スキマスイッチが15周年記念ライブで描いた過去と現在と未来 - "あの時から全てがこの場所まで繋がっていた"

"あの時から全てがこの場所まで繋がっていた"

2018年11月11日。横浜アリーナのステージ上で、「リアライズ」という楽曲を最後に歌ったボーカルの大橋卓弥(敬称略、以下大橋)は、"この場所"として、ここ横浜アリーナのステージ上を指さしていた。
15年メジャーシーンで活動をしてきても、5年刻みの周年のたびにアリーナ規模でのワンマンツアーを行っていたとしても、まだ単独では立ったことがなかったこの横浜アリーナのステージ。やっとたどり着いたこの舞台。
まだ未開拓のルートだからこそ、"この場所"としてこの地を選び、そして力強い声で、今後への決意も込めて、このフレーズを歌っていたように、私の耳には届いた。

「SUKIMASWITCH 15th Anniversary Special at YOKOHAMA ARENA~Reversible~」
2018年11月10・11日の2日間にわたり、今年デビュー15周年を迎えたスキマスイッチが「周年記念ライブ」と銘打って開催したライブ。
2日間とも、指定席はSOLD OUT。2日間で28000人もの観客を動員したそうだ。

普段は、「お客さんとの距離感を大事にしたい」と語り、ホールでの公演が多い彼ら。
東京国際フォーラムのホールAですら、「一番後ろのお客さんの顔が見えなくて大きすぎた」といったような旨を過去に語っていたこともある彼らの今回のステージは、センター席をぐるっと一周囲むように花道が作られていた。
MCをしながら二人はステージと対極の方面へ歩いていく。
時には通路の目の前のお客さんに会釈をしながら。ツッコミを入れながら。
普段、ステージの定位置で鍵盤を弾いている常田真太郎(敬称略、以下常田)は、歩きながらスタンド席の上まで視線をやって見渡したり、ちょっと浮かれながらも、ちゃんと声が届き 声を返す、そんなコミュニケーションをとってくれたりしていた。
さすがに14000人が一同に会すると、みんながみんな同じ距離感で対峙することは難しい。
けれども、できるかぎり多くの人たちの顔が見えるように、そんな配慮をしてくれているように感じられた。

ここで言う「多くの人たち」は、"この場所"にいた人たちだけのことではない。
15年の歩みのなかで、出会いと別れを繰り返してきた彼らは、今回のライブで「全編撮影OK」という試みを行っていた。
会場に入った瞬間に手渡されたフライヤーの一番上に入っていた、イラスト入りの直筆のメッセージ。
ここに書かれていた彼らの想い。それは「この場にいない人への感謝の気持ち」も込められたものだった。
ツアーをやるたびに必ず来てくれる人、いつでもどこでも、遠くからでも足を運んでくれる人が「ファンの全て」ではないということを、彼らが一番よく理解している。
見えもしないものを想像して行動することは、とても難しいことだと思うのだけれど、この二人はそれを実現してくれているのだ。

15年という長い月日と試行錯誤の中で、彼らも私たちも同じように歳を重ねてきた。
ライブ本編でも、「高校生のときに僕らを知ってくれた人がいま30歳になっているってこと」と大橋が語っていたが、私自身もまさにその世代だ。
お金がなくて、なかなかライブに足を運べなかった学生時代。社会人になってお金の自由は増えても、仕事で身動きがとれなかった時期もある。この先、人生の歩みを進めていくなかで、彼らになかなか会えなくなってしまう日も来るかもしれない。現在進行形で、そういう状況な人もいるであろう。
決して、愛が薄れたとか、そういう話ではないのだ。でも、そういう状況になってしまうこともある。
そういう人たちも、全部ひっくるめて「ファン(=応援してくれる人)」であることを彼らは重すぎるぐらいに受け止めて、そして彼らなりの形で返してきてくれている。
現地に来れなかった人たちの想いも、途切れないように暖めていこうとしてくれている。
今回の撮影解禁への想いを、私はそんな風に受け取った。
この日、この会場にいない友人たちの顔も思い浮かべながら、私はシャッターを切った。

ライブ本編のセットリストは、15年の歴史を巻き戻しながらも、最終的には「現在」に戻ってくる、そんな趣向を凝らした構成。
1日目と2日目で、ほぼ"Reversible(逆向き)"な曲順。
1日目の最後に着ていた衣装を身に纏った二人が2日目のステージに上がってきたとき、そして1日目の本編最後に演奏した「全力少年」が2日目の最初に演奏され始めた瞬間は、時空が歪んだような不思議な気持ちになった。
この瞬間に"Reversible"の意味をひとつ理解したような気持ちになったし、「1日だけでも2日通しでも楽しめる世界観になっている」といった旨を本人たちが前もって話していた意味も、わかったような気がした。

スキマスイッチのライブは、こういった細かい仕掛け含めておもしろい。
純粋に音楽を楽しみながらも、思考を巡らせ「こういうことなのかな?」と、ライブを観ながら考える。
曲や曲順、構成にも二人の互いに持ち寄った無数の知恵が滲み出ている気がするから。
そして、その想いを汲み取ったうえで、その場の空気やライブの世界観を反映させたアドリブ感溢れるバンドメンバーの演奏も私は好きだ。
遊び心たっぷりな大橋が、急に即興でいつもと違うメロディーを歌い出してもすぐに意図を察知し、音で応えるメンバーたち。
この2日間にも、そんな息ぴったりな瞬間が何度となくあった。
重ねた日々が、自然とその瞬間の最適解へと導いてくれるのだ。

