その日ROTTENGRAFFTYは「最高にロック」を飛び越えた - ROTTENGRAFFTYとHEY-SMITHが起こした、事件じみたライブ

「最高にロック」「最高にパンク」という言葉がある。
主にSNS上で使用される言葉で、定義ははっきりと定まっていないが、とにかく破天荒で、型破りなこと。

自分はその言葉を聞くたびに「過剰表現だな」と感じていた。
現実でそんな出来事が起こることはそうそう無いし、SNSの場において多用される流行り言葉なんだな、程度にしか思っていなかった。

が、そんな斜に構えた自分の気持ちが覆されるライブがあった。

8月4日、ROTTENGRAFFTYのPLAYツアーでのことだった。

PLAYツアーとは、2月28日に発売されたアルバムを記念したツアーで、3月24日の神戸・太陽と虎でのライブからスタートし、10月3日の武道館ライブまで突っ切るというロングツアー。

その日の舞台は山形・昭和SESSION。
秋田、青森、岩手、東北の3箇所を共に回ったHEY-SMITHとの対バンもその日で終わる。確実に何か、良い意味でとんでもないことが起きるだろうな、と期待しかないライブ。

先攻のHEY-SMITHは、前日の岩手に続き、いやそれ以上の熱さを持ったライブだった。

これも岩手から引き続き、「学生時代からずっと追いかけてきた、このツアーをおまえらよりも楽しみにしてた!」と耐えきれないようにそう叫ぶボーカル&ギターの猪狩さんの表情は、見たこともないライブキッズの面影を映しているようだった。

ROTTENGRAFFTYはHEY-SMITHにとって先輩バンド、猪狩さんの言葉を借りるなら「ずっと追っていた」バンド。だからと言って退くことなんてもちろんない、俺らでフロアの体力を奪ってやるぞと言わんばかりのライブ。

もうHEY-SMITHの番が終わった時点で肩で息をし、こんな状態でROTTENGRAFFTYのライブに耐え切れるのか、と心配になった。

それでも後攻、ROTTENGRAFFTYが登場した瞬間に心配は吹っ飛んだ。

フロアを舐め尽くすように見渡すギターのKAZUOMIさん、クールに煽るNOBUYAさんと熱く煽ってみせるN∀OKIさんの、対照的なツインボーカル。ベースの侑威地さんの不敵な笑み、この場を全力で楽しみ尽くすようなドラムのHIROSHIさんの表情。心臓を底から揺らすような音と、ひねくれた心にもダイレクトに届く歌声。

このまま超特急、ラストまで突き進んでいくのだなと誰も疑わないようなライブの最中、突如それは起こる。

曲が終わり、いわゆる幕間の時間。

「なんか変な臭いするな」

と、N∀OKIさんが言った瞬間、たしかにあまりライブハウスでは匂ってこないような、何かが燃えたような異臭が漂ってきた。
正直、N∀OKIさんの言葉の意味も臭いの意味もわからず、思考が停止してしまったのを覚えている。

一瞬で波のようにフロアはざわめいた。
一時、演奏は停止。
スタッフの方々やメンバーが難しい顔をして、対処をはじめる。

どうやら、ステージの上手側、ギターのKAZUOMIさん側の機材に異常があったようだった。

燃えたのか、爆発したのか。
メンバーの口から物騒なワードが出る。

自分自身、普段のライブハウスでは見ることがない異様な雰囲気に、落ち着かない気持ちになった。
純粋にこれは大事故につながるんじゃないか、という不安と、ライブが中止になるんじゃないかという不安。

だが、そんなフロアの気持ちを一瞬で汲み取ったように、N∀OKIさんがマイクを手に取りフリースタイルをはじめた。
N∀OKIさんの口から即興で繰り出される音と言葉に、シリアスな表情をしていたメンバーたちもにやりと笑みを見せながら、フロアを煽る。
その光景を見て、すぐにさっきまでの不安は吹き飛んだ。
フロアにも、N∀OKIさんと、ロットンのメンバーが作り出した空気は伝播し、次第に普段のライブのように、手を叩いて音に乗っていた。

