私は英語が苦手だ。
そんな私は俗に言う「スラング」を、英語の授業で習った「使ってはいけない侮辱の言葉」としか認識していなかった。
それを大好きな星野源が、思いっきりよく新曲のサビに放り込んできた。
人によっては「聴いてはいけない音楽」とまで言われている。
けど、楽曲を聴いて、それが排除されるなんて、どうにも納得できなかった。
Same Thingの歌詞はこうだ。
公式サイトから日本語訳詞を含めて引用する。
>> I’ve got something to say(みんなに言いたいんだ)
>> To everybody, fuck you(Fuck youって)
>> It’s been on my mind(ずっと思ってたんだよ)
>> You know I meant it with love(心から愛を込めて)
確かに、とても聞き覚えのあるスラングが入っている。
けど、愛が込められているこれが「使ってはいけない」のか?
源さんは誰かを侮辱しているのか?いや、これを見る限り、それはない。
自身がパーソナリティをつとめる「星野源のオールナイトニッポン」でも楽曲に対する解説があったけど、その言葉は誰かに対してではなく「世の中のどうにもならない不条理」に対するニュアンスを強く感じた。
けど、これは私自身が源さんの言葉を積極的に聞いたから理解したことであって、一般的にはどう捉えるんだろうか?
先日どこかで読んだ記事に「8歳の子とライブに行った時にSame Thingを聴き、その言葉に顔をしかめた」という親御さんの話があった。
使ってはいけない言葉だもの、侮辱だもの。親としてはそれはまあ、そうだろう。
幼い子が簡単に使ってはいけない!というのは理解できる。
「通りすがりの見知らぬ人にそんな発言をしたら、いきなり銃で撃たれても文句は言えない」とも聞いた。
とは思いつつも、正直Fuck(以下Fワードと呼ぶ)って言葉は、とにかく頻繁に耳に入るのだ。
字幕で洋画を見てると俳優さんがよく叫んでるし、Apple MusicのランキングではEマーク(Explicit Content:露骨な表現の意)が大半を占め、アーティストのコメントにも頻繁に使われている。
これが全て「使ってはいけない侮辱の言葉」なの?
なんでそんなに多用されているの??
どうして、それが黙認されているの???
もはや疑問符しか出てこない。
学がないなら、学べばいい。
改めて、Fワードについて調べてみた。
Fワードは相変わらず「罵る言葉として最強かつ最凶、下品なことで有名な最低ワード」らしい。
日本語で「クソ」と表現されることもあるけど、どうもニュアンスはもっとずっと凶悪だ。
しかし最近では「仲の良い友人など、繋がりの深い関係での日常会話ならOK」という解釈もある。
ちなみに語尾に「you」が付けば本気の怒りや明確な敵意を表すが、「this」が付けばマジ最悪くらいの意味合いに変わる。
なんていうか、とんでもなく解釈に幅がある言葉だ。
調べていくうちに、面白い解説に出会った。
それは音楽のレーティングに関する説明だった。
前述したがEマークは「explicit Content(露骨な表現)」の略だけど、その説明の前にもうひとつ単語があった。
それが「Parental Advisory(保護者への勧告)」という言葉だった。
読み進めていくと、Eマークの意味は「その楽曲を無条件で聴かせない」ためのものではなかったのだ。
その内容を大まかに書いてみるので、ぜひ、これを見て欲しい。
「露骨な表現があるけど、言葉には様々な意味がある。だから、その歌詞の意味には何通りもの解釈がある。そこを親御さんが判断した上で聴かせてね」
私が思っていた「Fワード=使ってはいけない侮辱の言葉」の公式が、弾け飛んだ。
日本では悪いものは即排除、という図式がよくある。
けれども、少なくとも音楽の世界では排除なんてされていなかった。
もちろん使うことが推奨されている訳じゃないし、使い方には十分な注意が必要だろう。
けど、その音楽は、その言葉は、確かに存在する。
誰だって、理不尽に悩むことがあるだろう。
誰だって、ままならない現実に打ちのめされるだろう。
誰だって、抑圧された気持ちを抑えられないことがあるだろう。
それを叫んだっていいじゃないか。
残念ながら、この世は楽しいだけ、嬉しいだけじゃない。
苦しみも悲しみも憎しみも妬みも、自分自身の立派な感情だ。
エゴ?自分勝手?それでいい。
世の中に対する不満を叫ぶことの、何が悪い。
マイナスの感情があるから、プラスの感情を感じることができる。
それなら、クソみたいな不満も全部ぶちまけて、最高に面白いことをしよう。
そんな感覚がまとまった瞬間、「Same Thing」をもっと大好きになった。
星野源の楽曲を聴くと、なぜか自分と向き合えることが多い。
先日、源さんがApple Musicで「圧縮して届けて、聴いた人の中で咲くような、そういう歌詞がとても好き」と言っていた。
まさにそのとおりで、源さんの楽曲と歌詞の端々には、共感できる世界が幾重にも拡がっている。
時に自分の深層心理に入り込んで、瞑想でもしているかのような感覚に陥る。
「さらしもの」なんて芸能界での有り様を綴ったものだろうけど、私は「仕事や子育てでその役を演じるしかない自分」のことのように思えて、一緒に泣く始末だ。
そんな様々な感覚や感情を表現するために、綺麗な言葉もどす黒い言葉も、それぞれを認めてもいいのではないだろうか。
ただ闇雲に「これはダメ」と封じてしまうことは、あまりにも自分自身を狭めてしまう気がしてならない。
日本は特に道徳を重んじる社会だし、悪しきは全力で排除する傾向が強い。
だからこそ、色々な方向から物事を見られるようになりたいなあと強く思った。
最後に、先ほどの歌詞の続きを、公式サイトから引用する。
この言葉はきっとたくさんの人を救うし、きっと笑顔にすると思う。
星野源、最高だよ。
>>I just thought it’d be fun(「楽しそう」って思うのも)
>> Went through a whole lot so fuck this(「最悪だ」って落ち込むのも)
>> They all mean the same thing, you know(どっちも同じことなんだ)
>> We alright, change it up, do your thing(それで大丈夫 それでいい)
この作品は、「音楽文」の2020年1月・月間賞で入賞した北海道・にたこさん(44歳)による作品です。
星野源の言葉を考察する - Same Thingは「聴いてはいけない音楽」なのか
2020.01.17 18:00