そんな言葉 - ELLEGARDENがくれたもの

13歳の時、家で流れていたスペースシャワーTVである15秒のCMを見た。ライブハウスと思しき場所で演奏するバンド。画面が曇りそうなほど充満する熱気。当時「インディーズ」という言葉も「パンク」という言葉も知らなかった自分にはその音楽は衝撃的で、「なんだこの音楽は!!!」と釘付けになった。心を鷲掴みにされ、体中を電流が走る。呆気にとられていたら、何の情報もわからないままCMは終わってしまった。「あの曲をもう一度聴きたい」。そこから3時間、再びそのCMを見るためにテレビの前に張り付いた。きた!!!今度は見逃さないように、画面を凝視する。CMの最後、なんとか目に入った「ジターバグ」という言葉とトーテムポールのような黒色のキャラのイメージを頭に焼き付け、すぐにインターネットで調べた。見つけた。

それがELLEGARDENとの出会いだった。

その後すぐに隣駅にある地元のCDショップへ自転車を飛ばした。"ジターバグ"が入っているからと買った初めての彼らのCD『BRING YOUR BOARD!!』。帯をゴミだと思っていてすぐゴミ箱に捨てていたその頃の自分は、「英語の曲は何を言ってるかわからないから聴かない」と割と本気で決めつけていた。でもこのアルバムに入ってる曲はなんだか好きだ。ライナーノーツというものを読むのも初めて。アルバムを聴いて、ライナーノーツを読んで、歌詞を目で追う。「こんな世界があるんだ」。不思議な感覚だった。

そこから少しずつエルレにのめり込んでいった。スペシャを見て、雑誌を読んで、CDショップに行った。周りに彼らを知ってる人は誰もいなかったけれど、そのおかげでエルレは自分だけが知っている秘密の宝物のようだった。パソコンもほとんど触らなければ、今のようなSNSもない。誰とも共有できない。ただ自分の部屋で聴くだけのその音楽は、自分のためだけに鳴らされているように感じた。その歌は、自分の中にずっと眠っていて、自分自身さえ気づいていなかったことを教えてくれるようだった。そう思って聴いてるわけじゃない。でも歌われる全てが自分にとっての"答え"に思えた。ステージの上の細美さんは、いつも世界で一番幸せそうな表情で歌っていて、その姿が眩しくて、どうしようもなくカッコよくて、憧れの人になった。

『Pepperoni Quattro』は地元のTSUTAYAに買いに行った。相変わらずまだ帯はゴミだと思っていてすぐに捨てた。けどブックレットに挟まれてたステッカーは、もったいなくて今も使えずにずっととってある。

『Missing』のリリース日、学校の行事で遊園地に来ていた。でも内心は早く家に帰ってCDを買いに行きたいとずっと思っていた。
"Missing"を聴かせて「良い曲やな」と言ってくれた同級生が、CDTVのチャートに『Missing』がランクインした次の日、「エルレ入ってたな!」と学校で声を掛けてくれた。自分は何もしてないけど、自分自身も認められたようで、なんだか誇らしかった。

高校に入って友達ができるか不安だった。でも自分の一つ後ろの席の奴が『RIOT ON THE GRILL』を知っていて仲良くなった。

"Salamander"のMVを見て、細美さんが履いている靴が欲しいと、母親に教えてもらい初めてVANSのスニーカーを買った。格好からでもいい、少しでも近づきたかったんだと思う。今若い世代の子が好きなバンドマンの格好を真似てるのを見ると、その気持ちがよくわかる。

『ELEVEN FIRE CRACKERS』はクラスの1/3の人間に貸してくれと言われた。本屋で平積みにされたエルレが表紙のロッキング・オン・ジャパンに女子高生が群がってるのを見て、「おれはもっと前から知ってたんだぞ!」と、今思えば青臭い気持ちを抱いていた。

17歳の時、初めてエルレのライブに行った。高校に入学して出会った一つ後ろの席のアイツと。ELEVEN FIRE CRACKERS TOURの、今はもうないZepp Osakaでの公演。ライブハウスという場所に行くのも初めてで、更に生で彼らを観れる興奮も相まって浮かれていた自分は「前の方空いてるじゃん!」と、空いてるスペースへとどんどん進んでいった。SEが鳴った瞬間、それが間違いだったと気づく。一気に前方へ密集するファン。人の上を人が転がり、流され、揉みくちゃにされ、フロアの人の海で溺れ死にそうになった。正直、最初の6曲ぐらいは息をするのに必死だったこと以外全く覚えていない。それでも、細美さんが「明日のことなんて忘れて派手にやっちまおうぜ!」と叫んだ時、思わず自分も拳を突き上げたくなるような衝動に駆られたこと。"Marie"を聴いて、CDで何度も聴いたはずのその曲が、初めてCDで聴いた時以上の感動とともに全身を駆け巡って鳥肌が立ったこと。今でも覚えている。