そしてまだ落ち着かない、不測の事態に対して「こんなの CDには残らんやろ?」と笑ってみせたN∀OKIさんに、フルで頷いてしまった。

そんな状況のなか、

「ちょっと待ってくれ!」

少し緩んだ空気を断つように、KAZUOMIさんがそう言った。
ああやっぱり呑気に笑ってられているような状況じゃないのか、と身を硬くした瞬間、「・・・・・マニュアル02.5」がはじまる。

あまりのことに意識も身体も硬直し、けれど瞬時に沸騰しそうなくらいに血が巡ったのを感じた。

数十秒ほど、一瞬ではじまり一瞬で終わったその曲は、不測の事態で戸惑ったフロアの空気を一気にかきまぜて、熱くした。
もう訳もなにもわからないまま、思い切り拳を振り上げ叫んだ。
あまりの出来事にまだ心臓が収まらないでいると、メンバーからしばらくの中断を告げられた。

「ライブハウスの換気を行うので、一旦バンドマンは退場して、それから再開する」とのこと。

それはしょうがない、もしものことがあったらいけないんだから。
適切な処置だし、不満なんてもちろん抱く暇もなくそう納得していたが、そこからがまた混沌状態だった。

一回はける、と言ったはずなのにROTTENGRAFFTYの面々はなかなか退場せず、
KAZUOMIさんが楽しいことがあったかのように突然笑い出し、N∀OKIさんはベースの侑威地さんとドラムのHIROSHIさんとフロアではしゃぐ。
そうしているうちにHEY-SMITHの面々もつられたように登場した。

まるで修学旅行のようなテンションと化したメンバーのよそに、ボーカルのNOBUYAさんが落ち着いた様子でフロア全体を気遣う言葉をかけてくれた。

そして「俺らがはけな換気できへんやん」と、我に返ったように言ったN∀OKIさんの言葉をきっかけに、ようやくバンドマンたちはステージから去っていった。

起こったことは間違いなく非常事態なのに、非常事態をオモチャにして転がすような、ROTTENGRAFFTYとHEY-SMITHの不敵な姿に、なんというか、衝撃を受けた。

数多のライブをくぐり抜け、何度も戦ってきたバンドだからこそできるんだ、と感じた。
もう、先ほどまで抱いていた不安はどこかに行っていた。

ライブハウスのドアが開き放たれ、換気がはじまる。

ライブの再開を待つ間は、まだまだ興奮するフロアに向かって、スタッフの方々が「少し後ろに下がって、座るように」と優しくユーモアを交えた言葉で促してくれた。

きっとバンドマンの皆さんが、あれほどまでに自由に、逆境を楽しむことができるのは、ライブハウスやバンドチームの方々のおかげでもあるんだなあと、心中で感謝した。

そうやっているうちに、とても永いような、逆に一瞬で終わったような中断期間が終わる。

突然ステージの照明が点いた。
ハッとステージを見上げると、先ほどまでと変わらず、いやもっと勢いを増したテンションでROTTENGRAFFTYのメンバーが現れた。

束の間の不安と、しばらくのお預けを食らったことが逆に燃料となり、ライブハウスには異様な興奮が満ち満ちていた。

再開後の曲は「So...Start」。

メンバーのラジオでの発言いわく「仕切り直し」でも「リスタート」でもなく、「走り続けながら加速する」という意味が込められたこの曲は、再開後にはこれ以上にない、というくらいにぴったりで、頭が痛くなるくらいの熱をあふれださせるのには十分だった。

これはもちろんのことだが、機材の異常が発生する前から、ライブの盛り上がりは凄まじかった。
いつだって、フロアを狂乱に叩き込むROTTENGRAFFTYに、親交の深いHEY-SMITHとの対バン。
それも両バンドが3箇所もライブを共にした、このエリアではラストのライブなわけだから。

