二周目の青春に誘われた - 新生と再生を繰り返す、Base Ball Bearという光源

今思えば、なんてことのない普通の学生生活を送ってきたと思う。それなりに楽しくて、それなりに悩んで、それなりにぼんやりとして。クラスの中で先頭をきる人気者でもなく、どちらかといえば隅の方で何人かの友達とバカみたいに笑ってるような学生だった。そんな「一度きりの青春」をそれほどありがたくも思わず、噛みしめるわけでもなく、時に流されるまま歩んできた。

この生活を何度も繰り返し、大学4年になった。最後の学生生活。就職活動を進めながら初めて湧いてきたのは、ぼんやりと青春を送ってきたことに対して「恥ずかしい」と思う感情だった。

エントリーシートという企業に提出する自己PR。いざ振り返ると私を形成してきた学生生活のエピソードは、とんでもなく柔くて曖昧で、輪郭のみえない空気のようだった。なにかあったはずなのにはっきりと思い出せない。ペンが動かない。「青春」というものを今まで特別意識してこなかったことに酷く後悔した。

もう一つの要因は、Base Ball Bearというバンドにある。2015年に発売されたアルバム『C2』を聴いたとき、衝撃と同時に怖さがあった。同期を一切使用しないその音作りは、ギターロックに固執した執念ともいえるアルバムは、現代日本の音楽シーンに対する怒りに感じたのだ。私は、このアルバムは完成させすぎてしまった「遺言」のようだと、また一つの音楽の時代が終わる気がした。

『C2』を聴いてから、このバンドをちゃんと追うようになった。過去のアルバムを探ると、そこには必ず青春の影を感じた。私が曖昧に過ごしてきた青春の本質について、音を通して歌い続けていたバンドがここにいた。光に照らされた部分だけではなく、その影を歌うリアリティーに溢れた楽曲たち。そんな青春を生きたBase Ball Bearが辿り着いたのは、一つの遺言であったのだと。完成されすぎた彼らのストーリーの中に、私はリアルタイムで一度もぶつかることがなかった。このストーリーを生きることができなかった。青春の本質を知っていたら、もっと学生生活の送り方も違っていたのかもしれない。もっと毎日を噛み締めていたかもしれない。Base Ball Bearの楽曲を聴くと、そんな自分の愚かさに気づくのだ。

2016年3月。結成15周年&メジャーデビュー10周年の年に、ギター・湯浅将平の脱退が突然発表された。それは本当に突然で、きっとどこの誰もが予想できなかった晴天の霹靂であった。しかし遺言まで残したバンドが次に物語を進めるためには、この一つの通過点を通らないといけない。これは、必然だったのかもしれない。また完成されすぎたストーリーが更新されてしまった。そう考えると私は淡々と受け止めるしかなかった。そして息つく間もなく前を向き、強靭な彼らも歩みを止めなかったのだ。計画していた予定の全てを解体し、一から組み立て直したという。その先にあった一つの答えとして、デビュー・ミニアルバム『GIRL FRIEND』からちょうど10年、初めての3人体制のアルバムが来月発売されることが決定した。
Base Ball Bear 7th Full Album『光源』
発売前からアルバムの内容についてあまり語りたがらない小出祐介が与えた唯一のヒントは、「青春」だった。それは私が学生時代にリアルタイムで体験できなかったBase Ball Bearの楽曲。バンド永遠の主題である「青春」に、もう一度向き合うチャンスを与えられたのだ。

『C2』に収録された「どうしよう」という楽曲ではこう歌われていた。

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またアルバム制作中に行われたツアーのある日の公演では、小出祐介は次のようなことをこぼした。

「Base Ball Bearは常に変化していくバンドです。だからもしかしたら次に出る作品は貴方にとって好みじゃないかもしれない。それはそれで全然いいんです。でもやっぱり僕らは立ち止まらずに変化していくバンドだから、その次に出る作品は、また貴方に合うかもしれない。その時には、またよろしくお願いします。」

遺言のような鉄壁のアルバム『C2』から1年半。彼らは音の中で何度も生まれ変わる。そして二周目の青春に、もう一度向き合う。積み木を重ねるように、成熟した新生と再生を同時に繰り返す。当然大きなリスクも伴う、それでも彼らは変化を選び続ける。なんて頑丈で貪欲なのだろう。でも、そのストーリーが更新される瞬間を追い続けたくなる好奇心とスリルと信頼が、このバンドにはある。青春の終わりを感じていた私を正すように、次の積み木をまた一つ二つ乗せるように、Base Ball Bearという光源を放って訴えてくるのだ。発売前にCDジャケットや曲名、曲順でそれぞれどんな楽曲なのか、どんなストーリーがこのBase Ball Bearのアルバムで繰り広げられるのか、思いを馳せてその日を待ち遠しく指折り数える。きっとあの日あの時にするはずだった思い出を、今まさに体験しているのだとここに記したい。

Base Ball Bearから二周目の青春に誘われた。ぼんやり過ごした学生生活を後悔する私に差し出されたその手は、痛みを知って跳ね返すようなさらに強い原動力を持っていた。そんな彼らのストーリーに、今度はちゃんとしがみつきたい。



4月12日、春がやってくる。私はもう一度、青春を生きる。多分。


この作品は、「音楽文」の2017年4月・月間賞で入賞した透明さん(21歳)による作品です。


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