がイエロー ・ モンキーを取り巻いていた時代でも、ちゃんとあの曲が持つポジティブさを受け止めて、歌に乗せていたアンタに。
それで、今こそ「卒業おめでとう」って歌ってやってほしい。あのときの「卒業」は無駄じゃなかったって。「おめでとう」って。そう心から言える今が、もう来たんだから。


この作品は、「音楽文」の2019年6月・最優秀賞を受賞した神奈川県・ミムロさん(35歳)による作品です。


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