音楽だけでなく、幕間の演出までメッセージ性が溢れていた今回の公演。
それでもやっぱり、一番印象的だった場面は二人のありのままの僕を君に届けたいという、人間味らしさが溢れた最後のMCだった。
大橋が2日間来てくれたお客さんや15年支えてくれているスタッフ、そして今までスキマスイッチと出会ってくれた人たちへ感謝の気持ちを述べた後、「あなたも何か話したらどうですか」と常田に促した瞬間に、彼は堰を切ったように想いの丈をクチに出し始めた。
もう音楽を辞めてしまったという先輩から、昔もらった言葉。「続けていくことの大変さ」。周囲の人への感謝の気持ち。
今まで通った道を思い出しながら、眼前にある降り注ぐ喜びの色を目に焼き付けながら、「皆さんが支えてくれたから今ここにいる」と語った。

その言葉を頷いて受け止める大橋。
そして、彼は彼なりに「自分の“才能”という壺の中に入っている水が、曲が生まれる度に枯れてしまうんじゃないか、この曲が最後の1曲だったんじゃないかと毎回思う」という、表現者なりの悩みを語り始めた。
成功の影にいつだって憂いはつきものなのだなと思いながら、彼が発露する悩みを聞いていたけれど、その言葉を聞いた瞬間に即座に常田は手を挙げた。
そして彼の口から出てきた言葉は、「俺が(その水を)入れてやるよ」だった。

一瞬きょとんとした大橋は、少し照れ臭そうな笑みを浮かべながらも、次なる言葉が出てこないこの状況を茶化して、「Revival」のサビ"揺れる揺れる 心と心が"のフレーズをギターを弾きながら歌い出し、主題歌を手がけていたドラマ「おっさんずラブ」のパロディーをするという笑いの展開に持っていって空気を強引に変えていたが、内心はどう思っていたのだろう。
君の思い通りだ…と悔しかったりするのだろうか。
個人的には、このやりとりに絶妙なバランスと安心感な「今のスキマスイッチ」が詰まっているように思えた。

いったい僕らはどこへ向かうんだろう…と思いながらもがむしゃらに活動していた最初の5年。
僕の道って合っているのかな…と思い始め、それぞれの道を歩んでみた1年間。
「スキマスイッチを続けたい」と旅の答えを見つけ、再び一緒に歩み始めてからもうすぐで10年。
性格も、考え方も、ペースも決して「似て」はいない二人。けれども、「音楽」をきっかけに同じ歩幅で歩いてくと決めた二人。
限界を知りたくなんてないと、常に新しいことに挑戦していく姿は、見た目に反して、そして想像以上のストイックさを持っているし、「生き様を選ぶのは、自分だ」と、私たちへ自らの身を持って伝えてくれているような気すらしてしまう。
それが、私の視点から見た「今のスキマスイッチ」だ。

そんなことを改めて感じた後の締めくくりの曲、「リアライズ」。
演奏が止み、14000人の観客と一丸となって大合唱した最後のパート。二人の潤む目に浮かぶのは涙……だったのだろうか。

最後に常田がぼそっと「リアライズは過去と未来を繋ぐ曲」だと語っていた。
"Reversible(表裏、可逆性)"と題したライブの1日目の最後を締めくくったのは、一番最初に出したミニアルバム「君の話」の最後を締めくくっていた「ただそれだけの風景」。
そして、2日目の最後を締めくくったのは、最新アルバム「新空間アルゴリズム」の最後の曲「リアライズ」。
「ただそれだけの風景」に出てくる"桜並木道で僕はうつむいている"というフレーズ。
この「僕」と、「リアライズ」の冒頭に出てくる"帰り道見つけた石を蹴り続け家までいけるとそれで嬉しかった"という「僕」は、同一人物なのだろうか。
俯いている「僕」と、石を蹴り続け、下を向いて歩いている「僕」。
ただそれだけのことなんだけれども、奇しくも「ただそれだけの風景」に出てくる花、タンポポの花言葉は「真心の愛」と言うらしい。
ここにもまた、メッセージがあったりするのだろうかと、疑り深い私はつい考えてしまうのだ。

夢のような2日間が終わってしまった今、今回の公演に込められた本当の意味は一人で探すしかないのだけれど、SNS上で「#スキマ15」のハッシュタグを検索すると、まばゆいばかりの思い出たちがたくさん残されている。
お客さん一人ひとりそれぞれの席からの視点、似たような位置でも人それぞれの切り取り方で"Reversible"の世界は確かに残されている。
そんな思い出の中をクロールしながらまた、次なる彼らの道筋を予想する今も楽しいひと時だったりするのだ。

5604日分のメロディーと言葉をパッケージして届けてくれたこの2日間。
16年目以降のスキマスイッチが、どのような夢への放物線を描くのだろうか。
「25年、30年とこれからもやっていきたい」と力強く語ってくれた二人の言葉を思い出しながら、これからもまた二人に驚かされ続けていきたい。驚かせてね。
そんなことを思いながら、私は今日もまだ余韻に浸っている。


この作品は、「音楽文」の2018年12月・月間賞で最優秀賞を受賞した東京都・蒼山静花さん(30歳)による作品です。


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