07-08ツアーにも運良く行けた。前回のツアーではやらなかった"Jamie"と"Lonsome"をやってくれたのが忘れられない。特に「大阪のイベンターの人が好きだと言ってくれたから」と演奏された大好きな"Lonsome"を生で聴けたことは密かな自慢になった。

2008年5月2日、ホームページでそれを知った。「活動休止」。でも不思議とそこまでショックを受けなかった。彼らがいなくても、彼らからもらったものはなくならない。この音楽がこれから先もずっと、自分の中に深く残り続けていくことがわかっていたからかもしれない。

活動休止前最後のツアー、チケットは取れなかった。その時は「自分よりエルレを好きな人が他に沢山いて、自分の好きな気持ちがまだ足りないからチケットが取れなかったんだ」と割と本気で考えていた。痩せ我慢のような強がりだったかもしれない。でも自分の取れなかったチケットで誰かが笑顔になってると思い込めば、少し救われた。

エルレが休止してから、それぞれのメンバーが新たに始めたバンドを聴いた。the HIATUSNothing's Carved In StoneMEANINGScars BoroughMONOEYESも。

特に細美さんのバンドはこの9年追い続けた。

the HIATUSの"Centipede"を聴いた時、「3人組を見失ってしまった」という歌詞に、その3人を思い浮かべた。

2014年のthe HIATUSの武道館公演の日、「エルレが止まったおかげでこいつら(the HIATUS)に出会えた。」と語る細美さんを見て、the HIATUSとして積み重ねてきたものを感じた。

MONOEYESが結成され、"My Instant Song"を聴いた。懐かしいような、そのピュアな音楽に、少しだけエルレの影を重ねた。

去年のMONOEYESのDim The Lights Tourで、"Remember Me"の一節を細美さんは「We are still the same.」と変えて歌った。

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If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same

10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで
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自分も、周りも、沢山のものが変わっていく中で、ずっと変わらないものもある。

エルレのことを忘れたことは一度もなかった。

9月7日。一年に一度、細美さんがエルレの活動休止についてのブログを更新する日。過去9度綴られたその言葉は、今は会えない遠く離れた場所にいる友達から届く手紙のようで、その度にポケットにしまわれた約束を思い出しながら、いつか訪れると信じるその日と、流れていった月日を想った。

9月9日。毎年" No.13"を聴いた。
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I'm waiting here You might not be back
I don't think I'm irrational
I'm waiting here You might not be back
I'm still at No.13

僕はここで待ってる
君は多分戻ってこない
別におかしくないだろ
僕はここで待ってる
君は多分戻ってこない
僕はまだ13番地にいる
(No.13)
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まるで自分たちの気持ちを代弁しているかのような詩。その日はいつも夏の匂いが残っていて、快晴じゃない日もあったけど、同じようにこの曲を聴いてその日を待っている人がいると思うと、心は晴れやかになった。

活動休止前の最後の新木場スタジオコーストでのライブで細美さんが言った「これが最後じゃないからね」。その言葉を信じて、10年間待った。時々、ライブが見たいなって寂しくなる時はあったけど、活動再開を疑ったことは一度もなかった。

この世界には叶わない願いもあれば、果たされない約束もある。でも同じように、叶う願いもあれば、果たされる約束もある。結局は自分が信じるか信じないか、それだけなんだと思う。

10年前に活動を休止したELLEGARDENというバンドの話は、自分にとってはいつだって未来の話だった。

2018年5月10日、ELLEGARDENは帰ってきた。
また一つ、信じるものを信じられる理由をもらった。

"人には誰にもその人だけに贈られたギフトがある"
去年、18年ぶりにニューアルバムを出したどこかの3人組が言っていた。

エルレと出会うまでの自分は、学校で言うとこの典型的な"いい子"で、自分の意見は主張せず、妥協して、目立たず、迷惑をかけないように、物分かりのいい子どもでいようとしていた。でも彼らの音楽に出会って教わった。もっと自分のことを好きになっていいということ。自分の信念を大切にすること。過ぎ去ったことは笑い話になる。失ったとしても、また拾い集めればいい。周りの人と違っていたって、それは君が間違っているということじゃない。雨の日には濡れて、晴れた日には乾いて、寒い日には震えているのなんて当たり前だろう。