それでも、そんな盛り上がりをはるかに呑み込み、再開後のライブは狂っていた。

お客さんはもちろんのこと、ROTTENGRAFFTYのメンバーのギラギラした表情と煽りと言ったら、もう忘れられない。

1曲1曲が、確実にライブハウスを揺らして1発で仕留めるような凄まじさ。
自分も、これだけ人生で叫ぶことはあるのか?これだけ拳を振るい、暴れることはあるのか?というくらいに、我を忘れ、ステージにかじりつくように熱狂してしまった。

ROTTENGRAFFTYのライブでも、かなり異色というか、どこか殺伐としながらも、異様な熱さを生み出す「零戦SOUNDSYSTEM」という曲がある。

この曲が来たときの盛り上がりと言ったら、お客さんはもちろん、なによりまずメンバーの狂いぷりが凄まじい。

自分だって零戦SOUNDSYSTEMの、和楽器のようなギターイントロからずぶりと戦場に引きずり込まれるようなところが大好きで大好きで、この曲が来ればライブ中なのも関わらず、思わず手を合わせてしまう。

そんな零戦SOUNDSYSTEMが、ライブの中断を経てふつふつと煮えたぎった状態に投入されたものだから、そのあとはもう大変だった。

ギターのKAZUOMIさんが、もう我慢できない、耐えられないとでもいうような声音で「何かスイッチ入ってもうた」と言い放ち、「音で●す!音で!●すッッ!!」と不穏なワードをマイクに飲み込む勢いで叫ぶ。
その恐ろしいシャウトとともに、HEY-SMITHのトランペッター、イイカワケンさんが登場、粛々と号令をかけるようにトランペットを吹き鳴らす。

信じがたいくらいの演出と雰囲気に、完全にやられ、そこからは頭がちぎれるくらいに、腕が取れるくらいに、気持ちより先にまず身体が動いた。

そこから、息をするのも、0.1秒目を閉じるのだって惜しいライブを、最後まで走りきった。
自分の身体から途切れることなく流れ落ちる汗は、メンバーだって同じ、いやそれ以上の汗で、衣装や髪の毛をざあざあ降りの雨のように濡らしていた。

あまりの勢いと興奮のるつぼに、メンバーは時に苦しげなくらいに息を吐き、時に満面の笑みを見せながら、全力を見せてくれた。ギターのKAZUOMIさんに至ってはフロアに膝をつくほどの状態。
山形SESSIONは、もはや事件現場のような惨状だったと思う。

山形でのライブの余韻は、1日、3日、1週間経っても、というかセミファイナルも終え、武道館を目前に控えた今だって、思わず笑い出したくなるような多幸感を持って続いている。

混乱の最中、N∀OKIさんの言った「一生忘れられない思い出になったな」という言葉が、実感を持って沁みてくる。

たとえばいつか、ロットンのことを大嫌いになることがあるとしても、あるいは全く今のような熱意がなくなって追わなくなったとしても、多分あのめちゃくちゃなライブのことは忘れないと思う。

1回1回のライブで、必ずお客さんになにか爪痕を残そうと、忘れがたい思い出を残そうと、全力を尽くす。
手なんてもちろん抜かないんだと。

ROTTENGRAFFTYはそういうバンドだ、と感じた。

こんな風に長々と書き連ねても、きっとあの日のライブの素晴らしさと、パニックにも近い熱狂は、全く表現できていないと思う。

まさに「最高にロック」「最高にパンク」、それまで誇張表現だろうと疑っていた言葉すら、遠く遠くに置いていく。

N∀OKIさんがいう通り、CDにも、DVDにも、YouTubeにも、何にも残ることができない、ただただあの瞬間にだけ生きたROTTENGRAFFTYのライブだった。


この作品は、「音楽文」の2018年10月・月間賞で入賞した大阪府・四郎さん(23歳)による作品です。


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