口をむすんで - plentyに何度も出会う

plentyには二度出会った。
一度目は16歳の時。偶然目にした雑誌のインタビューで気になって気になって、買った「拝啓 皆さま」。膝を抱えた少年が印象的なジャケットのそのCDから聴こえてきたのは無視できない声だった。鋭くて繊細で、真っ直ぐで強くて冷たい、どうとでも聞こえる不思議な歌声が「大人」や「他人」「世間」に冷たい目線を浴びせて、その仮面を引っぺがす。あるいは肥大した「自分自身」や「自尊心」に冷たい指先で小さく爪を立てる。16歳の私には衝撃だった。こんなにも空虚な音楽があるのだろうか。こんなに色味のない音楽があるのだろうか。「存在しているもの」に光を当てることが表現だと思っていたあの頃の私には「存在しないこと」「空虚であること」ばかりを歌う彼らは衝撃だった。
それなのに彼らの音楽を聴き続けたのは、それと同時に安心したからだと思う。plentyの空虚さに触れて、何も持っているふりをしなくていいのだと思えた。素晴らしい自分であるという思い込みを手放していいのだと思えた。「何もない自分」を見つめ、認めることができたのだ。

二度目に彼らに出会ったのは24歳の時だった。たくさんの音楽を聴くようになって、少しplentyの音楽とは疎遠になっていた。多くのバンドのアルバムを聴いて、色んなライブに行った。次々に消費してく自分に疲れていたのだと思う。こんなにたくさんの音楽があるのに心から聴きたいと思えるものがない。
そんな思いにとらわれていたとき、ふいに聴き直したのはplentyの3rd album「いのちのかたち」だった。素晴らしかった。以来、目が覚めたみたいに彼らの音楽ばかりを聴いた。
とても曖昧で、それでいて確かなもの。
彼らの歌に結論はない。無理に意味づけたり、名づけたり、分類したり、答えを出したりしない。ただそこにあるがまま、その現象を、その事実をありのまま鳴らす。そこには何も尤もらしい意味はない。

- きみにもまっかな血がながれているのならば -
- 言葉に甘えすぎず、心に宇宙をもつのさ -
- 口をはさまず みみをすまし 目をつかわず かんじて -

彼らの音楽を聴きながら、私はこんなにも無駄に太って、いかに頭でっかちで言葉に頼り切って、いかに愚かだったかを知る。彼らの音楽を聴いていると肥大化した自意識がそぎ落とされていく気がするのだ。それは絶望であり、同時に希望でもある。こんなにも思案して、こんなにも言葉で言い表そうとして、そうやって周りに起こること全てに意味を見出して、答えを探そうとしてしまうけれど、この世界はそう簡単には言い表せも、意味づけもできなのだとありありと知る。私は無力で、未熟で、愚かで、ちっぽけで、ただ圧倒的にこの世界の一部なのだと知る。
そんな絶望とそれでいて確かな希望を同時に覚える。この世界の一部でしかないという絶望、それでいて逃れようもなくこの世界の一部であり、この世界に生かされているという喜び。あるいはこの世界が抱えきれないほどに広いという怖さとその広さに身を浸す喜び。

こうして言葉にしてはみるけれど、plentyを聴いていると、言葉などあっという間に溶けていく。言葉にすることのなんて無力なこと、なんて無益なこと。どんな言葉でも言い表すには遠い。言い表せられないという絶望を知って、言い表せないものに出会えた喜びを知る。
plentyを聴いていると、絶望は希望に変わるし、希望は絶望になる。哀しみは身に余るほどの喜びになり、喜びは絶対的な悲しみになる。空虚は安堵に変わり、孤独は確かなる決意へと変容していく。そこに決められた意味などなく、決められた名前などない。ただ確かに私が感じたものを、感じたままに抱きしめている。それで良いのだと思える。いつの間にかすっかり無垢になり、無力になり、圧倒的なまでにこの世界と一体になり、渾然一体となって回っている。
それはすなわち宇宙だった。果てのない闇に放り出され、常識という枠組みから取り残され、ただ空虚であたたかな闇に抱かれて漂う。

あの時も、あの時もplentyに出会えて本当に良かった。速すぎる時の流れに翻弄されるけれど、溢れかえる意味や概念にとらわれて動けなくなってしまいそうになるけれど、彼らの音楽を聴いているときだけは、流れていく時間に気持ちだけは立ち止まることができる。押し迫る意味や概念からするりと抜け出して、この身一つで自由になり、その心許なさに怖さと喜びを感じることができる。
私は、私たちは、彼らがいなくなっても、何度だってplentyに出会う。出会いなおすことができる。
そして何度だって新鮮に目を開かされて、この世界の広さに、あいまいさに、単純さに、深さに、ただただ黙るのだ。


この作品は、「音楽文」の2017年7月・月間賞で入賞したナナシさん(25歳)による作品です。


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