エルレの曲は、別れの歌や自己嫌悪、ネガティブな歌詞が並ぶ事が多い。でも別れを歌うのは、その人が大切だったからだ。自分を卑下して傷つけるのは、本当は自分のことを好きになりたいからだ。この世界がクソだと嘆くのは、この世界の美しさを知っていて、誰よりもそれを望んでいるからだ。絶望を歌うことは、希望を描くことだ。誰に何を言われようと、バカみたいな綺麗事を信じて闘う姿に、何度も勇気をもらった。

エルレに出会っていなければ、今みたいな人間になっていない。
エルレに出会っていなければ、今みたいな人生を送っていない。
エルレに出会っていなければ、今まで出会った人たちのほとんどに出会っていない。

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君の手に 上手く馴染むもの
君の目に綺麗に映るもの
それだけでいい 君の手が今も暖かく
君の目が今も綺麗なら
ただそれだけで 僕は笑う

いらないもの 重たいもの ここに置いて行こう
誰もが みな 過ぎ去るなか
君だけが足を止めた そういうことさ
(ロストワールド)
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彼らを知らない人は世の中に沢山いるし、彼らの音楽を聴いても何がいいか全然わかんないって人も大勢いる。でも自分にとっては、ELLEGARDENというバンドに出会えたことが、このたった一度の人生に与えられたギフトなんだと思う。

自分はクソッタレのダメ人間。初めて彼らと出会った15年前から変わらず今も。でも、昔よりずっと自分のことを好きになれた。今がこれまでの人生で一番良い人間だとさえ思える。それでもまだ憧れた背中は遥か彼方。

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いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる
いつかそんな言葉が僕のものになりますように
そうなりますように
(ジターバグ)
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自分を救ってくれた言葉を、自分も同じように誰かに言える人間になりたい。なれるかはわからない。でもそうなりたいと、きっと死ぬまで、その背中を追い続けるんだろう。

10年越しに発表された3カ所のツアー。沢山の人が待っていた。きっとチケットは争奪戦。チケットが取れない人や、そもそもその日に行けない人もいるだろうし、もしくはもう二度と会えなくなってしまった人もいるかもしれない。それでも、この日をずーっと待ってた人みんなが笑顔になれたらいいと思う。昔からのファンも、休止してから知ったファンも、ダイブやモッシュが好きな人も、手拍子したい人も、サークルを作りたい人も、デカい声で歌うのが好きな人も、静かにじっと見るのが好きな人も、初めてライブハウスに来る人も。きっと色んな人がいる。でも根っこの部分、「エルレが好きだ」って気持ちはみんな同じはずで、だとしたら、諦めなければ、その場所に辿り着けるかもしれない。

「全員笑顔にすっかんな:-)」

情熱がかき消されそうな時、現実に飲み込まれそうな時、いつだってその音楽が救ってくれた。

THE BOYS ARE BACK IN TOWN
今度は自分たちが、帰ってくる彼らを笑顔にしたい。

誰1人の笑顔を諦めることない
そんな言葉で。

P.S. チケットの転売の話を聞く。いろんな意見があって、何が正しくて何が間違っているのか、一概に正義や悪を決めつけられるようなことではないように思える。

でもそういうことよりも自分は、エルレがなぜチケット代をこれほど安くしているのか、そのために何をしているのか、それを知っている人間として転売はしたくない。自分はメンバーに会った時、胸を張って「大好きです。」と言いたい。そう言える自分でいたい。自分が転売をしようがしまいがそんなことは誰も気にしないかもしれない。でも一度でもしてしまったことは、誰の記憶に残っていなくても、なかったことにはならない。だから自分は転売はしない。

これが正しいか間違ってるかはわからない。誰かは嘲笑うかもしれないし、誰かは薄気味悪がるかもしれない。でも大事なことは"自分がどういう人間になりたいか"だ。カッコよくないからこそカッコつけて生きて、1ミリでも本当にカッコいい人間に近づきたい。それが誰かにとっては間違いでも、自分にとっては正しい選択かもしれない。

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We never are the saints
But we don't wanna hide
There are many things that are out of our control
Just don't lose your smile
Though someone puts you down
'Cause that is what I love
Give them the middle finger
All we have to say is "We will never be like you"

僕らは全然清く正しくない
だからってコソコソしたくはないんだ
コントロール出来ないことなんて
山ほどあるよ
だけど笑顔だけはなくさないでくれ
たとえ誰かに罵られてもさ
僕はそういうとこが好きなんだ
そいつらに中指たてて
「あんたらみたいにはならないよ」
って言ってやろうぜ

(Perfect Days)
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「最後に笑うのは正直な奴だけだ。」

本当にそうかはわからない。でも自分はそうだと信じてる。

そういうことなんだと思う。


この作品は、「音楽文」の2018年7月・月間賞で入賞した神奈川県・カヲルさん(28歳)による作品です。


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